腰痛対策からスポーツ走行まで対応。失敗しないスポーツシート選びのポイント
スポーツシートというとスポーツカー向けのカスタムという印象が強い。しかし近年は、長距離運転による腰痛対策や疲労軽減を目的に導入するユーザーも増えている。愛知県名古屋市港区のスーパーオートバックスナゴヤベイで、数多くのレカロやブリッドを販売・装着してきた中島さんに、シート選びのポイントから購入後の活用法まで詳しく聞いた。
見た目だけではないスポーツシートの価値。購入前に知りたい基礎知識
スポーツシートへの交換と聞くと、サーキット走行やスポーツカー向けのカスタムをイメージする人が多いかもしれない。しかし実際には、腰痛対策や長距離ドライブ時の疲労軽減を目的に導入するユーザーも少なくない。
「レカロとブリッドは何が違うのか」
「車検は大丈夫なのか」
「純正の電動シートやシートヒーターはどうなるのか」
「結局いくら必要なのか」
こうした疑問を抱く人も多いだろう。そこで今回は、愛知県名古屋市港区にあるスーパーオートバックスナゴヤベイで取材を実施。レカロとブリッドを数多く販売・取り付けてきた中島さんに、シート選びの基本から購入後の活用法まで詳しく話を聞いた。
スポーツカーだけではない 商用車ユーザーにも広がるシート交換
スポーツシートの装着車種としては、トヨタ「GRヤリス」やトヨタ「86」、スズキ「スイフトスポーツ」、スズキ「ジムニー」などが定番だ。しかし近年は、トヨタ「ハイエース」、ダイハツ「アトレー」、ダイハツ「ハイゼット」、スズキ「エブリイ」といった商用車や軽バンのオーナーからの相談も増えているという。
商用車が装着するその理由は走行性能ではない。腰痛対策や疲労軽減である。仕事で毎日クルマに乗るユーザーや、軽キャンパーなどの車中泊などで長距離移動するユーザーほど、シートによる違いを体感しやすいそうだ。特に軽キャンパーは左右で交換する人も多いとか。
シート交換最大のメリットは疲れにくさ
エアロパーツやホイールは見た目を変えるカスタムだが、シートはドライバー自身が常に接しているパーツである。純正シートは幅広い体格や用途に対応するため、どうしても万人向けの設計になる。一方でスポーツシートは、身体を適切に支えながら運転姿勢を安定させることを重視している。コーナリング時に身体が左右へ振られにくくなり、無意識に腕や脚で踏ん張る動作も減少する。その結果として疲労が軽減され、長距離移動が楽になるという。
レカロには腰痛対策や疲労軽減を重視したメディカルシリーズが用意されている。代表的なモデルがLX-Fだ。人間工学に基づいて設計されたシート形状に加え、背骨のラインに沿うような構造や専用ウレタンを採用。長時間着座時の負担軽減を目指している。また、モデルによってはエアランバーサポートを装備する。これは腰部分の膨らみを調整する機能で、手動ポンプを押して空気を送り込むことでサポート量を変更できる。取材時も中島さんが実演してくれたが、ポンプを押すたびに腰部分が少しずつ膨らみ、自分好みのフィット感へ調整できる仕組みだった。体格や姿勢に合わせて細かく調整できる点も人気の理由だという。
フルバケットとリクライニング まずは用途を決めたい
スポーツシートは大きく分けると2種類に分類される。ひとつはフルバケットシート。もうひとつはリクライニングシートである。フルバケットシートは高いホールド性能を持ち、サーキット走行やワインディングを積極的に楽しむユーザーに人気だ。一方、街乗りやロングドライブを重視するユーザーにはリクライニングタイプが選ばれることが多い。一般的にセミバケットと呼ばれるモデルもこのカテゴリーに含まれる。販売比率としてもリクライニングタイプの方が多いそうだ(フルバケットシートは全体の2割から3割)。また近年は4点式ハーネス(多点式シートベルト)に対応するベルトホールを備えたモデルも増えている。
スポーツシートというと、太もも周辺を包み込む大きなサイドサポートを思い浮かべる人も多いだろう。しかしハイエースやトヨタ「ランドクルーザー」のような車高の高いクルマでは事情が異なる。頻繁な乗り降りを考えると、サポート部分が邪魔になるケースもあるからだ。そのため太もも横の張り出しを抑えたフラットタイプの座面を選ぶユーザーも少なくない。シート選びはホールド性能だけでなく、使用環境とのバランスも重要なのである。
取材中、何度も繰り返された言葉があった。
「座ってください」
レカロとブリッドの違いについて尋ねると、中島さんはそう答えた。スーパーオートバックスナゴヤベイには約50脚もの展示シートが並んでいる。それだけの展示を行う理由もここにある。体格や骨格は人それぞれ違う。レカロが合う人もいれば、ブリッドがしっくり来る人もいる。カタログスペックだけでは判断できないため、まずは実際に座り比べることが重要だということだ。
かつては「レカロは高い」、「ブリッドは比較的手頃」というイメージがあった。しかし中島さんによれば、近年はブリッドも価格が上昇しており、同クラス同士で比較すると以前ほど大きな差はないという。
エントリーモデルで10万円台中盤〜20万円台中盤前後。本革モデルになると30万円を超える製品も存在する。価格だけで選ぶのではなく、座り心地や用途との相性で選ぶユーザーが増えているそうだ。
いざ装着することになると、次に気になるのは愛車に付けられるか付けられないか。それはすべて各シートメーカーに車両適合表が掲載されているのでそれをもとに、装着の可否を判断する。シート交換では本体価格だけでなく、シートレールや工賃も必要になる。シートレール(ベースフレーム)は大体2万円台後半〜3万円台前半。車種やリクライニングかフルバケットによって変動はするが、例えばハイエースであれば取材時点での基本工賃は1脚あたり1万6500円。ここにシートヒーター配線やアームレスト装着、高さ調整作業などが加わる場合は追加費用が発生する。作業時間は1脚あたり4〜5時間程度が目安とのこと(要予約)。シート本体だけで判断せず、総額で考えることが大切だ。
アームレストやシートヒーターは付けられる?
最近増えている問い合わせのひとつが快適装備に関する相談だ。アームレストやシートヒーターは魅力的な装備だが、すべての車種やシートで対応できるわけではない。中島さんは「できるものとできないものがあります」と説明する。そのため購入前には車種ごとの確認が必要になる。とくにハイエースやミニバン系ユーザーは重視するポイントだという。
近年の上級グレード車では電動シートが一般的になっている。ここで気になるのが純正機能との両立だ。中島さんによれば、車種やシートによっては背もたれ調整やシートヒーター機能を活かせるケースもあるという。一方で前後スライドは手動になる場合もある。つまり「純正電動シートだから交換できない」わけでも、「すべての機能を維持できる」わけでもない。組み合わせによって対応内容が変わるため、事前確認が欠かせないのである。
輸入車ではさらに注意が必要になる。中島さんによれば、メルセデス・ベンツは対応できないケースが比較的多いという。一方BMWは、シート内部にエアバッグや着座センサー、ランバー機構などが組み込まれている車種も多く、対応の難易度が高いそうだ。車種によっては警告灯対策としてキャンセラーを組み込むケースもある。国産車以上に専門店での確認が重要になる分野といえる。
車検対応のために必要なもの
社外シート装着で気になるのが車検だ。レカロやブリッドなどの正規品と適合シートレールを使用し、メーカー発行の強度証明書を用意すれば車検対応できるケースが多い。強度証明書はホームページから無料で取得できるメーカーもあるため、購入時に確認しておきたいポイント。一度取ってしまえば、それを装着している限りはその次からの車検もクリアできるので面倒には感じない。じつはシート本体だけでなく、シートレールにもメーカーごとの特徴がある。中島さんによれば、レカロのレールは複数の部品を組み合わせながら細かく高さ調整できる構造を採用している。一方ブリッドは比較的完成度の高いユニット構造が特徴だという。
シートと同時購入されることが多いのがサイドプロテクターやベルトパッド、バックレストカバー(シートの背面を覆うカバー)などのオプション類である。とくにフルバケットシートは乗り降りの際にサイド部分が擦れやすい。気付かないうちに表皮が傷むこともあるため、保護アイテムを装着するユーザーが多いという。レカロ、ブリッドのどちらにもあるので購入時にチェックしておきたい。
また「シート交換というと左右セットを想像しがちだが、実際には運転席のみ交換するケースが多いですね。その後、助手席も揃えたり、運転席に新モデルを導入して従来使っていたシートを助手席へ移設したりする例も少なくないです」と中島さん。左右同時に交換する人は全体の2割。段階的に導入するユーザーが多いのである。
外した純正シートは捨てない方がいい
中島さんがとくに強調していたのが、純正シートの保管だ。保管場所の問題から処分を考える人もいるが、基本的には持ち帰って保管することを勧めているという。理由は明快だ。クルマ売却時に純正状態へ戻せるからである。さらにレカロやブリッドは、シートレールを交換するだけで次の愛車へ移植できるケースも多い。つまりシートは使い捨てではない。もし処分する場合は、店舗で3000〜4000円程度で引き取りにも対応しているそうだ。
しかし何台ものクルマを乗り継ぎながら同じシートを使い続けるユーザーも珍しくないという。さらにシートクリーニングサービスを利用すれば、汚れたシートをリフレッシュして次のクルマへ移植できる。取材時点でのクリーニング料金は1脚1万円から。純正シートへ戻してクルマを売却し、レカロやブリッドは次の愛車へ引き継ぐ…。そう考えると、シートは長く付き合えるパーツなのである。
スポーツシート選びでいちばん大切なこと
レカロかブリッドか。フルバケットかリクライニングか。腰痛対策かスポーツ走行か。さまざまな選択肢があるが、中島さんの答えは最初から最後まで変わらなかった。
「まずは座ってください」
どんなに評判が良いシートでも、自分の身体に合わなければ意味がない。だからこそ、まずは実際に座ることが重要だ。そのうえで自分の用途やライフスタイルに合った1脚を選ぶことが、後悔しないシート選びへの近道となる。エンジンから伝わる微細な鼓動を背中で受け止め、ステアリングを通じてクルマとの対話を楽しむ。長距離のクルマ旅や、日々の果てしない移動。そのすべての時間を、自分にフィットしたスポーツシートは極上のドライビング体験へと昇華させてくれる。使い捨てではない一生モノの相棒を見つけ出し、内燃機関とともに走り続ける大人のロマンをいつまでも満喫してほしい。
