サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

約425万円で落札! ランボルギーニ「ミウラ」のヘッドライトの元ネタ…フィアット「850スパイダー」アバルト風味の評価は適正!?

2万8000ドル(邦貨換算約425万円)で落札されたフィアット「850スパイダー」(C)Bonhams

アバルトとアバルト「風」の格差は大きい?

アメリカで冬の避寒リゾート地として知られているアリゾナ州スコッツデールでは、毎年1月下旬に「アリゾナ・コンクール・デレガンス」が開催されます。クラシックカーのオークション業界では名門として知られる英国ボナムズ社は、2025年1月25日にスコッツデール市内でオークションを開催しました。今回はその出品車両の中から、アバルトのエッセンスを振りかけたフィアット「850スパイダー」をピックアップ。その概要とオークションレビューを紹介します。

ミウラの眼を持つ小さなオープンスポーツ、フィアット 850スパイダーとは?

フィアット「850スパイダー」は、フィアット社内デザインの「850クーペ」とともに今からちょうど60年前、1965年のジュネーヴ・ショーにてワールドプレミアに供された。

850スパイダーのボディは、カロッツェリア・ベルトーネがトリノ近郊に構えたグルリアスコ本社工場で生産。そのスタイリングは、ベルトーネ在籍時代のジョルジェット・ジウジアーロの傑作のひとつとされている。ジウジアーロ&ベルトーネのコンビで1963年に発表したデザイン習作「テストゥード」のモチーフを量産スパイダーに投影したといわれるデザインは、たしかに美しく魅力的といえよう。

初期モデルでは傾斜した楕円型ヘッドライトを特徴としていたが、このユニットは同時期に同じベルトーネで生産されていたランボルギーニ「ミウラ」と共用の「カレッロ(Carello)」社製だったことは有名な逸話である。

そして2年後の1967年、850クーペおよびスパイダーがともにアメリカ市場に導入される。アメリカ仕様の最高出力は52bhpで、時速100マイル(約160km/h)表示のスピードメーター、タコメーター、フロントのディスクブレーキ、ビニールレザー張りシートが装備された。

ミニ クーパーよりも安価だった

アメリカにおける販売価格はクーペが1795ドル、ゴージャスなベルトーネのスパイダーが1998ドル。これはモーリス/オースティン「ミニ」やオースティン・ヒーレー「スプライト」に匹敵するもので、「ミニ クーパー」よりも安価だったという。

そんな850ながら「このクルマを運転するのは至福の喜びだ」と『Sports Car Graphic』誌は謳い、英国の自動車史家である故マイケル・セジウィックは850を「1960年代の混雑した道路にとって、ほとんど完璧なパーソナルカー」と評したという。

1968年にはエンジンが903ccに拡大され、最高速度90マイル(約145km/h)が可能になり、チューニングされた高性能なアバルト版にも近いパフォーマンスを得るに至る。この「850スポルト スパイダー」を名乗る後期型では、内外装各部もよりリファインが施されたものの、現在のクラシックカーマーケットにおける人気と評価では、ヨーロッパやアメリカはもちろん、日本国内でも847ccの前期型に軍配が上がるようだ。

そして、これらのスタンダード850スパイダーを大きく上回るマーケット評価を得ているのが、アバルトがコンプリートカーとして製作・販売したフィアット・アバルト「OT1000スパイダー」なのだが、どうも今回の出品車両は正規のアバルトではないようなのだ。

>>新型600eの情報満載! フィアット&アバルト専門誌「FIAT & ABARTH fan-BOOK」vol.09発売中(外部サイト)

アバルト風のパーツで仕立てられてはいるものの……

このほどボナムズ「Scottsdale 2025」オークションに出品されたフィアット 850 ベルトーネ製スパイダーは、リアエンジンのイタリアンランナバウトの魅力的な1台ながら、あくまでアバルトの「エッセンスを注入した」850スパイダーのようである。

今回のオークション出品者でもある現オーナーの主張によれば、この車両はアバルト OT1000スパイダー仕様にアップデートされており、いずれかの段階で「1000TC」などと同排気量の982ccエンジンにコンバートされているとのことであるが、公式オークションカタログの作成時点では、裏付けをとるまでには至っていなかったようだ。

このクルマは、フィアットとアバルトの熱狂的なエンスージアストである現オーナーが、2020年に入手したものとのこと。古い時期にレストアされたと推測されるこの個体は、今なおクラシックレッドのペイントに本格的なブラックの内装とソフトトップを備え、フレッシュで魅力的な仕上がりとなっている。

その小さなボディサイズにもかかわらず、850スパイダーのコクピットは大柄なドライバーにとっても驚くほど快適。コクピットは美しく整然としており、当時モノの「フェレロ(Ferero)」社製スポーツステアリングホイールの奥には、「ヴェリア・ボレッティ(Veglia Boretti)」のメーターがずらりとドライバーの方を向いている。

また「1000 OT」バッジや独立ブランチの排気マニフォールド、フリーフロー式アバルト社製マフラーなど、アバルトのコスメティックとパフォーマンスが強化されている。

ただし、軽量なカンパニョーロ社製マグネシウムホイールが装着されているものの、これは同じカンパ製でも「エレクトロン101」といわれる汎用型で、いわゆる「アバルトパターン」ではない。

リザーヴなしの出品スタイルで落札価格は……?

それでもオークション出品に際して、

「あなたのお気に入りの曲がりくねったワインディングロードにおいて、このハンサムな小さなバルケッタのリアに搭載されたアバルト風味のフィアットエンジンに、最高にガッツのあるサウンドトラックを奏でさせるという喜びを損なうものではないだろう」

という、ちょっとのん気な感もあるPRフレーズを添えつつ、ボナムズ社は5万ドル〜6万ドル(邦貨換算約775万円〜930万円)という自信たっぷりのエスティメート(推定落札価格)を設定。その上で「Offered Without Reserve」、つまり最低落札価格は設定しなかった。

この「リザーヴなし」という出品スタイルは金額を問わず確実に落札されることから、とくに人気モデルではオークション会場の雰囲気が盛り上がり、ビッド(入札)が進むことも期待できる。ただしそのいっぽうで、たとえビッドが出品者の希望に達するまで伸びなくても、落札されてしまうというリスクも二律背反的に持ち合わせる。

そして迎えた競売では、エスティメート下限を大幅に割り込む2万8000ドル、日本円にして約425万円という、出品者サイドの期待を大きく裏切る落札価格で競売人のハンマーが鳴らされることになったのだ。

とはいえ今回のエスティメートは、カタログに記された車両の来歴やチューニングの度合いを見る限りはオプティミスティックといわざるを得ないものでもある。それでも、通常の850スパイダーの相場価格よりは少し高めであることから、チューニングやドレスアップの仕上がりは評価されたということなのであろう。

ちなみに、アバルト製のOT1000スパイダーがマーケットに売りに出される機会は少ないが、もしも本気で入手を希望されるならば、日本円で1000万円前後の出費は覚悟しておくべきと思われる。

>>新型600eの情報満載! フィアット&アバルト専門誌「FIAT & ABARTH fan-BOOK」vol.09発売中(外部サイト)

モバイルバージョンを終了