入札や落札価格が明かされないシールド・オークションが開催
2025年2月4日〜7日にRMサザビーズがフランス・パリで開催したオークションにおいて、フェラーリ「F355 GTS」が出品されました。レトロモビルのメインホール片隅にディスプレイされていた1台のフェラーリは、ミハエル・シューマッハが所有していたモデルでした。
F1チャンピオンが所有していたF355 GTSがオークションに登場
毎年2月上旬を中心に、パリの見本市会場、ポルト・ヴェルサイユで開催されるクラシックカーショーのレトロモビルは、世界中のマニアからつねに熱い視線が注がれるイベントだ。ちなみに2025年はシトロエン 「DS」が生誕70周年にあたる年であったため、それにはとくに大きな注目が集まっていたが、レトロモビルのトピックスはもちろんそればかりではなかった。メインホールの片隅にディスプレイされていた1台のフェラーリもまた、会場を訪れた誰もが足を止めるだけのオーラに満ちあふれていた。
1996年式のフェラーリ「F355 GTS」。F355シリーズは現在でもフェラーリのファンからは高い人気を誇るモデルであることは確かだが、なぜ彼らはそれをレトロモビルのメインホールに持ち込むに至ったのか。それはこのモデルに秘められたオーナーズ・ヒストリーに大きな理由があった。
ミハエル・シューマッハ──1994年にベネトンでF1初優勝を飾りチャンピオンに輝き、翌1995年には再びその座に君臨した彼は、レーシングドライバーならば誰もがあこがれるチーム、フェラーリへと誘われた。そして前後してフェラーリから与えられたのが、今回のレトロモビルに姿を現したF355 GTSにほかならなかったのだ。
シューマッハのオーダーは6MTであること
1995年に発表されたばかりのF355シリーズは、当時フェラーリのラインアップの中では最も新しいモデルであり、スクーデリア・フェラーリの新人ドライバーがドライブするには、まさにベストなモデルといえたのだろう。
製作当時の記録によれば、ボディカラーはブルー・ルマン(カラーコード:516/C)、インテリアのレザーはペラ・クレマ(同:A3997)で美しく仕上げられており、それは現在でも変わるところはない。唯一の変化といえば、ドライバーズシートのシートバックに、シューマッハのオートグラフ(サイン)が施されていることだが、そのストーリーについては後でまた触れることにしよう。
シューマッハからの希望は、6速MT仕様であることだったと伝えられており、実際のデリバリーはフェラーリ・ドイッチュランド社から、シューマッハが2位でフィニッシュしたニュルブルクリンクでのヨーロッパGPの2日後に行われている。その後シューマッハは、2002年5月までこのF355 GTSを所有していたと考えられるが、その後オーナーはフランスのムーギンに住むピエール・ヴァレンティン、そして同じフランスのヴァリロルに居を構えるクリストファー・アレンへと変わる。
現オーナーが手に入れたのは2004年に開催されたモナコ・ヒストリック・グランプリにあわせて行われたオークション。この時すでに例のシートバックにはシューマッハの所有車であったことを裏づけるサインや、ディーラーとの間で交わされた書簡も添えられていたという。
そして「ZFFXR42B000105416」のシャシーナンバーを持つこのF355 GTSは、2020年にはフェラーリ・クラシケの認定を受ける。クラシケでは現在搭載されているエンジン(エンジンナンバー44042)はシューマッハに与えられた当時のそれとは異なるという見解を唱えたが、シューマッハに新車でF355 GTSが納車された時、そこにアップグレードされたエンジンが搭載されていた可能性もあるという。もちろん決定的な証拠はないが。
今回RMサザビーズは、このシューマッハが長年にわたり所有したF355 GTSをシールド・オークション(入札額や落札額が一切明らかにされない方式のオークション)で2025年2月4日から7日まで入札を受け付けたが、おそらくかなりのプレミアムがついた価格で落札されたことは間違いない。シューマッハとこのクルマとのつながりは、ファンにとってはなによりの魅力といえるのだから。
