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予想を下回る悲しきビットハンマー音! マセラティ冬の時代に咲いた4座GT「キャラミ」の現在地とは!?

4万8300ユーロ(邦貨換算約約879万円)で落札されたマセラティ「キャラミ」(C)Bonhams

デ トマソの血を引く傑作4座GTカーが登場!
V8搭載マセラティ キャラミ予想外の結末に…

2026年2月、フランスのパリで開催されたボナムズの大規模オークション「PARIS SALE 2026」に、マセラティの希少なGTカー「キャラミ」が出品されました。デ トマソ傘下という激動の時代に誕生し、総生産台数はわずか198台。数奇な運命をたどった名車の「最低落札価格なし」でおこなわれた競売は、一体いくらで決着したのかをお伝えします。

レトロモビル周辺で大規模オークション開催!
マセラティのレアモデル「キャラミ」が登場

クラシックカー トレードショーの世界最高峰として、フランスの首都パリにて毎年2月初旬に行われる「レトロモビル」。その開催期間中には、オフィシャルオークションであるアールキュリアル(Artcurial)やグッディング・アンド・カンパニー(Gooding & Company)、あるいは業界最大手のRMサザビーズ(RM Sotheby’s)など、複数の国際格式オークションがレトロモビルに付随するかたちで会場のあるパリやその周辺にて開催される。

そんななか、名門ボナムズ オークションは「PARIS SALE 2026」と銘打ち、レトロモビルに訪れる目の肥えたエンスージアストを対象とした大規模オークションを挙行した。今回はその出品車両のなかから、マセラティのレアモデル「キャラミ」をピックアップする。

デ トマソ傘下時代にロンシャンベースで誕生! 古き良きマセラティ時代最後の硬派V8GTカー

1968年以来の親会社であった仏シトロエンの経営不振によって宙に浮いてしまった名門マセラティを、後発企業のデ トマソ グループが買収したのは1976年。その年春のジュネーブ ショーには、起死回生の第一歩となる新型車としてキャラミがデビューした。

キャラミとは、かつてF1南アフリカGPが開催されていたサーキットの名称だ。マセラティV12エンジンを搭載したクーパー T81 マセラティが、1967年の南アフリカGPにてペドロ ロドリゲスの操縦で優勝したことを記念して命名されたという。

この4シーターGTは、デ トマソのクーペ「ロンシャン」のボディをモディファイし、マセラティ伝統のV8エンジンを組み合わせたものだ。したがって、英ジャガー XJに影響を受けたとされる前後とも独立式のサスペンション、リアがインボードの4輪ディスクブレーキなどはすべてロンシャン、および4ドアサルーンの「ドーヴィル」と共用である。

ピエトロ フルアが再設計しマセラティ顔に変身!高級4座GTカーとして世界最速に属すスペック

マセラティの伝説的超弩級レーシングスポーツ「450S」に端を発する、真のサラブレッドV型8気筒4カムシャフトユニットは4.2Lまでスケールダウンされたものの、4基のウェバー製キャブレターと組み合わされ、元来はフォード クリーブランドV8OHVが収まっていたエンジンベイに搭載された。この時代はすでに看過できない問題となっていたエミッションコントロールに備え、同じマセラティV8を搭載する「インディ」などよりは少々デチューンされてはいたものの、依然として255psの最高出力を確保していた。

また、トランスミッションは独ZF製5速MTおよび、英ボルグワーナー製3速ATが選択可能とされたが、前者との組み合わせでは当時の高級4座グランドツーリングカーとしては世界最速に属する、235km/hの最高速度をマークするとされていた。くわえて、上級モデルの「カムジン」などと共用となる4.9Lのフルスケールユニットも、1978年以降はデフォルトとなっていく。

いっぽうボディは、トム チャーダのデザインしたロンシャンのギア製ボディを踏襲するが、ベテランスタイリストのピエトロ フルアの手でマセラティらしく、より低くエレガントな「マセラティ顔」へとモディファイされた。フロントやリアの意匠のみならず、じつはボディパネルの大部分が専用品とされていた。

極初期1976年左ハン/5速MT/シャシーNo.38
イタリアからオーストリアに渡りフルレストア

マセラティ クラブUKがイタリア本社のファクトリーデータから調べたところによると、キャラミは4.2L版が124台、4.9L版が74台の、合わせて198台が生産されたとのことである。

ボナムズ「PARIS SALE 2026」オークションに出品されたキャラミ(シャーシナンバー「#38」/ボディナンバー「#16」)は、デビューイヤーの1976年式ということで、この時期には唯一の選択肢であった4.2L版である。そしてキャラミとしては通算19台目にあたる左ハンドル仕様で、トランスミッションは5速MTだった。

新車として納車されたファーストオーナーについての記録は残されていないが、デリバリー先はイタリア国内だった。2代目の所有者はオーストリア インスブルックのハイモ シュトラウハル、その後は同じくオーストリアのエーベン アム アーヘンゼーに住むフリッツ コステンツァーが引き継いだ。

コステンツァーの所有のもとでは、オーストリア シュトラスのスペシャリストであるクリストフ ダポントにより、3年間(2012〜2015年)にわたってレストアが行われた。ボナムズのキュレーション担当者が2013年にシュトラスを訪ね、修復作業中のこの車両を視察した際には、ボディパネルはベアメタル状態まで完全に分解されていたという。

外装のオリジナルカラーは、ランボルギーニなどにも時おり見られるモスグリーンのメタリック「ルーチ デル ボスコ」であった可能性が高いそうだが、内装のオリジナルカラーについては不明とのことだ。現在はブラックメタリック塗装にクレーマ(クリーム色)のモケット張りインテリアの組み合わせで設えられている。

マセラティ冬の時代に咲いた硬派クーペの大輪に
リーズナブルに過ぎる価格で悲しく響くビット音

今回のオークション出品に際して、ボナムズは5万ユーロ〜7万ユーロ(邦貨換算約910万円〜1274万円)という自信ありげなエスティメート(推定落札価格)を設定した。その上で「Offered Without Reserve」、つまり最低落札価格は設定しなかった。

このリザーブなしという出品スタイルは金額の多寡を問わず確実に落札されることから、とくに人気モデルではオークション会場の雰囲気が盛り上がり、ビッド(入札)が進むことも期待できる。ただしそのいっぽうで、たとえビッドが出品者の希望に達するまで伸びなくても、落札されてしまうという落とし穴も二律背反的に持ち合わせる。

そして迎えた競売では、リザーブなしのリスクが発露してしまったかのように、エスティメート下限には今一歩届かない4万8300ユーロ。現在のレートで日本円に換算すれば約879万円という落札価格で、競売人のハンマーが鳴らされることになったのだ。

マセラティ キャラミは総計でも200台足らずしか生産されていないせいか、現在の国際マーケットで売り物が出る機会も少ないようだが、さらにレアな「キャラミ4900」ならば、1万〜2万ユーロ増しで取り引きされる事例が多い模様である。

デ・トマソ時代の混沌とした「マセラティ冬の時代」に咲いた、最後の古き良き大排気量V8のグランツーリングクーペの大輪にしては、少々リーズナブルに過ぎるビットだったように思えて仕方ない。

※為替レートは1ユーロ=182円(2026年3月9日時点)で換算

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