ペリスコピオの落札価格は、相場の動静を探るバロメーター?
国際的なクラシックカー市場においては、マーケットの最新市況を判断するための「観測気球」となるような、常に人気を集めるカリスマ的モデルが存在します。ランボルギーニ「カウンタック」もそのひとつです。クラシック/コレクターズカー・オークション業界最大手のRMサザビーズ欧州本社がクラシックカー・トレードショーの世界最高峰「レトロモビル」に付随するかたちで、この2025年2月4〜5日に開催した「PARIS」オークションでは、カウンタックのなかでもとくに高値のマーケット相場価格で推移している「LP400」、通称「ペリスコピオ」が出品されていました。
もっとも純粋なカウンタック! ペリスコピオについておさらい
ボローニャ近郊に本拠を置くフェルッチオ・ランボルギーニは、ほぼ隣町であるモデナのフェラーリに追いつくために全力を尽くし、ミウラの成功によって「スーパーカー」という新たなジャンルを構築する。しかしそののちも、ランボルギーニのエンジニア陣にミウラの成功に大きく貢献したミッドシップV型12気筒レイアウトを維持しつつ、より先鋭的かつ実質的パフォーマンスの高いスーパーカーを開発するという新たな課題を用意していた。
その答えが「カウンタック」。1971年のジュネーヴ・ショーでプロトタイプ「LP500」が公開されたものの、最初のカスタマーカーが生産されるまでにはさらに3年を要し、1974年にようやくデリバリーが開始された。
カウンタックの最初期生産モデルは「LP400」と命名され、3929ccのV型12気筒エンジンで375ps。もともとジョット・ビッザリーニが350GTのために設計したエンジンの進化版たるこのV12は、2010年に至るランボルギーニの12気筒モデルすべてに、それぞれのレイアウトで搭載されたものである。
当時としては最上のハンドリングだった
このV12エンジンを縦置きし、その前にトランスミッションを配置するスタンツァーニ技師の革新的なパッケージングにより、ホイールベースを大幅に伸ばすことなくマスの集中化に成功。当時の技術レベルとしては最上のハンドリングと、高速走行時のスタビリティを誇るスーパースポーツとなった。
さらに複雑なスペースフレームを中核に、アルミニウムとスチールの混合パネルで覆われたマルチェロ・ガンディーニのデザインによるベルトーネ製ボディは、奇想天外ながらじつに理に適ったシザースドアで知られるようになる。
いっぽう実用化には至らなかったが、これらの初期車両は当初、潜望鏡スタイルのバックミラーを装備することを想定していた。ルーフパネルに設けられたスタイリッシュな溝とそれに対応する極薄の小窓はLP400の特質として残ることになる。
カウンタックは正式リリース後16年間も生産された。でもその後のバージョンは、次第にデコラティヴになっていく。やはりガンディーニのウェッジデザインの純粋さは、そのユニークなルーフデザインから「ペリスコピオ(Periscopio:潜望鏡)」の愛称で呼ばれる最初期型LP400に、もっとも明快なかたちで表れているといえよう。
少し下落傾向を見せ始めた可能性も……?
ランボルギーニ各車両のヒストリーを統括する「インターナショナル・ランボルギーニ・レジストリ」によると、このほどRMサザビーズ「PARIS 2025」オークションに出品された、シャシーNo.1120142のランボルギーニ・カウンタックLP400ペリスコピオは、イタリア・ミラノの「アキッリ・モーターズ(Achilli Motors)」を介して、1975年11月6日にドイツにて最初のオーナーに新車として納車された。
「ロッソ(赤)」のボディカラーに「ネロ(黒)」のインテリアの組み合わせでファクトリー仕上げが施されたLP400は、その後フロリダ州フォートローダーデールに輸出される。そしてアメリカに到着したのち、結果として短期間の所有となった新オーナーは、スウェーデンへと売却する前に、ボディカラーをイエローに変更させた。
1989年5月にヨーテボリに到着したこの個体は、2005年にストックホルムへと移り住むまでの15年間、当時のオーナーのもとで大切に保管された。また、次の所有者のもとストックホルムで暮らしている間に、シルバー・メタリックのボディに「タバコ・ブラウン」革という、現在のカラースキームに変更されたことがわかっている。
エスティメートの範囲内で収まったものの……
そして現在、ストックホルム近郊の地方都市ウプサラで開業するクラシックカーのスペシャリスト「モティコン(Motikon)」社によって念入りなメンテナンスを施され、エレガントなコンフィギュレーションでまとめられたペリスコピオは、2024年4月にドイツ・エッセンで開催された「FIVAコンクール・デレガンス」に出展。1971年から1985年までの車両のクラスで2位に入賞している。
このランボルギーニ カウンタックLP400について、RMサザビーズ欧州本社は
「ペリスコピオは、マルチェロ・ガンディーニのオリジナル・ビジョンにもっとも近く、もっともピュアなモデル。ランボルギーニコレクションに加えるには最高の一台となるでしょう」
という宣伝文を添えつつ、75万ユーロ〜90万ユーロ(邦貨換算約1億2075万円〜約1億4490万円)という、現在のLP400としてはきわめて真っ当なエスティメート(推定落札価格)を設定した。
そして迎えた競売ではエスティメートの範囲内に収まる82万625ユーロ、現在の日本円に換算すれば約1億3300万円で、競売人のハンマーが鳴らされることになった。
とはいえ今回の落札価格は、ここ数年におけるペリスコピオの販売実績から比較すると、わずかながら安価であることも事実。たしかに、新車時のオリジナルカラーが変更されているという個体のウィークポイントもあるのは間違いないものの、2025年初頭の国際マーケットそのものが、やや鎮静化している可能性も否めない。
さらに、昨今話題の「トランプ関税」が発動してしまったのちには金融市場も混乱が予想され、それに応じて国際クラシックカー・マーケットも影響を免れないと予測されることから、2024年までの高値安定が今後も継続されるか否かについては、少なからず不透明になっていると見るべきなのかもしれないのである。
