ジャガー12気筒よりも高価だった!? ロータスが放った不遇の2+2クーペ
クラシックカー趣味の本場であるイギリスで開催される国際オークションには、年代や洋の東西を問わずあらゆるジャンルのクルマが出品されます。一方で、かつて英国で作られ、今なお英国内を中心に愛されるドメスティックなクラシックカーの出品が多く見られるのも英国オークションの面白い特徴です。今回は人気スポーツカーブランドでありながら、現状ではマイナーな存在であり続ける不遇な車種となっているロータス「エクラ」のオークション結果をお届けします。ロータスが「キットカーメーカー」から「高級GTカーメーカー」へと格上げしようともがいていた時代の、もっとも過渡期にあるモデルの現在地を紐解きます。
1970年代スポーツカー「冬の時代」に高級路線へ舵を切ったロータス
英国のクラシックカー専門誌が主催するトレードショー「The Classic Car and Restoration Show 2026」に際して、英国のアイコニック・オークショネア社が、2026年3月21日から22日にかけて公式オークションを開催した。そこに出品されたのが、ロータス「エクラ」である。
オイルショックや排ガス対策の法制化などの障壁が立ち塞がり、スポーツカーが「冬の時代」を迎えつつあった1970年代。ロータスカーズの創始者にして、F1の世界に技術的にもマーケティング的にも革命をもたらした人物が、天才エンジニアにして実業家のコーリン・チャップマン(Anthony Colin Bruce Chapman)です。一方で、自動車界きっての策士としても知られたロータス社会長(当時)、コーリン・チャップマンが選んだのは、ロータス「エラン+2」に代わる同社のフラッグシップモデルをより高級なグランドツアラーに仕立て、高級車マーケットに打って出るという方策だった。
1975年10月のロンドン・ショーにて世界初公開された「タイプ76」ことロータス エクラは、同時にデビューし、ロータスでは本命と見なしていた「タイプ75」ことロータス「エリート」のボディ後半部を、ファストバック2+2の2ドアクーペ化したものだ。
エリートの「シューティングブレーク(貴族の狩猟用馬車をルーツに持つ、優雅で実用的なスポーツワゴン)」スタイルに対して、よりスポーティなルーフラインを持っていた。エリートよりも若干ながらリーズナブルな価格設定をしたモデルであり、1972年に初の試作車が製作された際には「エリートクーペ」とネーミングされる可能性もあったという。
シャシーは、エラン以来のロータスの伝統となっていた全鋼製X字形バックボーンフレームに、4輪独立のサスペンションの組み合わせ。ボディはロータスのセオリーに従ったFRP製とされた。
OEM供給していた直列4気筒DOHCエンジンを搭載
パワーユニットは、ロータスがすでに「ジェンセン ヒーレー」用としてOEM供給していた「タイプ907」エンジンを採用した。英ヴォクスホール社製の実用車用ユニットをベースに開発したこの直列4気筒1973ccのエンジンは、ブロックとヘッドともにアルミ合金製で、ブロックは最初から45度傾けられたかたちで設計されている。
ヘッドはDOHC(ダブル・オーバーヘッド・カムシャフト)で、当時の市販車ではまだ貴重だった1気筒あたり4本のバルブは、コッグドベルトで駆動。イギリス本国をはじめとする欧州市場向けは155psを発揮する一方で、北米や日本など排ガス対策の厳しい市場向けには140psの仕様が用意された。
しかし、チャップマンの「エクラ」の目論見は大きく外れてしまう。とくに初期にはクオリティ不足に見舞われたことや、販売価格がV12エンジンを搭載したジャガー「Eタイプ」を上回る高価格車となってしまったことも足かせとなり、販売がまったく振るわなかったのだ。
そして1980年5月には、エンジンが2174ccに拡大されるとともに、西独ゲトラグ社製の5速MTを与えられた「シリーズ2.2」へと進化を遂げる。しかし、約1500台が生産された1982年末ごろをもって、エクラから発展した事実上の後継モデルであるロータス「エクセル」に一本化されるかたちで、エリートともども生産を終了することになった。
高級GTメーカーへと格上げしようとした時代の過渡期だったエクラの落札価格とは?
今回オークションに出品されたロータス エクラは、1979年式のシャシーナンバー「79010770D」である。英本国仕様の右ハンドル車で、シリーズ1の中途から選択可能となった5速マニュアルトランスミッションが組み合わされている。
ボディカラーは「チャンピオンシップ・ゴールド」。ベージュのレザーインテリアとのゴージャスな組み合わせは、半世紀近く前に新車としてデリバリーされた当時からのものと推定されている。
2020年に現オーナーが購入して以来、過去6年間にわたり大切に乗り続けられ、オークションカタログの作成時点における走行距離は、年式からすれば少なめな5万7897マイル(約9万3100km)にすぎない。また現オーナーの所有期間中に、ロータスのスペシャリストである「ロータス・ビッツ」社にて、機械的なメンテナンスのために1万1495ポンド(約246万円)が費やされたとのことである。
ただ、エクラとその後継のエクセル、エリートに至るまで、リアバンパーに組み入れられたテールのコンビネーションランプがデザイン上の大きな特徴となるはずだが、この個体は経緯こそ不明ながらロータス「エスプリ(S2)」のリアライトとダックテール型スポイラーが装着されている。さらに、サードパーティ製と思しきフロントスポイラーやサイドスカートも装備されていた。
アイコニック・オークショネア社では今回の出品にあたって、8000ポンド〜1万ポンドのエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
ところが迎えたオークション当日、現在のレートで日本円に換算すると約139万円(6525英ポンド)で競売人のハンマーが鳴らされることになってしまったのだ。
これまでに費やした修理代の約半額というハンマープライスが、いささかシビアな結果となってしまった理由としては、テールランプやエアロパーツなどの独自モディファイが影響を及ぼした可能性は否めない。さらにまずはなにより、現在の国際クラシックカーマーケットにおけるエクラの人気が高まっていないことこそが、主因として挙げられるべきなのだろう。
「キットカーメーカー」から「高級GTカーメーカー」へと格上げしようとチャップマン自身がもがいていた時代の、もっとも過渡期にあるモデルだったことも忘れてはならない。とはいえ、チャップマンのスポーツカー製作の哲学であった「”Simplify, then add lightness.” (シンプルにしろ。そして、さらに軽くしろ。)」という法則からは対極にあるこのモデルが、スポーツカー愛好家やロータスファン、そしてチャップマンを敬愛する向きには受け入れ難い存在と言えるのかもしれない。
今回の結果を見て改めて思うのは、クラシックカー市場の奥深さである。果たして、いつかこの不遇の名車にも正当な評価が下る日が来るのだろうか。
※為替レートは1ポンド=214円(2026年5月25日時点)で換算
