16年の時を経て結実した圧倒的な完成度と品格の力
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になるキーワードから徒然なるままに語る連載「Key’s note」。今回のお題は、16年ぶりにフルモデルチェンジを果たした新型日産「エルグランド」です。ライバルたちを完全に凌駕するほどの完成度に仕上がった新型モデルの、和の美意識が息づくデザインから、新世代e-POWERがもたらす極上の走りまで、その真価を徹底的に紐解きます。
ガンダム系デザインとは対極にある“和”の品格
日産は復活する——そんな確信を、これほど鮮烈に抱かされたのは久しぶりだ。新型日産「エルグランド」は、来るべきライバルたちを完全に凌駕するほどの完成度に仕上がっていたのである。
まず外観に目を奪われる。上質、という言葉では足りない。静謐でありながら力強い。堂々としているのに、決して威圧的ではない。その絶妙なバランスが、見る者の心をじわりとつかむ。
対峙すべきはもちろん、トヨタ「アルファード」とトヨタ「ヴェルファイア」である。詳細なサイズは未公表だが、視覚的なスケール感は明らかにそれらを上回っている。ティザーで見た印象よりも、実車ははるかに骨太で、芯の通った存在感を放っている。
そのたたずまいを支えているのは、“和”の美意識だ。フロントマスクは、日本古来の「組子」をモチーフとしているという。細やかな意匠が織りなす陰影は、まるで光と影を編み込んだ工芸品のようだ。全身からにじみ出る気配は、神社仏閣のそれに似ている。派手に主張するわけではないのに、そこに在るだけで空気を変えてしまう。凛として、揺るがない。
近年、街にはいわゆる“ガンダム系”のデザインがあふれている。エッジを効かせ、凹凸を強調し、視覚的な刺激で存在を誇示する潮流だ。だが、このエルグランドはその対極にある。たしかに威厳はある。しかし、それは力でねじ伏せるような暴力性ではない。静かに、しかし確実に相手を納得させる説得力、いわば“品格の力”である。
ライバルを見下ろす着座点と階段教室のような後席
インテリアもまた、その思想に貫かれている。過剰な装飾は控えられ、むしろ引き算によって重厚な空気を醸し出す。現行型の特徴だったウォークスルーは廃され、フロントシートはセパレート型へと進化した。これにより、ドライバーと乗員それぞれの居場所が明確になり、空間全体に緊張感と落ち着きが同居する。
じつは、ドライバーの着座点はライバルよりわずかに高く設定されている。これにより、信号待ちなどで横に並べば、ほんの少しだけ見下ろす形になり静かな優越感を抱けるという心憎い仕掛けなのだ。
後席に目を移せば、そこはもはや“移動空間”ではない。上質なシートは、航空機のプレミアムクラスをも凌ぐ快適性を備えている。3列目も例外ではない。もはやエマージェンシーシートという概念は過去のものだ。長距離移動すら楽しみに変えてしまう余裕がある。
さらに興味深いのは、シート配置にわずかな段差が設けられている点だ。じつはこれ、まるで階段教室のように、後方へ行くほど視界が開けるシアターレイアウトを採用している。これにより閉塞感が抑えられ、3列目でも車酔いのリスクが大幅に低減される。細部に宿る配慮が、乗る者すべてに恩恵をもたらすのだ。
e-POWERとe-4ORCEがもたらすフラットライドの革命
走りもまた、劇的に進化している。心臓部にはe-POWERが搭載されるが、発電用エンジンは1.5リッターターボへと刷新された。前後モーターの出力も飛躍的に高まり、加速はじつに滑らかだ。低速での力強さと高速域での伸び、その両立が見事に果たされている。かつての電動車にありがちだった“頭打ち感”は、もはや過去の話だ。
操縦性も特筆すべき領域に達している。電子制御ダンパーがロールとピッチを巧みに抑え、さらにe-4ORCEが車体姿勢をフラットに保つ。加速時には前輪のトルクを高めて後部の沈み込みを防ぎ、減速時には後輪に負の駆動力を与えることで前のめりを抑制する。前後左右、どの方向にも偏らない“フラットライド”が実現されているのだ。
加えて、スムースストップ機能が秀逸である。停止直前にブレーキ圧を緩めることで、熟練ドライバーのような穏やかな停止を再現する。多少ラフに操作しても、乗員には丁寧な所作として伝わる。運転が上手くなったと錯覚させるあたり、なかなか罪深い仕掛けである。
乗り心地も抜群だ。可変ダンパーが路面からの入力を巧みに吸収し、まるで舗装されたばかりの道を走っているかのような錯覚に陥る。静粛性も見逃せない。徹底した遮音・吸音対策により、加速時の騒音はライバル比で5dB低減されているという。この差は、数字以上に体感として大きい。
そして燃費。これまでe-POWERの弱点とされてきた高速域での効率が大幅に改善されたという。資料を信じるならば、その性能はミニバンの頂点に達した。もしそれが事実なら、これは単なる進化ではなく“革命”と呼ぶべきだろう。
正直なところ、試乗時にチェックすべきポイントが感動的に進化していることに腰を抜かしかけた。少々意地悪目線でアラを探してみたものの、発見することができなかった。したがって、忖度があるようなリポートになってしまったが、それも正直な感想だと思ってほしい。
16年ぶりのフルモデルチェンジ。その歳月は決して空白ではなかった。技術を磨き、ライバルを研究し尽くした時間である。そして今、その蓄積が1台のクルマとして結実した。
なるほど、16年待たされた理由がわかった気がする。これは“遅れた”のではない。“熟成させていた”のだ。
