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ポルシェ「959」を「50台のみ」最新レストモッド技術で800馬力に生まれ変える米国カネパの執念と実力!

流札後、個別販売(Sold After Auction)にて販売成立したポルシェ「959SC リイマジンド by カネパ」(C)Courtesy of Broad Arrow

伝説の「ポルシェ959」を800馬力の怪物へ変えたカネパの執念と究極のレストモッド技術

旧いクルマを現代の技術でアップデートして蘇らせる「レストモッド」です。その対象はついに、1980年代の伝説的スーパーカーであるポルシェ「959」にまで及びました。アメリカのオークションに出品された「959SC リイマジンド by カネパ」は、オリジナルを全分解して4000時間をかけ、800psのハイパーカーへと生まれ変わらせた究極の1台です。ビル・ゲイツにまつわる輸入の逸話と、気になるオークションの結末に迫ります。

1980年代ポルシェの技術的優位を世界にアピールするため誕生した超ハイテクマシンだった959の存在

2000年代を迎えたのち、とくに欧米のクラシックカー界にしばしば現れる「レストモッド」。古いクルマをレストアする際に現代のテクノロジーを一部導入することにより、まったく新しいクルマを創作するというムーブメントとして隆盛を極めつつある。その対象はついに、伝説的なスーパーポルシェであるポルシェ 959まで至ることになったようだ。

アメリカ合衆国のブロードアロー オークションズが、2026年3月7日にフロリダ州にて開催した「アメリア・アイランド・コンクール・デレガンス」のオフィシャルオークション「The Amelia Auction 2026」において、ポルシェ 959をレストモッド化した「959SC リイマジンド by カネパ」が出品され、世界的な話題を提供した。

1980年代初頭、ポルシェはそれまでの10年にレース活動で培った技術的優位性を証明することに熱心だった。のちに959として実用化される試作車「グルッペB スタディ」はこうした進歩を提示するために考案され、1981年にはすでに開発が始まっていた。

ターボチャージャーは1972年に「917/10 Can-Am」レーシングカーで初採用された。そして3年後の1975年には市販ポルシェ初のターボ搭載車であるポルシェ 930ターボを経て、959へと受け継がれる。

ただレーシングプログラムを通じて、ポルシェは空冷水平対向6気筒エンジンの熱的限界に到達していた。1982年には無敵を誇った耐久レースプロトタイプのポルシェ 956に水冷式ヘッドが採用され、わずか数年後の959はこの実験の恩恵を受ける。車高調節式サスペンション、トルクスプリット式インテリジェント4WD、タイヤ空気圧監視システム、ABS、複合材ボディ構造など、当代最新のスーパーカーでは当たり前とされるこれらのテクノロジーは、959に採用された当時には時代を数十年も先取りしていた。

ビル・ゲイツも動かしたポルシェ959は、カネパの手で究極の「959SC」へと進化し公道走行可能に!

この象徴的なスーパーカーは、1980年代末までに公称292台しか生産されていない。1台あたりの製造コストは、販売価格である42万ドイツマルクの2倍だったと推定されている。この巨額の損失に直面したポルシェは、959をアメリカ合衆国NHTSA(運輸省道路交通安全局)の安全基準に適合させるための改造や試験を実施することができず、結果として米国では公道走行が認められなかった。

その後、数台の959がアメリカに流入したものの、このモデルこそが当時のブルース・カネパ(カリフォルニア州スコッツバレーを拠点とする世界最高峰のポルシェ専用レストア・ショップおよびカーディーラー)らが合衆国政府に「展示用車両規則」への適用を訴えた典型例となる。同規則は1999年8月に成立した。歴史的・技術的意義を満たすと認められた特定車両の個人輸入と、限定的な公道使用を許可する特例法である。この法律は、税関に13年間も保管されていたビル・ゲイツの959を走行可能に至らしめたことで有名になった。当時のゲイツが巨額の私財と優秀な弁護士団を動かしてまでこの特例法を成立させたという逸話は、959というクルマがいかにアメリカの富豪たちを熱狂させていたかを物語っている。

この規則の制定から数十年を経たいま、カネパがポルシェ 959から可能な限りの性能を引き出すという執念は、標準仕様の959向けに開発された一連の改良と性能向上に結実した。そして2015年には、「959SC(Sport Canepa) リイマジンド by カネパ(959SC Reimagined by Canepa:カネパによって再解釈された959 SC)」プログラムとして正式に発表されるに至った。

伝説のポルシェ959をカネパが完全刷新し、現代の800馬力ハイパーカーへと昇華させた「959SC」

通常、生産台数が極端に少ない歴史的クラシックカーに手を入れる「レストモッド」は、オリジナル至上主義のコレクターから強い批判を浴びがちだ。しかし、この959においてカネパだけが例外として許容(むしろ熱狂的に歓迎)されているのには理由がある。彼らこそが北米で959を合法化させた立役者であり、長年のメンテナンスを通じて誰よりも959の弱点を知り尽くしているからだ。

カリフォルニア州スコッツバレーに本拠を置くカネパは、その経験をもとに、ポルシェの卓越した創造物のあらゆる要素を根本から再調整し、一部の領域では完全に再設計するアプローチを開発したのである。

カネパ本社ではもっともオリジナルに近い個体のみを選び、まず車両全体を慎重に分解して、鋼鉄のモノコックボディまで剥き出しにする。この段階ですべてのボディパネルは塗装の下地処理を施されるかたわら、顧客は150色以上におよぶポルシェ純正の「ペイント・トゥ・サンプル」パレットから選択するか、独自のカラーをカスタマイズすることができる。また、キャビンについてもポルシェ純正の数えきれないほどのカラーとステッチオプションから、400時間以上をかけて新しいレザー内装を製作する。

カネパの自社塗装・内装部門が唯一無二の内外装を仕立て上げるいっぽう、ポルシェ 959の整備に20年以上の経験を持つ技術者たちが、4000点を超える個々の機械部品を点検し、再構築あるいはアップグレードを行う。文字どおり何も手をつけない箇所はなく、すべてのボルトやクランプ、フィッティングが分解され、さまざまなコーティングで再メッキされる。

グループBクラスの公認取得を目的に開発され、グループCカーであるポルシェ 956/962のパワートレインを継承した959の空水冷2800cc フラット6+ツインターボエンジンは、もとより工場出荷時の450ps/51.0kgmを大幅に上回る出力を想定して設計されていた。

いっぽう、既存エンジン部品の最適化と新規部品の開発に30年を費やした結果、959SCの水平対向6気筒エンジンは、カネパの「ステージIII」アップグレードにより、800ps超という驚異的パワーと約90kgmのトルクを発生する。最新鋭のボルグワーナー製ターボチャージャーなどが効力を発揮し、獲得したパフォーマンスはまさしく現代的なハイパーカー級。0-97km/h加速は2.5秒、最高速度は約370km/hを超える走行性能を発揮することになったのだ。

5億円超えで成約した究極のレストモッド「959SC」は、959が秘める現代ハイパーカーへの潜在能力

総生産台数は最大でもわずか50台に限定されるという「959SC リイマジンド by カネパ」。ベースとして選定されるのは、あくまでオリジナルな状態を保ち、走行距離の少ないポルシェ 959のみとのことだ。

このほどアメリア・アイランド2026に出品されたシャシーNo.#053は、もともと266台が製造された「959 コンフォート」の1台であり、分解された時点での走行距離は8302kmという理想的な状態にあった。当初は「ポーラーシルバーメタリック」のボディに「ダークグレーメタリック」のレザー内装という仕様だったが、2019年にカネパへ持ち込まれ、4000時間以上の作業を経て2022年に完成。カネパ 959SCとしてのシリアルナンバー「009」が与えられた。

現在、このポルシェは純正色「アイリッシュグリーン」を基調としつつ、微調整を施した塗装を纏っている。室内は特注の「タバコブラウン」レザーと調和したカットパイルベロアカーペットで仕上げられた。

今回の出品にあたり、主催者側は「伝説的なモデルを21世紀へ引き継ぐべく、数十年にわたる研究開発を経て実現した、959プラットフォームの真のポテンシャルを体感できる機会である」とアピール。325万ドル〜375万ドル(邦貨換算約5億1350万〜5億9250万円)という、ここ数年のポルシェ 959の相場感からしても、かなり自信ありげなエスティメート(推定落札価格)を設定した。

ところが3月7日の競売では、オーナー側が指定したリザーブ(最低落札価格)には届かず流札となった。しかし、そのあと「Sold After Auction」、つまりオークション終了後に個別販売で成立したという。

事後販売価格は公表されていないものの、今年の「アメリア・アイランド」セールスにおける落札価格順位では、第10位にランクインする堂々たるプライスだったとのこと。オリジナルを至上とするクラシックカー市場において、この極端なレストモッドモデルがここまでの高評価を得た事実は、ポルシェ 959の奥深さとカネパの執念の勝利と言えるのではないだろうか。

※為替レートは1ドル=158円(2026年4月16日時点)で換算

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