レストアでオリジナル色の“ブル・ミウラ”が蘇る
2025年11月1日、RMサザビーズ欧州本社は「ペニンシュラホテル・ロンドン」を会場として、同社にとってのフラッグシップオークションとなる「LONDON 2025」を開催しました。今回はその出品ロットのなかから、スーパーカーというカテゴリーの開祖として知られるランボルギーニ「P400ミウラ」を紹介します。
レジェンドたちが創りあげた歴史的名作のファーストモデル
今から約60年前、1966年のトリノ・ショーにてデビューしたランボルギーニ P400ミウラは、未来的なスタイリングと最先端のエンジニアリングが見事に融合した1台であった。
このモデルは、ボブ・ウォーレスとパオロ・スタンツァーニ、そしてジャンパオロ・ダラーラという、のちに全世界に名を轟かせることになるレジェンドたちが、それぞれの残業や余暇の時間を利用した試作プロジェクトとしてスタート。
ジョット・ビッザリーニが設計したランボルギーニV12エンジンを最大限に活用するべく、さまざまなアイデアが絞り出されていく。
わずか1年で、この4人による革新的なデザインは公開の準備が整った。正式デビューの前年、1965年のトリノ・ショーに出品された段階では、後世には「TP400」と呼ばれることになるローリングシャシーの状態だったものの、横置きミッドシップ配置のV12エンジンにくわえて、コンパクトな5速トランスアクスルと一体鋳造され、最適なバランスと低重心を実現するため見事に配置されたメカニズムのレイアウトは、ショー会場を訪れたファンや識者たちを驚嘆させた。
くわえてミウラの機能性は、そのスタイリングと等しく調和していた。同じく後世に巨匠として讃えられることになるスタイリストのマルチェッロ・ガンディーニが、カロッツェリア・ベルトーネ在籍時に手がけたデザインワークの結晶である。
このイタリア人デザイナーによる今や伝説的な造形は、深く魅惑的でありながらも、同時に威圧的な目的意識も帯びている。まつ毛を思わせるヘッドランプの縁取り、開くと猛牛の角を連想させるドア。そして、それまでの量産グラントゥリズモでは前例のないほどに野性的ながらゴージャスなインテリアは、まさしく人々の心を奪うにふさわしいものであった。
生産期間8年間で幾度かの改良を経たミウラだが、その時代の最高峰スーパーカーとしての評価を確立したのは初代モデル「P400」であった。初期生産約120台のシャシーは薄鋼板で製造され、その純粋なデザインと軽量性から今なお高く評価されている。
2度の全塗装を経たボディをオリジナルに戻して機関系をオーバーホール
RMサザビーズ「LONDON 2025」オークションに出品されたランボルギーニ P400ミウラは、1968年式の初期生産モデル。シャーシNo.は#3645である。
この年の9月5日、イタリア国内のランボルギーニ正規代理店「SEA」社に引き渡され、「Roma」ナンバー「D29122」で登録されたこの個体は、ベルトーネ製ボディに素晴らしい「ブル・ミウラ(Blu Miura)」のカラーリングを纏い、「スカイ・セナーペ(芥子色のビニールレザー)」のインテリアが組み合わされてサンタ・アガータ・ボロニェーゼ工場からラインオフした。このカラーリングは極めて稀な仕様であり、当時の工場記録資料によればブル・ミウラ塗装のP400はわずか37台のみであったとされている。
このミウラは同年9月下旬、初代オーナーであるローマのジャン・ジャコモ・パラディーノに新車販売されたあと、すぐに転売されランベルト・ジェネージの手へと渡る。1969年11月にSEA社へと戻されたのち、シャーシNo.#3645はロンバルディア州コモ在住のマリオ・ヴァノーリへ売却された。さらに半年後の1970年5月になると、ミウラは再び所有者を変え、マリア・モナステロ名義で登録。1982年5月まで同氏が所有した。
のちに「ロッソ・ミウラ(赤)」へとリペイントされ、2009年にオークション出品されるまでの間には、エンジンをP400S仕様にアップグレードされるとともに、ボディは「ブル・セラ(ミッドナイトブルー)」で塗装されていたと伝えられている。
その後、中東へと輸出されたシャーシNo.#3645は、2018年に今回のオークション出品車である現オーナーが入手。彼はこの象徴的なランボルギーニを、工場出荷時の正統なカラー仕様へ復元することを決断した。
そして直後に、イタリア・ロンバルディア州マントヴァ近郊に工房を構える名門ワークショップ「スカルタパッティ」社へと送られ、完全なベアメタル状態(塗装をすべて剥離した金属素地の状態)でのコンクール・デレガンス仕様へのフルレストア作業が施されることになる。
その作業の質の高さは、到着時の状態からベアメタル状態への剥離、新たなブル・ミウラ塗装、走行装置とエンジンの完全なオーバーホール、新しい内装、そして最終組み立てに至るまでの工程を記録したレストアフォトブックが物語っている。
修復を受託したスカルタパッティ社の熟練工チームが、細部に至るまで執念を持って作業に取り組んだことは、鋭い鑑識眼を持つ者なら気づくことだろう……、とRMサザビーズのキュレーターも太鼓判を押している。
強気のエスティメートを見事にクリアしたコンクール・デレガンス仕様
かくして2021年に完成したこのミウラは、ブル・ミウラのボディカラーとセナーペのビニールレザー内装という新車時の純正どおりのカラーコンビネーションで、エアボックスに貼られた正しい「フィアム」のステッカーに至るまで、見事と言うほかない姿を披露している。
また、アウトモービリ・ランボルギーニ社発行の工場台帳のコピー、修復用フォトブックに加えて、イタリアのFIA下部組織(日本のJAFに相当)の「ACI」が発行する登録年代証明書「エストラット・クロノロジコ」が添付されているのも特筆に値する。
RMサザビーズの営業部門では
「マッチングナンバーのエンジンと輝かしいコンクール・デレガンス仕様の修復を経て、ミウラは次なるオーナーのもとで新たなチャプターを刻む日を待っています」
なる宣伝文を添えて、120万ポンド~140万ポンド(邦貨換算約2億4720万円〜2億8840万円)という、通常であればP400SVはもちろんP400Sよりも安価に推移する事例の多いP400としては、かなり強気にも映るエスティメート(推定落札価格)を設定した。
そして、実際の競売では129万8750英ポンド。現在のレートで日本円に換算すれば、約2億6900万円で無事落札されることになった。
