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外見は993型で中身はナロー!? 公道も走れるレーシングポルシェ「911」が約1407万円

8万7360ドル(邦貨換算約1407万円)で落札されたファブカー製ポルシェ「911」(C)Bonhams

ナローの屋根に鋼管フレームを融合! 公道も走れる異端のポルシェ

アメリカ合衆国コネチカット州で開催されたボナムズ社の「Greenwich 2026」オークションに、熱狂的なマニアの視線を集めるミステリアスなレーシングカーが出品された。外観は「993」型のポルシェ「911 GT2」だが、登録上のベース車両は1969年式の「ナロー」だという。伝説的なコンストラクター「ファブカー」が1990年代のテクノロジーで創り上げた、驚異的なマシンの全貌と落札結果をお伝えする。

ファブカーがナローのルーフと鋼管フレームを融合させ935譲りの技術を注ぐ

アメリカの「ファブカー(Fabcar)」は、レースエンジニアのデイブ・クライムによって1977年にジョージア州タッカーで設立されたレーシングカー設計・製造会社だ。おもにポルシェをベースとした耐久レースやスポーツカーレース用のマシン設計を専門とし、その緻密な職人技と最先端のテクノロジーで名声を得た。

1980年代の北米IMSA選手権で圧倒的な強さを誇った一連のポルシェ「935」は彼らの代表作である。なかでも「JLPレーシング(ジョン・ポール・シニア&ジュニア)」のために製作された「JLP-4」は、当時のポルシェ911ベースの競技車両として群を抜いて洗練され、空力学的にもっとも先進的なマシンと評されている。くわえて、1983年11月のデイトナ・フィナーレ3時間レースで2位に入賞したポルシェ「935/84」も重要な作品のひとつだ。

そのファブカーが1990年代中盤に製作したこの911は、歴史的に極めて重要な一台である。登録上のベース車両は1969年式の「911E」だが、モノコックの下半分を放棄し、スチール製のルーフセクションのみを使用している。そこへ新設計のクロモリ鋼製チューブラー・スペースフレームを組み合わせ、外装には「A.I.R. 993」社のグラスファイバー製ボディパネルを装着した。同等のスチール製モノコックと比較して、著しく軽量かつ高剛性なシャシーを完成させている。

空冷時代のポルシェ911は、その堅牢な基本設計からプロトタイプ顔負けの大改造を施されるケースが多い。すべてをパイプフレームで製作すればより手軽だが、あえてナローのルーフと車台番号を残す手法は、ポルシェ911としてのアイデンティティを保ちつつ当時のレースレギュレーションに適合させるための、ファブカーならではの高度なアプローチである。

934用ミッションと917のブレーキを搭載しSCCAで8勝を挙げた輝かしい戦績

心臓部には、フロリダ州の「ウィリソン・ヴェルクシュタット(Willison Werkstat)」社主宰であるポール・ウィリソンが「964」型用の3.6L水平対向6気筒エンジンをベースに組み直した、高圧縮比のレースエンジンを搭載する。「PMO」社製50mmキャブレターと当時最新の「エレクトロモーティブ」社製点火システムを組み合わせ、市販ガソリンでも350psを超える出力を発揮する。

駆動系には、1977年に名門「ボブ・エイキン・レーシング」から調達した「934ターボ」用4速レーシングトランスアクスルを組み込み、ファブカー独自のアプローチでサスペンションを設計した。さらにブレーキは、フロントに「993ターボ」用、リアにはなんと伝説のレーシングカー「917」のフロントキャリパーを流用し、キャビン内から前後配分を調整できるシステムを備えている。

完成までに25万ドル(現在の価値で50万ドル超)もの巨費が投じられたが、完成直後に初代オーナーが脳卒中を患う悲劇に見舞われ、フロリダの工房で約7年間保管された。その後2002年にウィリアム・イーディに譲渡されると、パームビーチ・インターナショナル・レースウェイで開催されたSCCA(スポーツカークラブ・オブ・アメリカ)のGT-2クラスに12回参戦し、8回の優勝を果たした。

2015年にはIMSA選手権のドライバー・オブ・ザ・イヤー獲得経験を持つレーサー、ジャック・ルイスに引き継がれ、GT-2レースに向けてさらにチューニングが施された。彼は「SCCAメジャーズ・ツアー」6戦に参戦して2勝を挙げ、シーズンのGT-2 P2クラス総合ポイントランキングで2位を獲得している。

レストアでエアコンを追加! 予想落札額9万〜12万ドルを下回る約1407万円で決着

現在この個体は「The R Institute」社による2年間の包括的なレストアを経て、2026年に象徴的な「ガルフ・レーシング」ブルーへと生まれ変わった。かつて最初につけたレースナンバー「59」が刻まれている。足回りは完全に調整可能なRSR製コイルオーバー仕様で、リビルド済みの「KONI」社製ダンパーと、「930」型用のトレーリングアームが組み合わされる。ホイールは良好なオリジナルコンディションを保つ16インチBBS製マグネシウムレーシングタイプだ。

特筆すべきは、コンペティションと一般公道での走行を両立する「デュアルパーパス」として仕上げられている点である。昨今の気候に対応すべく電動エアコンと車内暖房が追加されたが、重量増は合計わずか30ポンド(約13.6kg)に抑えられている。公道登録も済まされており、ポルシェ993純正シート(付属の「MOMO」社製FIAレースシートへ交換すれば、燃料満タン状態で総重量約964kgまで軽量化可能)に座りながら、休日のツーリングにも持ち出せる懐の深さを備えている。

落札者にはオリジナルのログブック、製造記録・写真・関連書類、レストア記録、オーナーズマニュアル、新品のMOMO製FIAシート、レース用サイドネット、フルハーネスベルトが引き渡される。

2026年5月31日に開催されたボナムズ社のオークションにおいて、このファブカー911には9万ドル〜12万ドル(約1400万〜1900万円)という、レーシングヒストリーを考慮すると割安感のあるエスティメート(推定落札価格)が設定されていた。実際の競売では期待ほどビッドが伸びず、エスティメート下限を少し割り込む8万7360ドル(約1407万円)でハンマーが落とされた。

純粋なファクトリーオリジナル(工場出荷状態)を尊ぶ近年のクラシックポルシェ市場において、こうしたコンストラクターによる大規模なモディファイドカーは買い手が限定される傾向にある。しかし、それゆえにファブカーの職人技と北米レースの歴史が詰まった350ps超のヒストリックレーサーが約1407万円で手に入るというのは、真のエンスージアストにとって破格のバーゲンプライスといえる。

「ラ・カレラ・パナメリカーナ」や「ポルシェ・クラブ・オブ・アメリカ」のイベント、伝統あるSCCAレース、そして「パイクスピーク・ヒルクライム」への参加資格を有しながら、日曜朝の「カーズ・アンド・コーヒー」にも乗り付けられる二刀流。妥協を知らない名門ビルダーの機能美と熱気を独り占めしながらステアリングを握る時間は、新しいオーナーにこの上ない至福をもたらしてくれるはずだ。

※為替レートは1ドル=161円(2026年7月9日時点)で換算

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