2021年のロンドン・コンクール・デレガンスでクラス優勝
クラシックカーのオークションには、ときに「物語ごと欲しくなる1台」が登場します。2025年11月8日にアイコニックオークショネアズが主催した「The Iconic Sale at the NEC Classic Motor Show 2025」にランボルギーニが製造した希少な4シーターGTの「エスパーダ」が登場。イギリスの自動車専門誌創刊者であるオーナーによる丁寧な整備はYouTubeで公開されました。その車両のあらましとオークションの素晴らしい結果についてお伝えします。
フェルッチオが求めた理想のフル4シーターGT
エスパーダは、ランボルギーニの創始者フェルッチオ・ランボルギーニが、それまでの「400GT 2+2」よりもさらに大型で高級なGTを望み、開発を指示したフル4シーターだ。ボディデザインは、ランボルギーニの名を世界に轟かせた「ミウラ」と同様、ベルトーネに委ねられた。
ベルトーネはまずプロトタイプとして「マルツァル」を試作する。しかし、その生産化はフェルッチオに却下された。あまりにも斬新すぎるデザインに加え、リアに2L直列6気筒エンジンを横置き搭載するメカニズム構成では、ランボルギーニが望む運動性能を実現することが不可能だったからだ。
だが、フェルッチオはマルツァルのデザイン自体には好印象を抱いていた。そこで基本的なシルエットはそのままに、ドアをオーソドックスな2ドアタイプへと変更。フロントには当時のランボルギーニの定番である4LのV型12気筒DOHCエンジンを320psの最高出力で搭載した。こうして1968年、最初のエスパーダ「400GT」は誕生した。
全長4738mm×全幅1860mm×全高1185mmのボディサイズは、当時のランボルギーニ車としては最大だ。新たにセミモノコック構造を採用し、キャビンには十分なスペースを確保した。リアには大人2人が余裕で着席できるシートを備え、インテリアの仕上げや装備もトップモデルに相応しい内容とされた。ちなみに、エスパーダに設定された価格は同時期のミウラよりも高価だった。
YouTubeで整備作業を放映した有名なエスパーダS2
今回出品されたのは、1969年に登場したマイナーチェンジ版の「S2(シリーズ2)」だ。「400GTE」とも呼ばれるS2は、リアエンドパネルのスリット廃止や新デザインのホイール装備が特徴としてあげられる。インテリアではメーター・ナセルの形状が変化し、フロントのV12エンジンは圧縮比を高めて350psまで強化された。
この個体を所有していたハリー・メトカーフは、イギリスの自動車専門誌「EVO」を創刊した人物だ。彼は自らのYouTubeチャンネル「Harry’s Garage」のホストも務めている。2020年から2021年にかけて、このエスパーダS2にはエンジンやサスペンションの徹底的な整備が行われたほか、パワーステアリングの装備もなされた。作業のすべては同チャンネルで詳細に記録され、結果としてファンから「世界でもっとも有名なエスパーダS2」と呼ばれるに至った。
完全なコンディションに復活を遂げたメトカーフのエスパーダS2は、2021年のロンドン・コンクール・デレガンスでのクラス優勝をはじめ、多くの受賞歴を重ねてきた。直近の2025年には、愛犬のスタンリーをリアシートに乗せ、イングランドのヨークシャー・ムーアズを横断する旅も行っている。
維持と整備に10万ポンド(約2080万円)を超える資金が投じられたこのエスパーダS2は、イギリスのファンにはとくに魅力的に映ったようだ。オークションは予想落札価格の9万~10万ポンド(邦貨換算約1872万~2080万円)のレンジを超えて続き、最終的に13万2750ポンド(邦貨換算約2761万円)で落札された。
エスパーダは、1973年登場の「S3」を含め、1978年までに1227台が生産されたのみ。この貴重なS2を手にした新たなオーナーは、きっと大きな歓びに包まれていることだろう。
