歴代の傑作と同じくエレガントな4シーターモデルという通好みな立ち位置
フェラーリの歴史を振り返る時、その主役として語られることが多いのは、スポーティなベルリネッタ(クーペ)やコンペティションモデル(競技用車両)の数々だ。しかし、じつはそれらとともにエレガントで優雅な4シーター(4人乗り)モデルを連綿とラインナップしてきたという事実を忘れてはならない。今回は、RMサザビーズのオークションに登場した、通称「デイトナ(正式名称フェラーリ365GTB/4)」と同じ系統の12気筒コロンボユニットを搭載、そこに組み合わされるミッションに貴重な5速マニュアルを持つ1983年式のフェラーリ「400i」を紹介したい。
スポーティモデルの影でエレガントな2+2モデルをラインナップしてきたフェラーリ
フェラーリの4シーターモデルの起点となる、すなわち初の2+2(前席2名、後席2名の4人乗り)モデルは、1948年から1950年にかけて登場したフェラーリ「166インテル」だ。これにはトゥーリングやスタビリメント・ファリーナ、ギア、ビニャーレといったカロッツェリア(車体工房)が各々にボディをデザインし、その美しさを競っていた。
1950年代には、一時的にフェラーリの4シーターモデルは姿を消してしまうが、1960年に登場した「250GTE」で再びそれはラインアップに復活を遂げる。1963年にはそれまで3リッターとされていたV型12気筒エンジンの排気量を4リッターにまで拡大し、高性能化を図った「330アメリカ」が誕生した。それは翌年に「330GT 2+2」へと進化し、さらに1967年には4.4リッター仕様の「365GT 2+2」も生み出されている。
ピニンファリーナによる直線基調のデザインとデイトナから移植され進化を続けるV12気筒エンジンの融合
このフェラーリの4シーターモデルが一気に近代化されたのは、1972年のことであった。ピニンファリーナによって描かれた直線を基調とする端正なデザインのボディを組み合わせた「365GT/4 2+2」が、その期待のモデルだ。
車名にも示されているようにフロントに搭載されるエンジンは、365GT 2+2と同様に4.4リッターのV型12気筒であったものの、それはDOHC(ツインカム)化されるに至っていた。ちなみにこのエンジンは、2シーターの「365GTB/4」(通称:デイトナ)のそれをより扱いやすくモディファイしたもので、低いボンネットラインからも想像できるとおり、新たにサイドドラフト(横流式)のキャブレター(気化器)が装備されていた。左右合わせて6個のテールランプとセンターロック式のホイールは、この365GT/4 2+2の外観上の大きな特徴である。
排出ガス規制クリアのためフェラーリ社初のインジェクション化された記念すべきモデルが400i
このようにセンセーショナルなデビューを飾った365GT/4 2+2は、さらに1976年には排気量を4.8リッター(4823cc)に拡大した「400(1気筒あたりの排気量をネーミングにしていたもので、正式には1気筒=401.93cc)」へと進化を果たすことになる。この変更はおもにオートマチック・トランスミッションの採用に対応したもので、5速MT仕様が400と呼ばれたのに対して、3速AT仕様は「400A」と表記されることも多い。後者のメインマーケットはもちろんアメリカであった。
だが、400シリーズに進化したフェラーリの4シーターモデルは、そのアメリカに端を発した排出ガス規制の影響で、さらなる改良を迫られることになった。それまでのキャブレターによる燃料供給を捨て、新たにボッシュ製のKジェトロニック(機械式燃料噴射装置)を採用することになる。こうして誕生したのが、400iだ。ちなみにフェラーリ社初のボッシュ社製Kジェトロニック・インジェクションを搭載しのが、79年に登場したこの400iとなった。これに続き80年登場の308i、81年登場の512iとインジェクション化されていった。
ここで改めて最高出力だけを比較してみると、ファーストモデルの365GT/4 2+2では320ps、400および400Aでは340ps、そして400iは315psという数字になる。フェラーリはさらに400iの後継車として「412」を1985年に発表するのだが、排気量を5リッターに拡大することで(ちなみに車名の412は1気筒あたりの排気量を示すようになった)、最高出力は340psを達成している。つまり400iは、このシリーズではもっとも低パワーのモデルとなるわけだ。
わずか422台しか生産されなかった希少な5速MT仕様に下されたオークション評価とは……
400iは約5年間にわたって1306台がデリバリーされたが、そのほとんどには3速ATが組み合わされていた。今回RMサザビーズのオークションに姿を現したモデルは、わずか422台が生産されたのみの希少な5速MT仕様である。
ヴェルデ・ピノ・メタリック(グリーン・メタリック)のボディカラーに、サッピア(ライトベージュ)の内装を組み合わせた仕様は、現在でも素晴らしいコンディションを保っているのが分かる。はたしてそれは、フェラーリのV型12気筒モデルを購入することを考える入札者からどのように評価されたのだろうか。
オドメーター(走行距離計)に示された走行距離は5万4585km。新車から数々のオーナーの手を渡り歩いたモデルではあるものの、その履歴ははっきりしている。1983年という年式は、400iのなかでは比較的新しい。
維持費のリスクを理解し、フェラーリV12気筒マニュアルモデルでこの価格は魅力的選択肢
一度はフェラーリのV型12気筒モデルを所有してみたいと考えるエンスージアストにとって、この400iはまさに魅力的なチョイスといえるのではないだろうか。
問題なのは購入後にどれだけの維持費が必要になるのかというところにあるが、おそらくはそれを十分に理解したうえでの落札価格が、8万9125ユーロ(約1640万円)という数字であった。これを高いと見るか、それとも安いと見るかは、フェラーリの4シーターモデルに対する個人的な思い入れの大きさによるのではないだろうか。
