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納車わずか3週間でエンジンブロー! ホンダ「シビック タイプR」との波乱万丈ストーリーを激アツに語ります【交タイ自動車部】

リアウインドウには東京八王子のプロショップ、ボディファクトリーアクションのステッカーを貼っている

憧れのEK9を奇跡的に購入するも波乱だらけ

AMWの母体である交通タイムス社から、クルマ好きのクルマ持ちが集まった自動車部。部員一人ひとりにマイ・カーを熱く語ってもらう連載形式をスタートしました。今回は、EK9型ホンダ「シビック タイプR」を所有するWEB CARTOP編集部の井上悠大さんです。購入前から購入後半年くらいまでのストーリーが波乱続きで、胃もたれ必至なレベルだとか。読む覚悟だけある人はしばしお付き合いあれ。

とにかくホンダのクルマに乗りたかった

今回紹介するこのクルマは、もう多く語らないでもAMWを愛読する読者諸兄には説明不要だろう。筆者唯一の資産でもあり何よりも大切な愛車ホンダ「シビック タイプR(以下:EK9)」だ。大袈裟でも冗談でもなく、世界中に今日まで存在する3ドアハッチバックのなかでも5本の指に入る最高の格好良さを持つのが、シリーズ6代目となるこのミラクルシビックだと思っている(なお、残りはワンダーシビック・グランドシビック・スポーツシビックだと勝手に思っている。もう1台は検討中)。

このクルマがいつ頃好きになったのは、おそらく今から15年ほど前である中学生だったと思う。まだ当時はテレビの地上波でF1中継などをやっていて、ニワカながらたまに見ており、「F1=ホンダ=エンジン」というのと、マンガ「頭文字D」が小学生の頃から好きだったこともあり、「AE86トレノ」を含む3ドアハッチバックを非常に好んでいた。そのなかで「3ドアハッチバックでホンダのエンジンを載せた速いクルマはシビックしかない!」となったワケだ(うろ覚え)。

なかでも、このEK9はゼロ戦のように研ぎ澄まされた軽量なボディと「エンジンのホンダここにアリ」と言わんばかりのスペシャルな心臓から、それはもう輝いて見えた。ゲームなどのバーチャル空間で操っていたが、やはり実車が欲しくなるのは人間の性。いつしか憧れのクルマとして筆者の脳内に君臨した。

時は流れ、20歳で免許を取得した筆者は、最初のクルマとして買おうとしたのが「EG4」という型式を持つ5代目シビックであった。1.5LのSOHCエンジンではあるが、とにかくホンダのクルマに乗りたかったのだ。しかし、最初のクルマとしては古すぎることもあり家族からは即却下。いろいろ検討した末、手元にやってきたのは日産マーチ「12SR」であった。4年ほど所有し、MTの練習からサーキット遊び、長距離ドライブ、DIYなどを学んだ。

そして大学を卒業し就職。今から5年前の話だ。「やっと自由に使えるお金が手に入る。もうクルマ選びは誰にも文句を言わせないぞ」と意気込み、たくさん給料をもらっていたわけではないが、なぜだか全能になった気分であった。しかし、現実はそう甘くなかった。それはもうべらぼうに、シビックが予想以上に高いのだ。今ほどではないが、すでに当時から人気車種であった。なんでも良ければ買えたが、程度はそれなり。安くていいクルマなんてのは前世で徳を積まないと手に入らないのだ。

根性がないので中古車サイトで探すのはやめた。脳内はすでに「ホンダ車ならなんでもいいや。DC5(2代目インテグラタイプR)やS2000にしよう」となっていた。このときはこれらのモデルはまだ安かったせいもある。就職してから出物を3カ月ほど探し、ある程度の予算と目星をつけ、新社会人の井上が選んだ答えは「S2000」であった。そして、予算も条件も良いモデルがあったので、お店に電話して翌日見に行くことに。しかし、当日問題が発生! このS2000、閉店間際に売約済みになったそう。「俺が前世でなにをしたってんだ」と泣き叫んだのを覚えている。また愛車探しはゼロからのスタートに……。

眩しいほど綺麗な極上のEK9を発見

途方に暮れ、覇気のなくなった筆者に店員が寄ってきた。「お前は何を探してるんだ」と。そこで私は指を刺しながらこう語った。「本命は”あそこ”に置いてあるEK9です」と。そう。来店時に静岡ナンバーをつけていた眩しいほど綺麗な極上のEK9がこの店の通路に停めてあったのだ。ただ、来店客もこの日は多かったので、お客さんのクルマか、メンテナンスで預かったクルマだと思ってそれほど気に留めてなかった。しかし、このあと思い掛けない回答が店員から返ってきた。「あれ、昨日うちでクルマを買った人が置いてった下取り車ですよ。金額に折り合いが付けば“譲れるかも”しれない」

正直なにを言っているのかわからなかった。そんな出来レースがどこにあるんだと。しかもこのシビック、本当に極上車で「オドメーターは4万キロちょっと、ガレージ保管で雨ではほぼ未使用、事故歴なし、社外パーツも一流品」と文句を言いたくても文句がないほどの1台。ワガママを言うなれば、EK9は前期だと1DINのインパネで通常のカーナビがつかない点がネガティブ要素があったが、それはスマホのナビで代用できるので大きな問題ではなかった。それに、フェイスも前期の方が筆者は好みだ。

あとの問題は予算だ。今から5年前とはいえ、この程度だと筆者の当時の予算の+100万円は必要であったので、正直買えない額を言われると覚悟していた。あぁ、新卒社会人である自分を恨みたい。それと、ここの店長がコレクター気質らしく、その1台に加える予定があるかもとのことだった。それが“譲れるかも”と含みのある言い方になった理由だ。まさに“運ゲー”。ところが、ここでもまた奇跡が起こる。なんと提示した予算内で譲ってくれるというのだ。「え、じつはタイプRじゃないのでは?」と本気で疑ったのを覚えている。

そこまでくれば即決してもよかったのだが、一応は当時の人生で1番大きな買い物。1週間だけ猶予をもらってよく考えることにしたが、もう内心では購入を決めていた。後日、筆者は晴れてこのEK9を愛車として迎え入れることとなったのだ。関東から奈良県までシビックを見に行ったこともあったが、結局は地元で買うというオチに。

納車からわずか3週間の悲劇

浮かれているのも束の間。ローンの支払いすら始まっていない、納車からわずか3週間で悲劇がやってくる。それは「エンジンブロー」だ。1000キロも走ったか怪しい距離であった。あまりにも呆気ない終わり方に、乾いた笑いが出たのを今でもよく覚えている。あれは9月中旬、深夜の甲州街道沿いだった。

なお、断っておくが本当に普通に乗っていただけだ。ただ、納車時からタペット音のような異音が気になっていたので、その調整(修理)のためにこの週末に入庫予定だった矢先だったのだ。後日、購入先には「直したらまた見せに持っていきます」と事情を伝えたのだが、ここでまた奇跡が訪れ、中古エンジンでもよければ載せ替え工賃程度で直してくれるというのだった。

筆者は宝探し感覚で欲しいものが探せるという性質から、クルマに限らず中古品が大好きで、実際に中古カメラ店で数年アルバイトをしていたこともある。中古品は保証はあるにはあるが、現状渡しが暗黙の了解で、壊れても笑い飛ばせる精神が必要だ。とくにクルマともなれば使用経歴は謎であることが多いし、パーツ点数も消耗品の数も半端ではない。なので、個人的には「中古車=現状渡し」は当たり前の世界だと思っている。クレームなんて入れる気は微塵もない。ましてやエンジンの内部なんてわかるわけないのだから。

この常識外れとも言える店の提案には正直度肝を抜かれた。どうやら「開業以来そんな話聞いたことがないし、売ったこちらも後味悪いからなんとかする」とのことだったそうだ。このときはお言葉に甘えさせていただき、2カ月後にわがEK9は元気に復活した。このEK9を所有してこの夏で丸5年となるのだが、印象的なエピソードはこの探す段階からエンジンブローからの復活までが1番色濃かったと思う。

今の人生があるのはこのクルマのおかげ

もう1つ挙げるとするならば、今の自分があるのもこのクルマのおかげかもしれない、ということだ。どういうことかと言うと、筆者は写真を趣味からはじめ、いつしか仕事としてやっていこうと考えていた。撮っているだけでは難しいので、せっかくなら1人で取材して撮影もできるジャーナリストになろうという目標があった。そして、不幸か幸いかクルマオタクになってしまったので、せっかくならクルマの世界で働きたいと思っていたのだった。それが、EK9を買う少し前の筆者の脳内だ。

そこで、以前勤めていた会社からの転職を新卒から半年くらいで考えはじめていた。しかし狭い世界であるが故になかなか正攻法では難しいと言うのもわかっていた。せめて知り合いの1人や2人でも……と、思った矢先に見つけたのが、とある媒体が主催していた、プロカメラマンとライターがあなたの愛車を取材しますという「撮影&取材会」だった。「これに参加すれば繋がりが生まれるかもしれない!」と、筆者は思いついた。一か八かでこのイベントに参加して、チャンスを掴もうとしたのである。雑に言えばナンパされに行ったのだ。ナンパ待ちのお姉さんがスタイル抜群のボディを武器にするのであれば、こっちの武器はこのEK9だ。いざ勝負!

と、甘い考えで会場に1人突撃。そして会場に到着し、クルマから降りようとしたら、不幸なことに筆者のクルマの横に立つおっさんが1人現れる。正直このときは「いきなりオタクが寄ってきた……」と思ったのだが、またまたまた奇跡が起こる。このおっさんこそ、業界で働くライターの方であった! 聞くと、このイベントではなく、また後日改めてじっくり筆者を取材したいとのこと。あまりにも予想通りというか、出来すぎているので、何かの詐欺ではないかと疑うほどであったが、正真正銘のライターであった。

なお、今ではこの方にはWEB CARTOPで執筆して頂いているほどの関係となっている。その方の協力などもあって、現在筆者は交通タイムス社で、CARトップ編集部からWEB CARTOP編集部へと異動しつつ、クルマ業界で働いているというわけだ。これもこのシビックあってこそと思っている。

と、最初の半年ほどが非常に濃い内容であったが、それ以降はたまに取材を受けたりしてきたものの、小さなトラブルや故障などがあったくらいで、最初の半年ほど大きなイベントはなく、年間約1.5万キロ前後の距離を5年に渡って走ってきた。

とにかく、このEK9があったからこそ、今の人生があると言っても過言ではないほど。ただ「格好いい」「速い」「楽しい」だけでは片付かないほど、筆者にとって貴重な貴重なクルマとなっている。先述したイベント、じつは”2000年までに製造されたクルマだけ”しか参加できないイベントだったので、もしS2000(年式による)や2代目インテグラタイプRを買っていたら、今の自分はいなかったことにもある。このEK9は本当に奇跡の塊だ。

スーパーカーよりも視線を感じる人気ぶり

筆者はかなりガサツな人間なので、このEK9の綺麗さには逆に手間が掛かってウンザリしているところではあるが、現在屋外保管としつつも、洗車は手洗いとし、友人を交えてポリッシャーなどを用いて磨いてコーティングし、普段の保管にボディカバー装着は欠かさない。そのほか、異音やフィーリングの違いには常にセンサーを張り巡らさせて、不具合があればすぐにショップの元へ修理に出すなど維持管理にはできる範囲で気を使っている。現在の走行距離は11万キロ後半。5年間で約7万キロほど、ドライブや取材で使っている。クルマは走らせてナンボなので、大切にしつつもちゃんと乗るよう心掛けてもいる。

ちなみに、海外の方にも人気があるクルマであるが故に、都心部で信号待ちなどをしていたり、PAにクルマを置いているとよく写真や動画を撮られることも。SNSなどに勝手に掲載されることもあった。広報車でスーパーカーなどを借りたときよりも視線が多いと感じる。あまり目立ちたくはないが、さまざまな人がこの小さなクルマに興味を持ってくれることは、クルマオタクとして素直に嬉しい。

なお、筆者はカスタムも大好きなので、弄れる範囲はこだわりのパーツをかき集めて弄っている。趣味はネットオークションウォッチングと言っても過言ではないほど、暇さえあればいろいろ探している。とはいえ、EK9は純正のエクステリアでほぼ完成されていると思っているので、変更しているのはリアスポイラーのみ。こちらはBOMEXというメーカーの製品で現在国内では廃盤となっているモノだ。ぱっと見で純正のような見た目でありつつも迫力あるサイズであるところが気に入っている。

ロールケージもスパルタンなシビックらしさを強調するのには必要な要素だと思っているので、お気に入りのパーツだ。元々入っていたのだが、後からでも付けたかったパーツなので最初から入っていた点は嬉しいところ。2名公認となっているが、内装が残っているのもこだわりだ。ただ、シートが倒れないので積載力が半端なく悪い。

シートはBRIDEのアーティス2というもの。ジムカーナなど、サイドブレーキを多用する人向きに左肩が若干小さく作られている。EK9の性格に合うだけでなく、BRIDEの古いタイプのロゴを使ったシートを入れることで、「このクルマが販売されていた当時の雰囲気を出せるのではないか?」という狙いから、あえてこの古いモデルの極上品を探してきて装着している。ちなみに、1998年にN1耐久レースで「ギャザズシビック」として大活躍したあの車両にも同じ色の同じロゴのシートが入っているのだ(あちらはジータ2)。緑色のシートベルトはTAKATA製の6点式フルハーネスだ。これも日本製のパーツをチョイスし、流行りのJDMっぽさを意識しているこだわりである。

エキゾーストはエキマニからリアピースまでホンダチューニングの名門「SPOON」の製品で統一している。とくにリアピースは、大きなオーバルサイレンサーが特徴的なモデルで、それも内部がグラスウールでなく、金属板の隔壁を使って消音するという貴重な初期型モデル。なので、回転を上げていくと内部で反響するような気持ちのいいNAサウンドを響かせるのが自慢だ。ちなみに、このほかにもエキゾーストは3セットほど所有しているので気分によって付け替えることもある。

アルミホイールはホンダファンにはお馴染みのバーディクラブ製の傑作ホイールP1レーシングの鍛造モデルであるP1レーシングQF。サイズは15インチとなりリムは7Jだ。街乗り用のスニーカー的な役割として利用している。なお、このほかにもホイールを3セットほど所有しているので、目的などに合わせて変更した。

車格的に15インチというサイズにこだわりがあるのだが、「5穴、PCD114.3」というサイズが今や超貴重なので、半分コレクションのようになっている。先日RAYSよりEK9にぴったりサイズの新作が発表されたので気になっているところだ。先述のエキゾーストにしろホイールにしろ、サイズが大きいが故に実家のガレージを占拠しており、帰省のたびに小言を言われるが、どれも貴重なパーツなので“資産”ということで大事に保管している。万が一破産してもパーツを手放せば数カ月は暮らせるくらいにはなるはずである。

車高調も組んでおり、こちらも老舗の戸田レーシングが手掛けるFIGTEXダンパー(バネレートはフロント14kg、リアは12kg)。筆者のEK9は綺麗に維持しつつもサーキットも走らせる仕様なので、足まわりも一応拘っている(つもり)だ。とはいえもう2年以上自身のクルマでサーキットを走れていないのだが……。

先祖代々に伝わる家宝にしたい

たかが1台のクルマ紹介が非常に長くなったが、筆者のEK9は語っても語り尽くせないほど、たった5年でさまざまな思い出が詰まっているクルマであり、まさに相棒の2文字がピッタリなクルマだ。今後は、サーキットをもっと走る機会を増やしつつ、有名な展示イベントなどにも置いてみて、さまざまな人からいろいろな意見を聞き、交流を持ちたいと思っている。それと、クルマはゴム部品というナマモノも多いので、近いうちにブッシュ類の総リフレッシュや、負荷が掛かるエンジンやトランスミッションのO/Hなんかも行いたいと思っている。

というわけなので、手放す気は皆無どころか、自分が高齢化で乗れなくなっても、子孫に受け継いでいきたいと思っているほどだ(いればの話だが!?)。大袈裟に言えば先祖代々に伝わるような家宝にしたいほどである。「カーボンニュートラルが進んで内燃機関に乗れなくなる」とか噂されているが、個人的には冗談ではないというところ。もしそうするのであれば筆者が死んでからにしてほしいと切実に願っている。このEK9と付き合い始めてまだ5年。”二人六脚”の旅はまだまだはじまったばかりである。

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