17台生産された右ハンドル仕様で最後にラインオフした個体
2025年11月1日、RMサザビーズ欧州本社は「ペニンシュラホテル・ロンドン」を会場として、同社のフラッグシップオークションとなる「LONDON 2025」を開催しました。今回はその出品ロットのなかから、ランボルギーニ「カウンタック5000クアトロヴァルヴォレ」を紹介します。
もっともドライビングが楽しいカウンタック?
1974年から1990年に及ぶカウンタックの17年の生産期間中には、競合他社に遅れを取らないよう数多くの進化が施された。初代にあたる「LP400」に続き、3世代の「LP400S」モデルが登場したのち、「LP500 S」、「5000クアトロヴァルヴォレ(QV)」、そして最終的に25周年記念モデル「アニヴェルサリオ(あるいはユビレオとも呼ばれた)」へと継承される。
1971年のジュネーヴ・モーターショーにてプロトタイプ「LP500」がデビューして以来、最後のカウンタックがサンタアガータ工場を離れるまでに、ランボルギーニ社は5度にわたる社主の変遷を経験した。その間、フェラーリは「365GT4 BB」および「512 BB/512BBi」、そして「テスタロッサ」というV12(Vバンク角180度)のライバルを矢継ぎ早に投入している。
1985年当時、新登場したばかりのテスタロッサに対抗させるべく、ランボルギーニは旧態化が否めなくなっていたカウンタックを「5000クアトロヴァルヴォレ」にリニューアルして再投入した。エンジンはLP500Sの段階で当初の4Lから4.7Lに排気量は拡大されていたが、さらにボアアップとストロークアップを施すことで5167ccまでスケールアップされている。
くわえて、1シリンダーあたり4バルブへの切り替えと、エンジンフード上の「パワードーム」からも識別可能なダウンドラフト式キャブレター構成により、出力は375psから455psへと飛躍的に向上。欧州仕様で最高出力390psを発生した最強のテスタロッサをも楽々と凌駕した。
結果、0-60mph(0-100km/h)加速はわずか4.1秒で達成され、大型リヤウィングを装着しない状態での最高速度は、じつに195mph(約315km/h)に達すると主張された。1980年代における驚異的なパフォーマンスにより、5000クアトロヴァルヴォレは多くのドライバーから「もっともドライビングが楽しいカウンタック」と評されている。
しかしこの時期、北米クライスラー・グループのバックアップを得たランボルギーニの改良は、そこで留まることはなかった。5000クアトロヴァルヴォレの生産期間中、ランボルギーニは「88 1/2」イヤーモデルも追加設定する。丸みを帯びたラインのサイドシルにはエアインテークを組み入れたリブ入りのスカートを追加。リヤホイールアーチに新鮮な空気を導くことでブレーキ冷却効率の向上を図ったデザインは、のちの25周年記念モデルの姿を予感させるものだった。
ブルネイ王室のコレクションに加わるはずだった数奇な1台
RMサザビーズ「LONDON 2025」オークションに出品された個体は、1988年製造の「88 1/2」イヤーモデルだ。右ハンドル仕様で生産されたわずか17台のうち最後の1台である。
1988年8月3日、サンタ・アガータ・ボロニェーゼ工場から出荷された個体は、英国の正規代理店「ポートマン・ランボルギーニ・ロンドン」を介して新車として納車された。ボディカラー「ブル・アカプルコ(Blu Acapulco)」のシャシーNo.12420は、ランボルギーニ本社の登録簿によれば同カラーで製作された右ハンドル仕様車2台のうちの1台だ。
シックなボディカラーは「パンナ・コン・フィレッティ・ブルー(Panna Con Filetti Blue)」のレザー内装とマッチし、当時のF1マシンからインスパイアされたリヤウィングとゴールドバッジの装着も相まって、ゴージャスなルックスを演出している。
同年8月中に英国内で登録されたカウンタックは、当初ブルネイ王室の代理店として活動していた「トランスカーUK」社が管理した。その後は、当時王室と関係の深かったイタリア・トリノ近郊の「ピニンファリーナ」工房に保管されていた。ただし、シャーシNo.12420に新たなボディを架装する計画があったかどうかは不明である。
ブルネイ王室がピニンファリーナとの長年にわたるスペシャルカー製作プロジェクトを終了させたのと時を同じくして、2000年に「カーズ・インターナショナル・アソシエイツ」社がこの5000QVを買い取った。時点での走行距離は、約2000kmに過ぎなかったと伝えられる。
その後も英国に留まり、2023年4月に現オーナーが入手した。オークション公式カタログ作成時点の走行距離は9058kmを示しているが、数値は走行距離計が「8327km」と記録された2006年まで遡る英国「MoT車検」履歴によっても裏づけられている。
RMサザビーズの公式カタログでは「興味深いヒストリーを有するシャーシNo.12420は、走行中も展示中も、必ずや観る者の注目を集め、その視線を釘付けにするでしょう」と謳う。いっぽうで、55万~65万ポンド(邦貨換算約1億1000万円〜1億3000万円)という自信をうかがわせるエスティメート(推定落札価格)を設定した。
そして迎えた11月1日の競売では入札が順当に伸び、最終的に62万3750英ポンドで落札。現在のレートで日本円に換算すれば、約1億2900万円という高価格で、競売人の掌中のハンマーが鳴らされたのだ。
