33年間普段の足として走り続ける稀少「シエラRSコスワースの維持に苦労しない」理由とは?
富士スピードウェイで開催されたハチマルミーティング会場に、日本では正規輸入されなかった激レアな並行輸入スポーツカーが姿を現しました。1986年式フォード「シエラRSコスワース」です。一世を風靡した1980年代のグループAツーリングカー選手権で世界を席巻したホモロゲモデルです。そんな稀少なスポーツカーを実に33年間にわたって乗り続けるオーナーは「普段の足」としても使用していると言います。そんなオーナーの維持の秘訣や苦労を聞いてみました。
巨大二枚刃ウイングを装着した3ドアハッチバックをハチマルミーティングで発見
会場内に並ぶ数多くの車両のなかに、小柄なタマゴ型のような3ドアハッチバックでありながら、リアには髭剃りのような巨大な二枚刃ウイングを装着した1台を発見した。1980年代のツーリングカー選手権やラリーで大活躍したフォード「シエラ」のホモロゲマシンである。日本での知名度こそ高くはないが、独特のハイマウントウイングを装着した姿は印象的で、欧州では今なお大人気のモデルだ。オーナーの手島さんに話を聞いた。
「このクルマは1986年式のフォード シエラRSコスワースで、イギリスから並行輸入された右ハンドル仕様になります。今から30年以上前の1993年に入手しました。当時グループAツーリングカーレースをリアルタイムで見ていたので、そこで活躍していたこのシエラがカッコイイと思っていて、たまたま売りに出ているのを知って、入手しました」
欧州フォードが生み出したグループAホモロゲーションモデルは悪党にも大人気だった!?
フォード シエラRSコスワースは、シエラをベースとしたホットモデルだ。シエラはフォードブランドながら、アメリカ市場向けではなく、欧州フォードが製造した欧州向けのモデルである。ヨーロッパのツーリングカー選手権への参戦を目的にグループAホモロゲーション(競技参加に必要な型式認定)を取得し、1986年に販売を開始した。エンジンはコスワースが開発を担当した2リッター直列4気筒4バルブ ツインカムエンジンを、ギャレットT3ターボで過給し最高出力204psを発生した。当時の2リッターターボエンジンとしてはリッター当たり出力が100馬力を超えるスペックは、驚異的でした(当時ライバルのスカイラインが800台限定で1987年に販売したGTS-Rが、RB20DET-Rとして登場し210馬力を謳った)。
翌1987年には500台限定生産のエボリューションモデル、RS500コスワースも登場。こちらはさらに高出力化され、227馬力を誇るスペックで登場。結局、シエラの両モデルはレースで大活躍し、日本の全日本ツーリングカー選手権でもR32スカイラインGT-Rが参戦する1990年まで無敵の強さを誇った。なお、ベース車両のシエラは日本に正規輸入されたものの、シエラRSコスワースは並行輸入のみだったため、日本では非常に珍しく、イベントでもあまり見かけることはない。
ちなみに、発売当初からその性能と人気を背景に、英国では思わぬ問題も生じた。ドアロックの脆弱性から解錠が容易であったうえ、高い走行性能のために警察の追跡からも逃げやすく、盗難ターゲットとして格好の存在となってしまい「逃走車」というありがたくない異名を授かるほどだった。1990年代半ばには英国で最も盗まれたパフォーマンスカーのひとつとして悪名をとどろかせ、一部の保険会社は保険加入の引き受けを渋るほどだったし、異常な保険料高騰も招いたという逸話も残っている。
RS500コスワース仕様の外装を身にまとう希少な1台
このクルマは購入当初からリアのトランクスポイラー、通称「ホエールテール(クジラの尻尾)」が装着されており、ボディにはRS500のレタリングも入っているなど、エボリューションモデルであるRS500コスワース仕様の外装となっていたという。これに合わせて手島さんはフロントリップスポイラーもRS500用を入手して装着した。また足まわりには車高調を組み込み、ホイールはスピードスターメッシュをセレクト。ホイールサイズはフロント7J、リア8Jと前後で異なるサイズとオフセットを採用している。
日本の個体数は少ないがパーツ供給は良好、今も普段のアシとして現役
「珍しいクルマですが、ヨーロッパにはかなりファンが多い車種なので、イギリスでリプロのパーツをリリースしていて、RSコスワース専用のパーツもかなり入手できます。だから維持にはそんなに苦労していません。今はこのクルマしか所有していないので、休みの日は普通にアシとして乗っています。この外観が好きで購入したので、特にカスタムする気もないし、これからもこの状態を維持していきたいですね」
国内での流通はほぼ絶え、海外オークションでの落札価格も上昇の一途をたどるシエラRSコスワース。希少性ゆえに「眺めるクルマ」になりがちだが、このクルマが最も輝くのはやはり走っているときだ。オリジナルを守りながら日常の足として乗り続けること。それこそが、シエラRSコスワースにとっての最高の保存方法といえるだろう。
