極上のいすゞ「ジェミニ」で初参戦! 誰でも楽しめるデイラリーの世界
JAF公認のモータースポーツでありながら、初心者でも気軽に参加できる「デイラリー」。その関東シリーズ第2戦「パープルラリーがまツアー2026」が、2026年4月に筑波山の山麓で開催されました。このイベントに、かつて「街の遊撃手」というキャッチコピーと衝撃的なカースタントCMで一世を風靡した名車、いすゞ「ジェミニ・イルムシャーR」で初参戦を果たしたご夫婦の様子と、デイラリーの魅力をお届けします。
ラリー初心者にも開かれた「デイラリー」の魅力
JAF公認のモータースポーツ第1種アベレージラリー(指定された平均速度で走り、目標タイムへの正確性を競うラリー)であるデイラリーの関東シリーズ第2戦「パープルラリーがまツアー2026」が、名山・筑波山の山麓にある筑波ふれあいの里を拠点におこなわれた(2026年4月19日開催)。
主催者から指示された競技区間でのアベレージ速度走行を、いかに正確に遂行できるかを秒タイム差で競い合うこの競技。参戦クラスには、ラリーコンピューター(距離や時間を正確に計測する専用機器)が使用できるクラスやできないクラス、減点1のタイム基準が10秒単位でおこなわれるクラス、1989年以前の販売開始車両でのレジェンドクラスなどがある。誰もが普段使いしているクルマ、バン、軽トラックなど、車検証のあるクルマならどんなクルマでも、ラリーコンピューターがなくても、乗車定員以内までの人数でも参加できる。
さらにはJAF公認ですから開催運営や戦績評価のきっちりしたイベントだが、競技ライセンスがない人でも参加可能という、モータースポーツ好きになった人たちへの門戸が大きく開かれてもいる。「完走後にJAF競技ライセンスが申請取得できる実戦講座」ともいえるラリー競技だ。
日本のラリー競技を遍歴してきたベテラン勢も多数参戦しているので、ラリービギナーにとっては学べる機会に恵まれているもってこいのモータースポーツ現場。しかもエントリーフィーが1台2万円から3万円と、JAF戦のなかでも格安感があるのも嬉しい。
まるで新車! 往年の名車「ジェミニ・イルムシャーR」
そんな参加者のなかに、日本のラリーシーンを振り返りたくもなるいすゞ「ジェミニ」で出場している岡村和哉さん/さゆりさんの夫婦クルーがいた。
「テレビで流れていた『街の遊撃手・ジェミニ』のコマーシャル! 若い頃でしたが、強烈に印象づけられました。『街の遊撃手』と主張して登場したあのジェミニ、そりゃあもう欲しくてたまらないクルマでした」
失せることなきその想いは綿々と30年以上続いてきたわけで、なんと「去年、譲ってもらったんです」とのこと。迎え入れたジェミニへの冷めやらぬ喜びのただなかでのデイラリー初参戦だ。
岡村さんのジェミニは、JT190型のジェミニ・イルムシャーR。2代目となったFF(前輪駆動)ジェミニの進化版であるDOHC 1.6リッターの3ドアハッチバックバージョンで、市販後35年以上は経っているにもかかわらず、前オーナーのメンテナンスも秀逸だったようで驚くほど新車のような状態。
「フォルムもランチア『デルタ』に似てて、いいんですよ」と岡村さん。
現在はトラックや商用車の巨頭メーカーであるいすゞが、丹精込めて作り上げていった乗用車部門においての主力車であり、1970年代から90年代にかけて自動車市場を大いに賑わせた名車ジェミニ。世界的な工業デザイナーであるジウジアーロが手がけたボディデザインには、時代に流されない普遍的鮮烈さがあるのだろうか、なるほどコンパクトで四角ばったボディフォルムには、どことなく地中海沿岸にマッチするデルタのような趣があると感じられなくもない。
名前に添えられているイルムシャーはドイツの名だたるチューニングメーカーであり、エンジンはもとより、駆動系、足まわりなどでもスポーティな走行性能を支える設定を追求。さらにイルムシャーの後に「R」がつけられている車種は「受注生産」もので、内装にもレカロシートなど贅が尽くされたもの。時代とともに若者にも手が届いてきた、憧れのオーダーメイド市販車なのだ。
パリの街中を駆け抜ける衝撃のCM「街の遊撃手」
岡村さんが先に語ったジェミニのCMは、パリの街中を舞台に走り回るジェミニの恐るべき実写スタントシーンで編成されたもの。凱旋門前を2台のジェミニが片輪走行で扇形に並走前進してきたり、地下鉄ホームに地上階段入り口からジャンプ突入しホームを走り抜けたり、噴水を囲む石畳ロータリー路を並走ドリフトしたり、セーヌ川なのか、停泊船舶のルーフを中継しての川渡りジャンプをしたりといった、目を見張る衝撃的なシーン満載のものだった。
そんなジェミニにさずけられた「遊撃手」とは、野球におけるショートのポジションにいる選手の和訳だが、もともとは戦いの状況に応じて何事にもキビキビとフォローする攻防の要位置にいなくてはならない戦士のことだ。
離れ技の走りも踊るようにこなしていく街中走行シーンのCMで、「ジェミニこそは街の遊撃手である」と謳い、ジェミニはあらゆるクルマ生活場面においても、みんなにこんなに楽しく素晴らしい動きをあたえてくれるクルマなんだ、といわんばかりのアピール映像に、誰もが興奮し最後はうっとりとおさまってしまったCMだった。今ではYouTubeで見られるので、懐かしむ方も見ていなかった若い方も検索してみてはいかがだろうか。
全日本ラリーを席巻し、のちの世界王者も輩出
そんなFFジェミニが当時、全日本ラリー選手権に旋風を巻き起こしたのはいうまでもない。
往年の名物監督である高柳泰雄さんが率いるチームいすゞから全日本ラリーに登場した当初の1986年は、JT150型の1.5リッターターボエンジンで総合優勝を争う大排気量Cクラスだったが、4WDを携えてきたマツダ「ファミリア」やスバル「レオーネ」、またパワーある日産「フェアレディZ」、三菱「スタリオン」など競合ライバルもひしめくなか、奮闘は続いた。
ビッグチェンジを経て、1.6リッターの4バルブDOHCエンジンでのBクラス参戦となる1988年シリーズから、まさにコンパクトスポーツモデルの本領を発揮した。この頃の全日本ラリー選手権では、排気量でCクラスよりも小さいBクラスのエントリー数がCクラス参加数に匹敵するほどの賑わいを見せた。若手の登竜門的クラスでもあったBクラスには、ライバル車も日産「マーチR」、三菱「ミラージュ」、ダイハツ「シャレード」、トヨタ「カローラFX」らがひしめき、激戦が続くシリーズを重ねていた。
そんな時代も、1990年には坂明彦選手がジェミニJT190改によるBクラス・シリーズチャンピオンに名乗りを上げ、翌1991年には3代目JT191で坂選手がシリーズ連覇。1992年にはチームいすゞの新人としてシリーズ戦に抜擢された若き日の新井敏弘選手(のちにプロダクションカー世界ラリー選手権王者となる)もBクラスチャンピオンに輝き、日本一や世界タイトル獲得に向かい羽ばたいていくよすがとなっていたのだ。
スピードではなく「謎解き」を楽しむモータースポーツ
ジェミニ・イルムシャーRでデイラリー初戦を無事ゴールし、Cクラス6位を達成した岡村さんも、眼差しはもちろん次なる戦いへ。
「デイラリーはオリエンテーリングのようで楽しいです。スピードうんぬんのタイム競争ではなく謎解きがあるモータースポーツで、正確なタイムを出せたときには、だからなおさら楽しいんですね。イルムシャーRでの参加は、珍しくもあるのか誰もに好かれてもいるのか、みなさんからお声掛けをいただきました。街を走っているだけでうれしくもあり、走らせていこうとの励みにもなります」
筑波学園都市あたりの公道をぐるり遠征し、時に新緑の映える森のなかをめぐる80kmほどのコースでタイムを競ってきた岡村さん。そろそろどこかにチェックポイントが現れるのでは……と、コマ図(交差点の形状や距離が描かれたルート指示書)ごとに移り変わるルート状況のなか、走行スピードをどう対応させるべきか、ドライバーとナビゲーターとで繰り返されていく情報のやり取りと判断、これぞ「謎解き」というインプレッションだった。
デイラリーならではの貴重なタイムを競い合うスポーツスピリットを、遊撃手・ジェミニはキビキビとしっかりとフォローしてくれていたようだ。
