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【日産「アリア」で1000キロ超テスト】EVの長距離移動が「快適」か「不便」か東京〜大阪往復で試してみました

サービスエリアで急速充電中のアリア B9 e-4ORCE limited

長距離移動の足としての電気自動車の可能性を知りたい!

日本でBEV(バッテリー電気自動車)市場を牽引している『日産自動車』。初代リーフが発売されたのが2010年12月。その後リーフは2代目へと進化し、2022年には軽自動車初の量産EVとしてサクラを発売され、そして同じく2022年には日産初のクロスオーバーEV「ARIYA(アリア)」も加わった。日産のEVラインアップは今後も拡大していくことは明白だ。

これからやって来るEV社会に際し、電気自動車にまだ馴染みがない人にとっては走行性能と同じくらい「充電インフラ」と「航続距離」が気になるところ。ということで、今回は東京から大阪までの往復プラスαの移動の相棒として、アリア「B9 e-4ORCE limited」を選択。人生初のEVロングツーリングにチャレンジしてみた。

満充電で500km以上走行できるという謳い文句に誘われて

日産が初めて投入したクロスオーバーEV「アリア」。2019年の東京モーターショーで「アリア コンセプト」を世界初公開した後、2020年7月に正式発表、翌2021年6月から予約受注を開始。そしてようやく2022年5月から発売が開始されている。今回長距離試乗に連れ出したのは日本試乗向けの特別限定車として設定された「limited」で、4WDの駆動方式を採用する最上級モデルの「B9 e-4ORCE」をチョイスした(e-4ORCEと書いて“イー・フォース”と読む)。

アリアは大まかに分けると前輪をモーターで駆動するFFモデルの「B6/B9」と、前後にそれぞれモーターを搭載する4WDモデルの「B6 e-4ORCE/B9 e-4ORCE」が設定されている。

Bの後ろに付く「6」と「9」の数字はバッテリー容量の違いで、前者は66kWh、後者は91kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載。スマートフォンなどと同様に、バッテリー容量が大きいほうが電池の持ちは長くなるし、モーターを動力源とするEVの場合はモーターの出力を髙めることも可能だ。カタログ値で言うと、FFのB6は最高出力=160kWh(218ps)/WLTCモードの一充電走行距離=470km、4WDのB9 e-4ORCEはシステム最高出力=290kWh(394ps)/WLTCモードの一充電走行距離=560kmとなる。

2023年2月10日~12日にインテックス大阪で開催された西日本最大級のカスタマイズカーショー「第26回 大阪オートメッセ 2023」。毎年、大阪オートメッセには必ず出向いているGT-R Magazine編集部だが、今回は東京からの移動手段として初めてEVを選んだ。

これまでにもリーフをはじめとするEVには何度も試乗しているが、往復1000km以上の長距離移動というのは未体験。200kmくらいの移動距離ならまだしも、目的地が500km以上も先となると「EVは途中で何回も充電が必要だし……」と、どうしても躊躇してしまいがちだ。しかし、前述した航続距離の長さに加え、道中の降雪も気にしなければならない2月中旬の移動だけに、スタッドレスタイヤ装着の4WDを手配できたということも大きな後押しとなった。

先進的なスタイルと航続距離の長さがアリアの魅力

神奈川県横浜市の日産グローバル本社でアリアを受け取る。この時点でのバッテリー残量はフル充電の100%。航続可能距離は直近の走行パターンが反映されるため参考値程度ではあるが、モニター上では390kmと表示されていた。この時点で「途中の充電なしでは大阪まで辿り着かない?」と思ったが、カタログ値の560kmはあくまでWLTCモード値。高速道路主体の実電費(ガソリン車で言うところの実燃費)は走ってみないとわからない。

まずはGT-R Magazine 170号の連載記事「今の日産 これからのNISSAN」の取材のため、モータージャーナリストの中谷明彦さんと合流。首都高速と横浜市内を中心にロケをした後、一路大阪へと向けて出発した。

アリアに乗るのは今回が初。EVという以前に、スッキリとしながらも押し出し感と近未来感のあるスタイリング、広々としたモダンなコクピットまわりなど、クルマとして見てもかなり魅力的。高速道路での本線合流で初めてアクセルを深く踏み込んでみたが、普段GT-Rに乗り慣れている筆者でも、思わず「速っ!」という声が出てしまった。ちなみに、B9 e-4ORCEの車両重量は2230kg。見た目の印象よりもかなりの重量級。しかし、アクセル操作に対するレスポンスの良さはさすがEVである。

しかも、400ps近いシステム最高出力と前後モーターの最大トルクは各300Nmを誇るだけに、どこからでも「踏んだら即、速い」。故に、高速巡航時のアクセル開度も浅めですみ、長時間の運転でもまったくストレスを感じさせない。EVならではの静粛性の高さに加え、ガソリン車ならV6ツインターボのRZ34型「フェアレディZ」級のパワーがあるだけにとにかく楽だ。

当初は「満充電で何キロ走れるか?」という“記録に挑戦”的な発想を抱いていたが、前述の中谷明彦さんから「EVで長距離移動するときは、ギリギリまでバッテリーを使うのではなく、マメに充電したほうがいいよ」というアドバイスをもらっていた。確かに、ガス欠ならぬ電欠は絶対に避けなければならないし、残り数%まで走った際、辿り着いた先の充電スポットでなんらかの機材トラブルがあったらどうなるか。ということで、「50%を切ったらなるべく充電」というスタイルに切り替えた。

高速道路であれば主要なSAには急速充電器が設置されているし、カーナビゲーションにも目的地までの経路上にある充電スポットの場所と距離が表示される。先を急ぐ移動ではドキドキするかもしれないが、今回はEVということもあってあらかじめ時間に余裕を持ったスケジュールを立てていたこともあり、リラックスした気持ちで臨むことができた。

充電に掛かる時間は急速充電器のスペック次第。150kWhも設置され始めている

というわけで、バッテリー残量が50%を切ったところでSAの急速充電スポットに立ち寄って充電スタート。30分の充電時間で75%程度まで残量が増えた。「え? 30分でそれだけ!?」と思ったが、どこまで入るかは設置されている充電器のスペックによって変わってくる。

91kWhのバッテリー容量を持つアリアB9の場合、0%から100%まで充電するには、計算上90kWh級の充電器で約1時間、45kWh級の充電器では約2時間掛かる(充電器やバッテリーのコンディション、外気温などによって左右される)。今回の行程では新東名高速の掛川SAや名神高速道路の多賀SA、草津PAなどに90kWhの急速充電器が設置されているが、それ以外は40~50kWhの急速充電器が多い。なので、アリアB9のようにバッテリー容量が大きいEVは、スペックの高い充電器がある場所を事前に調べておいたほうがいい。

ちなみに、今回の取材後、2023年3月2日からは日本の高速道路(SA)として初の150kWh急速充電器が新東名の浜松SAと駿河湾沼津SA(上下線とも)に設置され運用を開始。今後も順次高出力タイプの充電器設置を拡大していくというから、EVの利便性はさらに高まるだろう。

結局、帰路のことも考えて目的地近くでも充電し、横浜からの道中、2度のピットイン(急速充電)で無事に到着。しかも、先客もおらず、幸いなことに充電待ちもゼロだった(帰路も常に空いていた)。今後BEVの数が急速に増えていくようなことがあれば充電渋滞が起こる可能性もあるだろう。ただし、現状では充電スポットが満車になっていることはまだ少ないようだ(休日や大型連休などは状況が変わるだろうが)。

こと充電環境に関して言うと、現時点でEVを使用することにさほど抵抗を感じなかったというのが素直な感想。スマホのアプリ(EV smartや高速充電なび等)で充電スポットの混み具合や使用状況、充電器のスペックなども事前に確認することもできる。

手放し可能なプロパイロット2.0はEVの利点が生きる

さて、アリアでの長距離移動で感心したのはEVとしての性能だけではない。日産自慢の「プロパイロット2.0」による運転支援技術も大きなアドバンテージだ。スカイラインのハイブリッドモデルや新型セレナなどにも採用されているこの機能を説明すると、「高速道路や自動車専用道路を運転者が設定した車速を上限に、先行車と車速に応じた車間距離を保ちながら、車線中央付近を走行するための運転操作や車線変更操作を支援。またナビゲーションシステムで目的地を設定すると、ルート上の高速道路の出口までアクセル、ブレーキ、ステアリングを制御し支援」となる(日産自動車の説明書からの引用)。

もう少し簡単に言えば、先行車追従型のオートクルーズに、条件が揃えば手放しも可能となるステアリング操作支援が付いている機能。木村拓哉が手と足を離してアリアをドライブし、助手席の松たか子が驚くというテレビCMをご覧になった方も多いだろう。実際に初めて手放しにチャレンジするときにはちょっとした緊張感を伴うが、慣れてしまうと「手を離すだけでこんなにもリラックスできるのか!」と驚いてしまう。

もちろん、何かあったときにはすぐに自身でステアリングを握れる準備をしておかなければならないし、よそ見をしていると「ピーッ!」という警告音とともプロパイロットの支援がキャンセルされてしまう(ドライバーの目線や顔の向きなどを車両側のカメラで監視している)。車線や車間維持の精度が高く、後方もカメラでモニタリングしているため、追い越しができる条件が整うとウインカー操作をきっかけに「車線変更」まで支援してくれる(この際はステアリングに手を添える必要アリ)。プロパイロット2.0は出力のコントロールが緻密に行えるEVとの親和性が高く、完全ではないが「自動運転とはこういうことか」という未来感が味わえる。

GT-Rの伝家の宝刀、アテーサE-TSの技術と知見も投入されている

そしてもう一つ、今回試したかった4WDシステム「e-4ORCE」の威力。東京と大阪の移動では降雪区間がなかったため、長野県まで足を延ばして雪道での走破性も試してみた。R32型のスカイラインGT-Rから採用されたトルクスプリット型の4WDシステム「アテーサE-TS」で培った技術を元に、前後のモーターで最適な駆動力配分とするのがe-4ORCEの特徴だ。

FRベースのGT-Rでは後輪が滑ったら前輪にもトルクを配分するが、アリアのe-4ORCEは通常はフロントモーターで駆動し、状況に応じてリアのモーターがアシストするというシステムだ。さらにブレーキも協調制御することで、前後左右の4輪の駆動配分を最適にコントロールするというものである。前後駆動配分はメーター表示を切り替えることでモニタリングすることも可能。雪道のワインディングでは勾配やカーブの曲率により前後のモーターの出力がコントロールされているさまがバーグラフで目視できる。

安全な場所でちょっとラフにアクセルを踏み込んでみたところ、VDCの制御によるトラクションコントロールが働き、ホイールスピンすることなくしっかりと車両を前に進めることができた。ここでもEVの出力コントロールのアドバンテージが生きてくる。エンジン車だとどうしても断続的に駆動力をコントロールしている感じが伝わってくるが、EVはトラコンが効いているという実感はほぼなく、ただただ安定してトラクションを掛けることができる。

というわけで、今回の移動では雪道も含めトータルで1274kmを走行し、平均電費は4.8km/kWhであった。91kWhのバッテリー容量を持つB9の場合、満充電で436.8km走行できる計算である。このくらい余裕があれば、日常使いはもちろん、旅の友としても積極的に駆り出したくなる。アリアB9 e-4ORCEでのロングツーリングを経験し、BEVならではの性能の高さと先進性にすっかり惚れ込んでしまった次第である。

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