伝統と最新工学が交錯するモーガンの極上クーペがベールを脱ぐ
2026年6月24日、英国の名門モーガンが、自社の特注車体製造の歴史で新たな金字塔となる新型「ミッドサマー・クーペ」を発表した。イタリアの名門カロッツェリアであるピニンファリーナとの共同プロジェクトで誕生した、特別なビスポーク(フルオーダー)マシンである。最初に製作されたプロトタイプに加え、顧客向けに世界でわずか9台のみが製造される極上のクーペ。伝統の職人技と最新のエンジニアリングが融合した芸術作品の深淵をのぞき込む。
伝統の木材と最新のアルミ技術が融合した驚異の芸術品級ボディ構造に驚かされる
ミッドサマー・クーペの真髄は、単に美しい屋根を追加しただけではないことにある。ベースとなるのは、モーガンの最新世代スポーツカーを支える「CXVジェネレーション」と呼ばれる接着アルミプラットフォームだ。ここに、削り出しのアルミニウム製Aピラーや、構造材として機能するガラス窓を組み合わせた応力外皮構造(モノコックに近いアプローチ)を採用している。
とくに驚かされるのは、フロントガラスをアルミニウムのボディ構造に直接接着していることだ。これによりガラス自体が車体の剛性向上に寄与し、主要部分の応力集中を約50%も軽減することに成功した。さらに、ボディの骨格には伝統的なアッシュ材(トネリコ)を用いた木製フレームも組み込まれており、木材が持つ自然な減衰特性がアルミパネルの共振を抑える役割を果たしている。
これほど複雑な構造を持ちながらも、車両重量はハードトップを装着したモーガン「スーパースポーツ」と比較してわずか2.5%の増加に抑えられている。ボンネットの下には、最新のモーガン「スーパースポーツ400」と同じくBMW製のB58型3リッター直列6気筒エンジンを搭載する。極めて軽量なボディと強靭な心臓部が相まって、極上のドライビング体験を約束してくれる。
ピニンファリーナの美学と職人技が交錯する美しいスタイリングを堪能する
エクステリアデザインは、2024年に発表されたオープン仕様のモーガン ミッドサマーをベースとしながらも、固定式ルーフを備えることでまったく新しいプロポーションを獲得した。この流麗なスタイリングは、ピニンファリーナとの密接な協業によって生み出されたものだ。フロントフェンダーの後方には、通常の量産ラインから外れた特注車であることを示す「Fuoriserie(フオリセリエ)」のエンブレムが誇らしげに輝いている。
ボディパネルは、熟練の職人が「イングリッシュホイール」と呼ばれる伝統的な工具を用い、平らなアルミ板から手作業で叩き出している。接合には充填材を使用しないTIG溶接や、戦前の航空機製造に由来するソリッド・アルミニウム・リベットを採用した。同時に、現代のデジタル測定技術で0.3mmの精度を管理しながら精緻に組み上げられている。
キャビン内に目を向けると、高級クルーザーを思わせるチーク材が贅沢に敷き詰められている。アルミ削り出しのギヤセレクターにもチーク材の象嵌が施されており、息を呑むような美しさを誇る。
トップが語るビスポークの真髄とモーガンが描くプロジェクトの未来
この野心的なプロジェクトについて、モーガンのマネージング・ディレクターであるマシュー・ホール氏は次のように語気を強める。
「ミッドサマー・クーペは、ひとりの顧客との対話から始まりました。私たちは要望にいかに近づけるかではなく、どこまで限界を押し広げられるかを自問したのです。ここで得た技術や教訓は、今後のモーガンのスポーツカーづくりをさらに強固なものにしてくれます」
これからのクルマづくりの展望を明かすトップの言葉に続き、チーフ・デザイン・オフィサーのジョナサン・ウェルズ氏もその意義を強調する。
「これこそがコーチビルドの究極の表現です。このプロジェクトは、例外的な特注品や意味のあるコラボレーションによって定義される未来への扉を開くものです」
今回公開されたプロトタイプは、オランダのハーグにある世界有数のクラシックカー・コレクション「ロウマン博物館」に展示される予定だ。そしてまもなく、イギリスのウスターシャー州マルバーンにあるピッカースリー・ロード(Pickersleigh Road)の本社工場で、9人の幸運なオーナーに向けた個別の仕様決定と手作業による製造が開始される。
効率化や電動化が叫ばれる現代の自動車産業において、職人がアルミ板を叩き出し、木材を削り、ガソリンエンジンを載せるというクルマづくりは、もはや時代錯誤が甚だしい「贅沢の極み」となる。だからこそこのモーガン ミッドサマー・クーペには、スペックシートだけでは語れない圧倒的な色気とロマンが宿っている。伝統的なコーチビルドの技法と妥協のない最新のエンジニアリングが奇跡的なバランスで同居するこのマシンは、私たちクルマ好きの胸の奥底にある、内燃機関と手作りの工芸品への愛をいつまでも熱く刺激し続けてくれるのだ。
