フェラーリ伝統のV12をMTで操る優雅な4シーター極上ワンオーナー車がマニアックすぎて流札!?
フェラーリといえば2シーターのスポーツカーを想像しがちですが、常にカタログモデルとして4シーター(2+2)をラインアップし続けてきた伝統があります。今回は2026年3月にイギリスで開催されたオークションに登場した、1980年式フェラーリ「400i」に注目しました。生産台数わずか25台という超希少な「右ハンドルのマニュアルミッション車」のディープな歴史と、意外なオークション結果をご紹介します。
フェラーリのカタログには常にあった伝統の4シーターモデルの系譜でデイトナと同一エンジン!
フェラーリが、カタログモデルとして常に4シーターモデルをラインアップしていることは、ご存じのとおりである。その歴史の始まりは、1960年に誕生したフェラーリ 250GTEである。その後、フェラーリ 330GT 2+2、フェラーリ 365GT 2+2を経て、その系譜はフェラーリ 365GTC/4へと受け継がれる。
もっともこの365GTC/4は、基本的には確かに2+2のレイアウトを持っていた。しかし、実質的にはほぼ使い物にならないリアシートであった。それ以前のモデルは、それなりに大人でも我慢すれば乗れたスペースを維持していたが、365GTC/4の場合はほぼ不可能である。かつて無理やり乗り込んで走ってはみたものの、足を置くスペースはなく、頭をかがめて横に座ることを強いられた。
そんなわけで、2+2とは称するものの、この365GTC/4はわずか1年でフェラーリ 365GT4 2+2にバトンタッチされることになった。新たにつくられた365GT4 2+2は、狭いリアシート問題を解決すべく、365GTC/4のシャシーをホイールベースで150mm延長した。これにより365GTC/4以前のモデルと、ほぼ同等のリアシートスペースを有したモデルだった。メカニカルな部分では、こちらは365GTC/4を踏襲していた。
アメリカの排ガス規制をクリアしたKジェトロのインジェクション化で1979年にようやく輸出開始
365GTC/4は、それ以前のフェラーリとは大きく異なる。同じ4400ccのV12を搭載するも、キャブレターはダウンドラフトからサイドドラフトに変更された。これにより、ダウンドラフトに比べてエンジン高を低くすることができた。ちなみにエンジンコードは「Tipo F101AC」と呼ばれるもので、これはフェラーリ 365GTB/4 デイトナのそれと同じである。
シャシーの基本は、これもデイトナのそれと同じである。すなわちチューブラー・スペースフレーム構造で、サスペンションは横置きAアーム、ショックアブソーバーと同軸のコイルスプリング、そして4輪すべてにアンチロールバーが装備されていた。その365GT4 2+2がフェラーリ 400に置き換わるのは、1976年のことである。
この時、フェラーリとして初のAT車が誕生した。GMソースの3速ATが装備されたのである。誇り高きフェラーリが、なぜアメリカの汎用ATを採用したのかと疑問に思うかもしれない。しかし、このGM製ATは巨大なV8エンジンの大トルクにも耐えうる、極めて頑丈で信頼性の高い名機である。ジャガーのV12モデルなどにも採用されていた実績があった。このタフなトランスミッションの選択が、400シリーズのグランドツーリングカーとしての完成度を大いに高めていたのである。
ATの採用や4シーターという特徴から、主要輸出国はアメリカであるという印象を強く持つかもしれない。しかし、じつはこの時点でアメリカには輸出されていない。排ガス基準に適合しなかったからだ。
1979年になってヨーロッパでも排ガス基準が厳しくなると、フェラーリでもついにキャブレターをやめて、インジェクションを装備する。これが1979年に登場するフェラーリ 400iである。ボッシュ製のKジェトロニックインジェクションを備えた結果、排ガスは大幅に浄化された。これにより、ついにアメリカの排ガス基準を満たすことになった。
ただその代償もあり、最高出力は365時代の340psから310psに引き下げられた。しかし、その分リライアビリティの向上もあったというから、犠牲は最小限といえよう。
生産1308台中わずか25台の右ハンドルMT仕様。ワンオーナーで前期型の歴史的価値高いフェラーリ400i
400iは1979年から1985年までの間に1308台が生産された。これは同じボディの365や400、さらには後継モデルであるフェラーリ 412のなかで、もっとも生産量が多いモデルである。ちなみに400iは1982年にマイナーチェンジを受けて、エンジンのみならずインテリアなどにも変更を受けた。
今回出品された1980年式の400iは、いわゆる前期型に属する。後期型とは外観上でもそれなりの違いを見せる。例えば、リアのコンビランプがつくパネルがブラックアウトされていたり(1982年以降はボディ同色)、サイドミラーの形状が異なっていたりする。また、アンダーグリルがボディ幅いっぱいに広がっている(1982年以降は両端にドライビングランプが装備される)点も特徴だ。
だが、このクルマ最大の特徴は、オークション出品前までワンオーナー車であったことだ。さらに、希少なマニュアルミッション車である点も見逃せない。400の時代からAT車の生産が始まり、当時のAT比率は50%ほどに達していた。そのなかで、あえてドライバーズカーとしてオーナーがチョイスしたMT仕様なのだ。くわえて、イギリス市場向けに作られた右ハンドル車であり、マニュアルの右ハンドル仕様はわずか25台しか存在しない。
イギリスの顧客も希少「右ハンドルでマニュアル車」で注目したが、あまりに通好みな仕様ゆえの流札か!?
主催者側は4万3000ポンド〜5万3000ポンド(約924万5000円〜1139万5000円)というエスティメート(推定落札価格)を設定していた。オークションはバーミンガムで行われたため、当然ながらイギリスの顧客が興味を示すはずである。しかし、一方でヨーロッパ圏内において右ハンドルは逆にデメリットとなるのだろうか。2026年3月22日に行われたこの時のオークションでは、最低落札価格に届かず流札となってしまった。VIN(ヴィークル・アイデンティフィケーション・ナンバー)は31483。走行距離は3万580マイルだそうである。
イギリスの地でワンオーナーに愛され続け、世界に25台という超希少な右ハンドルのマニュアル仕様。エンスージアストであれば喉から手が出るほど欲しいスペックでありながら、結果はまさかの「NOT SOLD」であった。もしかすると、4シーターフェラーリのV12をマニュアルで操るというこの上なく優雅でマニアックな嗜みは、現代のオークション市場においては少しばかり「通(ツウ)すぎた」のかもしれない。
※為替レートは1ポンド=215円(2026年4月16日時点)で換算
