CO2を集めて農業に活かす軽トラと、段差も越えるロボットの足。スズキが示した2つの未来
「人とくるまのテクノロジー展2026」のスズキブースには、軽トラックで走りながらCO2を回収し農業に活かすシステムと、電動車いすの技術を応用して段差を軽々と乗り越える多目的電動台車が展示されていました。カーボンニュートラルと人手不足という2つの社会課題に、スズキならではのアプローチで挑む姿が印象的です。
排気ガスのCO2を農業に転用する逆転の発想
カーボンニュートラルという言葉が広く使われるようになって久しい。日本では2020年に菅義偉総理大臣が「2050年カーボンニュートラル宣言」を行ったことがきっかけのひとつだ。
今回スズキが出品したのは、CCC(カーボン・キャプチャー・キャリー)と呼ぶCO2回収装置を搭載した軽トラック「スーパーキャリイ」だ。CO2回収装置については、マツダが「Mazda Mobile Carbon Capture(マツダ モバイル カーボン キャプチャー)」として2025年のJapan Mobility Show 2025で発表・実証実験を開始している。両社ともCO2の吸着材にゼオライト(分子を選んで通すスポンジ状の鉱物)を使う点では共通しているが、スズキが一歩先を行ったのは、回収したCO2の「使い道」を具体的に示したことだ。
仕組みはこうだ。排気ガスをまず冷却し、気液分離部で水分を除去したうえで、吸着材にCO2を吸着させる3ステップで構成される。吸着材はゼオライトのほか、より高効率な金属有機物構造体(Metal-Organic Framework)も開発中だ。カーボンニュートラル燃料(CNF)使用時に1日20km走行した場合、排出されるCO2約2kgのうち約1kgを回収できるという試算が示されていた。
回収したCO2の届け先は農業のビニールハウスだ。植物が光合成をすると酸素が発生し、ハウス内はCO2が不足する。農家はこれを補うために灯油を燃やしてCO2を供給しているが、スーパーキャリイで回収した1kg/dayのCO2をハウスに届けることで、従来の灯油由来CO2供給量の約25%を代替できる。灯油消費量にして約0.4L/dayの削減が見込めるという。排気ガスをそのまま農作物の栄養源に変える、いわば廃棄物ゼロの循環モデルだ。
課題はシステムのコストだ。スーパーキャリイの車両価格に対してどれだけ上乗せになるか。灯油削減による経済効果とのバランスが、普及の鍵を握る。
50年の電動車いす技術が「ロボットの足」として生まれ変わった
もう1台展示された「MITRA(ミトラ)」は、スズキが約50年にわたって電動車いす「セニアカー」の開発で培ってきた技術を応用した多目的電動台車だ。コンセプトは2025年のJapan Mobility Show 2025で初披露されたが、今回は実際に台車部分のみで走行デモンストレーションが行われた。
連続走行距離は30kmで、前後左右のサスペンションと後輪左右独立モーターにより、段差やぬかるみにも対応できる悪路走破性が強みだ。操作はラジコンと同様の遠隔操作のほか、自律走行にも対応する。スタートアップ企業のLOMBY(東京都品川区)と連携したコンビニ商品の自動配送では、セブンイレブンは現在八王子市南大沢以外の複数店舗で使用している。
スズキによれば現在約70社と実証を進めており、2026年度の事業化を目指しているとのこと。自動配送のほか、リニア中央新幹線の設備点検や農業、除雪など、用途は多岐にわたる。電動車いすで培った「屋外でも壊れない足回り」が、ロボット産業全体の底上げにつながる可能性を秘めている。
スズキが描く、クルマの新しい役割
CCC搭載のスーパーキャリイとMITRA。一見すると異なる2台だが、根底に流れるテーマは共通している。クルマや電動技術をこれまでとは違う文脈で社会に役立てるという発想だ。排気ガスを農業に転用し、車いすの足回りを物流に応用する。いずれも既存の技術を「別の問題を解く道具」として再定義した点に、スズキらしい小さく賢い発想が見える。カーボンニュートラルと人手不足という日本社会が抱える2つの課題に、軽トラと電動台車という地に足のついた手段で挑む姿勢は、派手さはないが説得力がある。
