本物の元パトカーを輸入してFPISの姿を完全再現する
青と白のNYPD(ニューヨーク市警)カラーをまとったセダンが2台並んでいる。これはレプリカではなく、アメリカで実際に街を走っていた本物のパトカーを個人輸入し、装備までそろえて現役当時の姿へとよみがえらせた執念の作品である。警察官の制服に身を包んでギャラリーを迎えるオーナーたちの情熱と、海の向こうで役目を終えた個体を日本で復活させたディテールが明らかになった。
コラム式シフトやガンスポットなど警察専用の装備
日本ではまず見かけないセダン型のアメリカンパトカーである。会場には各種のポリス仕様が並び、警察官の姿をしたオーナーとギャラリーが記念撮影を楽しんでいた。そのなかで、ひときわ再現度の高いセダン型が2台あった。取材を申し込むと、NYPD警察官のいでたちのオーナー2人、ミハレックさんとスチュワートさんが応じてくれた。2人によれば、ベースはフォード「トーラス」の警察仕様である。
ミハレックさんは、取材に対して次のように語った。
「このクルマはフォード トーラスがベースのFord Police Interceptorという車両です。2台とも実際にポリスカーだった個体を輸入して各種装備を入手して現役当時の姿を再現しています」
正式にはFPIS(Ford Police Interceptor Sedan)と呼ばれる、警察車両向けのパッケージを採用している。
元NYPDパトカーの装備をチェック、2015年式と2014年式の違いは?
実車を見せてもらった。ベースはフォード トーラスの警察仕様で、AWD(四輪駆動)の高性能版である。向かって左側、プッシュバンパーが備わらない車両はミハレックさんの2015年式。右側がスチュワートさんの2014年式だ。搭載する装備は異なるものの、基本の仕様はほぼ同じだという。
一般市販バージョンと異なり、シフトはコラム式(ステアリングコラムに設置されたシフトレバー)を採用している。空いたセンターコンソール部分には無線機や車載端末が設置され、Aピラー(フロントガラス両脇の柱)にはガンスポット(銃を固定するホルダー)が備わる。前席と後席の間はパーティション(仕切り)で区切られ、リアシートはかなり狭い。スチュワートさんの車両には、これに加えてルーフのパトライトとフロントのプッシュバンパーが備わる。リアトランクの上にあるのは、すれ違った車両のナンバーを自動で読み取る装置だ。
ベースとなるセダン型のアメリカンパトカーが消滅の危機を迎える
このFPIS、実は絶滅寸前の希少な存在だ。アメリカではセダン型パトカーが急速に数を減らしている。多くの人がイメージするシボレー「カプリス」やフォード「クラウンビクトリア」はすでに姿を消した。今回のFPISは、そのクラウンビクトリアの後継にあたる。
そのFPISも2019年3月に生産を終えた。後継となったフォード「フュージョン」ハイブリッドベースの警察車両も2020年モデルで打ち切られている。さらにダッジ「チャージャー」のパシュート(警察追跡用車両)が2023年に生産を終了した。この結果、現在はセダン型パトカーのベース車両が存在しない状態にある。
ただし、次期セダン型の候補として動きも出ている。2025年に登場したダッジ新型「チャージャー」の4ドアモデルをベースとするコンセプトが公開された。このモデルの採用が実現すれば、空白の数年を経てセダン型パトカーが復活する可能性がある。
法的ハードルを乗り越えて現役当時のパトカー仕様を復活
2人の作業は、まさにゼロからの再現だった。廃車にして市場へ出さない日本と異なり、アメリカでは退役したパトカーが積極的に払い下げられる。誰でも元パトカーを購入できるシステムだ。ただし無線などの装備は外されて放出されるため、パトカー仕様を復活させるには各種の装備を個別にそろえる必要がある。
幸い、無線やパトライトのような装備も中古で入手できる場合が多い。装備をそろえれば、日本でもパトカー仕様に乗ることが可能だ。ただし、公道を走行する際には赤色灯の点灯やサイレンの吹鳴、さらには「POLICE」といった表記の扱いについて、各都道府県の条例や道路運送車両法に基づく厳格なルールが存在する。こうした法的なハードルをクリアし、適法に維持し続けることにも多大な労力がかかっている。NYPDのロゴやブルーのストライプは、本家が特殊な反射フィルムを使っている点を突き止め、同じ素材を入手して再現した力作である。こうした数々の努力を経て仕上げた車両で、2人は各地のイベントに参加している。
本物の警察官のいでたちで、本物の元パトカーの隣に立つ姿には、単なる収集を超えたこだわりがにじむ。海の向こうで役目を終えた1台を、部品の1つまで追いかけて現役の姿へ戻す時間と情熱が、この見事な完成度を支えている。
