サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

電子制御ゼロの超硬派FRスポーツカー! TVR「タスカン」が英国オークションで示した存在感

1万9125英ポンド(邦貨換算約404万円)で落札されたTVR「タスカン」(C)Iconic Auctioneers

英国の国際オークションに現れた超辛口のスーパースポーツ

クラシックカー分野における世界の中心国とも言えるのが、イギリスです。そのイギリスで開催される国際オークションには年代や洋の東西を問わず、あらゆるジャンルのクルマが出品されています。しかしそのいっぽうで、かつて英国で作られ今なお英国内を中心に愛される、ドメスティックなクラシックカーやヤングタイマーたちの出品が多く見られるのも面白い特徴です。イギリスの小規模コンストラクターであるTVRは、軽量なボディに過剰なほどのパワーを詰め込んだ、電子制御を拒む超硬派なスポーツカーメーカーです。2026年3月に開催された公式オークションに、そのTVRが作った「タスカン」が出品されました。その詳細と落札結果をここに紹介します。

奇跡の復活を遂げたTVRの純血性を象徴するタスカン

英国のクラシックカー専門誌「Practical Classics」誌が主催するトレードショー「The Classic Car and Restoration Show 2026」に際して、英国アイコニック オークショネアが、2026年3月21日と22日に開いたイベント公式オークションでは、かつては日本でも一定の人気を得ながらも、今ではあまり見られなくなったスーパースポーツであるTVR「タスカン」が出品されていた。

1947年、英国ブラックプールに創業したTVRは、もともとエンスージアストのトレヴァー ウィルキンソンが自身のレース用マシンを製作したことに端を発する小規模コンストラクターだ。1960年代にはTVR「ヴィクセン」やTVR「グランチュラ」などの小排気量ライトウェイトスポーツカーで成功を収めた。

また、北米フォードの289立方インチ(4.7リッター)V8エンジンを小さな軽量ボディのフロントに詰め込んだモンスターであるTVR「グリフィス」やTVR「タスカンV8」なども販売して気炎を上げたものの、排ガス対策や安全対策によって、のちにスポーツカー冬の時代と呼ばれることになった1970年代後半には、慢性的な経営不振に陥ってしまう。

しかし、1981年に経営権を取得したピーター ウィラーの精力的な運営によって、TVRは奇跡の復活を果たす。1990年代にはローバー製のV8 OHVエンジンを搭載した二代目グリフィスおよびTVR「キミーラ」で、大きなヒットを獲得することになる。

そののち、バックヤードビルダー出身のメーカーとしては常識外ともいえる完全自社設計のV8エンジン「AJP8」を開発し、2+2のグランドツアラーであるTVR「サーブラウ」に搭載。さらには、同じく自社設計となる直列6気筒DOHC24バルブの「スピードシックス」を開発し、その搭載機種である二代目タスカンを1998年にデビューさせた。

グリフィスの後継車と目されたタスカンは、TVRの伝統であるマルチチューブラースペースフレームに、レーシングカーはだしの4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションと、流麗きわまる2シーターFRPボディを組み合わせる。タスカン以来の豪奢なレザー張りインテリアを与えられつつも、車両重量は依然としてライトウェイトの部類に属する1100kgを標榜した。

そして3996ccのスピードシックスを搭載した初期の4.0リッターモデルでは、最高出力360psをマーク。0-100km/h加速は4.2秒、最高速度は280km/h以上と公称していた。ところがこの恐るべき軽量ボディとパワーに対して、一切の電制ドライビングアシストを持たないことから、そのFR車のハンドリング特性は超ピーキーなものだった。明らかに、ドライバーのスキルを問うスパルタンなスポーツカーとなっていたのも事実だろう。

乗り手を選ぶ高性能とスパルタンなキャラクターが価格に与える影響

アイコニック オークショネア主催のオークションに出品されたTVRタスカンは、車歴上唯一の名義人であり、このオークション出品者でもある現オーナーがノースウィッチにあったディーラー「クリストファー ニールTVR社(Christopher Neil TVR)」に注文し、新車で購入したとのことだ。

新車として特別オーダーされたこの個体は、サンプル指定色として英ヴォクゾール社の指定カラーから選んだ「トロピカルグリーン」で仕上げられ、注文の際に使用されたオリジナルのカラー見本も付属しているという。

公式オークションカタログの作成時点で、オドメーターが表示していた走行距離は15万1726マイル。つまり約24万2760kmを走ったことになる。ただしワンオーナー車ゆえに記録簿は充実しており、これまでの主なサービス履歴としては、2011年10月に9500英ポンドを支払って実施されたエンジン全分解オーバーホールと、2017年7月に走行距離14万1133マイルの時点でクリストファー ニール/TVRパワーによって実施された、二度目のエンジンオーバーホール(費用8000英ポンド)などが挙げられる。

また2018年2月、走行距離14万6938マイルの時点では、1万3200英ポンドを投じて鋼管フレームの全面交換が行われたほか、2025年1月にはバッテリー交換を含むフルサービスも施されている。そして直近には、エンジンのオーバーホールとシャシーのパーツ交換も実施され、この時の総費用は2万1228英ポンドに上った。

このタスカンには、新車時代から純正のパナソニック製CDステレオが装備されているほか、2003年8月27日付の新車注文書、2003年12月19日付のクリストファー ニール発行のTVR新車納車請求書、所有期間中のディーラー整備に関する請求書、およびメンテナンスや修理の詳細が記載された多数の領収書を含む、多数のオリジナル書類が添付されていた。

アイコニック オークショネアでは今回の出品にあたって、当地における二代目グリフィスの相場価格に準拠したと思われる、1万5000英ポンド~1万8000英ポンドのエスティメート(推定落札価格)を設定していた。

そして迎えたオークション当日、バーミンガムNECで行われた競売ではエスティメート上限を超える1万9125英ポンド、すなわち現在のレートで日本円に換算すると約404万円で競売人のハンマーが鳴らされることになったのだ。

ポルシェやフェラーリなど、同じ時代に販売されたヤングタイマーやスーパースポーツの多くが、現在でも新車時に近い、あるいはそれ以上の価格で流通しているのと比較してしまうと、今回の落札価格は日本における新車時代の半額以下で販売されたことを思えばリーズナブルと思えなくもない。

しかし、今回のオークション出品車両の整備記録にもあったように、錆から始まる腐食が発生しやすい鋼管フレームには定期的なメンテナンス、時には丸々交換する必要が生ずること。あるいは、汎用性の高いローバーV8とは異なり、純レーシングエンジンに近い基準で設計されたスピードシックスは、整備やオーバーホールの頻度も高くせねばならないなどの不可避的な要因から、オーナーとなる者にはある種の覚悟を求める、21世紀まで生産されたなかでは稀有なクルマである。

それらのマイナス要素を乗り越えてでも、この高性能とワイルドな乗り味を試したいとするバイヤーは、やはり英国内の限られた好事家が大多数を占めてしまう。それが、今回のエスティメートと落札価格を決定づけたということなのであろう。

為替レートは1英ポンド=211円レート(2026年5月17日時点)で換算

モバイルバージョンを終了