ゲンバラ車としての個性を強く主張するスタイリング1台
2025年2月27日〜28日にRMサザビーズがアメリカ・マイアミで開催したオークションにおいて、ポルシェ「928S by ゲンバラ」が出品されました。ゲンバラは、1980年代頃からポルシェのプロダクションモデルをベースとしたフルコンバージョンモデルの製作を始めました。今回、紹介するモデルもそのシリーズの1台で最大の魅力は新車に近いコンディションでした。
元々はインテリアメーカーだった
1980年代から2000年代にかけて、ドイツのチューニング・ビジネスをリードしたブランドのひとつが、ここで紹介するゲンバラだ。創立者のウーヴェ・ゲンバラが、ドイツのシュツットガルト近郊で、ゲンバラ社を設立したのは1972年のこと。
当初は正確にはゲンバラ・アウトモビル・インテリアとネーミングされていたこの会社は、おもに高級で精巧なインテリアを作り出すことで瞬く間に有名になった。VWをベースに実力を発揮していたものの、1980年代を迎えるとポルシェやメルセデス・ベンツ、BMW、ロールス・ロイスといったモデルにまでゲンバラによる贅沢なオーダーメイドの手は及んだ。
ゲンバラのインテリアが大きな特徴としていたのは、豪華なレザーワークだけではなく、デジタル計器やテレビ、あるいは最先端のオーディオ・システムなど、最新技術を惜しみなく採り入れることにもあった。ゲンバラの作品は常に時代の最先端を行く傑作にほかならなかった。
1980年代にコンバージョンモデルを製作
そして1980年代には、ゲンバラはまさに歴史的な決断を下すことになる。それはおもにポルシェのプロダクションモデルをベースとしたフルコンバージョンモデルの製作だ。ゲンバラは911、944、928のための専用プログラムを続々と発表する。
これらにはバンパーやスポイラー、ボディモールなどのエクステリアアップグレードに加え、彼らが伝統とするインテリアトリムのドレスアップも含まれていた。ゲンバラ製のポルシェは、カスタマーからのオーダーを受けてから完全に分解され、再塗装を施し、カスタムモール、インテリア、高級なオーディオ・システムなどを備えたモデルに生まれ変わったのだ。
インテリアにはさり気なくゲンバラスタイルを導入
ここで紹介するモデルは、1981年の元日にツッフェンハウゼンのポルシェ本社工場で完成した「928S」で、シャシーナンバーは840480。ワインレッドメタリックのボディにベージュのレザートリムが組み合わされる。強化バッテリー、3速AT、8ウェイパワーシート、スポーツショックアブソーバー、電動スライディングサンルーフが装備されていた。
当時、ゲンバラはこのモデルに「ワイドボディ バージョンI」と呼ばれるボディキットを装着した。サイドステップやリアフェンダー、そして2段式となったリアスポイラーなど、ゲンバラ車としての個性を強く主張するスタイリングが完成した。
インテリアでは、ホワイトフェイスのメーターパネル、フィリップスのステレオユニット、ゲンバラのエンボス加工が施されたベージュのステアリングホイールなど、さりげなくゲンバラスタイルが施されている。フロントに搭載される4.7LのV型8気筒エンジンは300psを発揮するが、そのパワーに守られた高速クルージングは、もちろん快適でラグジュアリーなものだった。
驚きの走行距離と二度と生産されることがない稀少性が評価された
今回RMサザビーズのマイアミコレクションに出品されたモデルは、1981年式のポルシェ928S by ゲンバラ。走行距離はわずかに171kmと、新車に近いコンディションが大きなセールスポイントだ。
提示された予想落札価格は12万5000ドル~17万5000ドル(邦貨換算約1860万円〜2610万円)。そのコンディションの良さ、そしてあのゲンバラが製作したモデルという希少性も評価されたのだろう。オークションの結果は12万6000ドル(邦貨換算約1880万円)での落札となった。
ウーヴェ・ゲンバラはさらに、さまざまなコンプリートカーを生み出し、世界のカーマニアに大きな衝撃を与え続けていった。2009年には約20年ぶりにポルシェ以外のモデルをベースに選択した、エンツォ フェラーリベースのMIG-U1を発表。こちらも世界で話題を呼ぶが、翌2010年には信じがたい悲劇が待ち受けていた。この年の10月、南アフリカで銃殺されたウーヴェ・ゲンバラが発見されたのだ。ウーヴェ・ゲンバラという天才的なデザイナーを失った今、彼が残した作品にはさらなるプレミアムがついていくのも間違いないのではないか。
