国産ミニバンとはベクトルが異なるおもてなしがある
2025年6月20日、フォルクスワーゲンが誇るフル電動ミニバン「ID.Buzz(アイディー バズ)」がデビューしました。コンセプトモデルの登場から約7年を経てようやく日本に上陸したこのモデルは、ファミリーカーとしての実用性と、EVならではの快適な走行性能を兼ね備えています。早速、フォルクスワーゲンから借り出し、試乗をしてみたレポートをお届けします。
グレードはホイールベース違いで2種類用意
試乗車がキャンディホワイト/ライムイエローメタリックとじつに明るいボディ色だったこともあり、実車を目の当たりにした途端、晴れやかな気分になった。このことだけでも、ファミリーカーとしての資質は十二分……といったところである。「ID.Buzz」は、その名のとおり、日本市場ではSUVの「ID.4」に続くフル電動のID.ファミリーの第2弾である。
コンセプトカーが姿を現したのが2017年のデトロイトショーだったから随分待たされたものの、ノーマルホイールベース(888万9000円)、ロングホイールベース(997万9000円)と価格はエクスペンシブなものだが、クルマそのものが無事に上陸してくれたことは歓迎すべきだろう。
前述のとおりバリエーション体系はホイールベース違いで2タイプが用意され、“Pro”とグレード名は共通ながら、ロングは7人乗り、ノーマルは6名乗りとなっている。
ボディサイズの数値を見ておくと、全幅1985mm✕全高1925mmは共通で、全長/ホイールベースがロングは4965mm/3240mm、ノーマルが4715mm/2990mm。車重はロングが2720kg、ノーマルが2550kg。カタログに記載の一充電走行距離(WLTCモード)はロングが554km、ノーマルが524kmとなっている。
モーター(210kW)は共通で駆動用バッテリーについてはサイズ(総電圧/総電力量)が異なっている(ロング:383V/91kWh、ノーマル:353V/84kWh)。
試乗車はロングホイールベースを選んだ。言われているボディサイズは、運転席からの見晴らしが良好なため、物理的に際どい場所でなければ全幅はすぐに慣れ、ロングホイールベースもそれを念頭に扱えば、オーナーであればスグに感覚が身につくに違いない、自然なステアリングレスポンスと挙動だと思う。
インパネが横基調のシンプルなデザイン
インテリアは上級クラスの国産ミニバンとはひと味もふた味も違う。フロアがフラットで、調光式パノラマガラスルーフは透明にも曇りガラス風にもできて便利。インテリアトリム類のデザインそのものもシンプルでクリーンなため、そんな空間で過ごすとじつに清々とした気持ちが味わえる。ロングはセカンドシートのスペースが明らかに広く、サードシートは窮屈感とはまったく無縁……といったところ。
装備は国産ミニバンのような手厚さはないものの、とはいえプラスアルファのアイテムが多数搭載される。ロングの場合、シートヒーターは前席左右だけでなくセカンドシートにも備わるほか、ステアリングヒーターも装備される。前席左右間に備わる“ID.Buzzボックス”は前席のセンターコンソールとして使えるだけでなく、後席からもアクセスできる引き出しを備え、さらに本体が可能になっているという気の利いたアイテム。
インパネ中央には使用時に手前に展開して使うドリンクホルダーも備える。新設計のMIB4システムを操作する12.9インチの大型タッチスクリーンもスムースな操作性になっており、少し角度をつけてセットされたスライダー(←指先でなぞる)の操作感もかなり自然なものとなった。
なんとなれば“IDAボイスアシスト”のアイダさん(!?)に声で頼めば、各種機能の音声操作も実現しており、こんな機能を1950年の初代タイプ2が見たら、ヘエーッ!? と驚くかもしれない。インパネそのもののデザインが、横基調のあくまでシンプルにデザインされたものであるのがスッキリとしていていい。
アクセルに対するレスポンスが素直!
ラゲッジスペースはセカンド〜サードシートの堅牢な背もたれを畳むと、いかにもVWらしいガシッとしたフラットなスペースが作り出せる。サードシート後方には、ロングにはこれもまたガシッとしたマルチフレックスボードが備わり、その下にピッタリと格納できるラゲッジボックスも用意される。
肝心の動力性能も十分で、アクセルに対するレスポンスが素直で、思いどおりの加・減速が可能。それと高速走行時の直進性を含めフラットで安定した乗り心地なのも魅力。同行した同業大先輩のKさんに運転をお願いしセカンドシート、サードシートも試したが、内外のEVを熟知されたKさんのスムースな天下一品の(!)アクセルワークということもあり、シート座面に立てて置いたペットボトルが倒れないままだったほどの乗り味が実感できた。サードシートはほんの少しタイヤの動きを感じることがあった。
ドライバーズシートのできがよいこともあり、長時間ドライブを終えてもまったく疲れ知らずだったことも印象的だった。初代タイプ2やこれまでの3代目カラベル、T4トランスポーターなどとまったく変わらない安定感のある乗り味と、家に帰ってきたような寛げる室内空間は魅力的だ。大人はもちろん、こんな極上ミニバンを原体験にできるお子さまはシアワセだと思う。
