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ホンダ「NSX」にできなくて、シボレー「コルベット E-Ray」にできたこと…走る舞台でキャラ激変!!「スポーツカー生産は文化事業です」

シボレー コルベット E-Ray:専用チューンされたZERパフォーマンスサスペンションやカーボンセラミックブレーキを装着

ミッドシップ化によるマルチパワートレイン戦略

リアミドシップスポーツへと大胆なコンセプトチェンジを果たした第8世代(C8)シボレーコルベット」に、V8 OHV+フロントモーターのハイブリッドモデル「E-Ray」が登場。コルベット初の「電動&4WD」モデルを、東京〜京都のロングドライブで試します。

コルベットは生き残りをかけて勝負に出た

スーパーカー界ではハイブリッド化が進んでいる。ランボルギーニはついに全モデルがPHVになったし、フェラーリやマクラーレンも売れ線の主要なスポーツモデルからプラグイン化を推進し始めた。高性能モデルを要するブリティッシュハイエンド系やジャーマンプレミアム系もまた熱心だ。

要するにエンジンパフォーマンスを最大限引き出しつつ、実用性を損なわないどころかむしろ引き上げて、さらに環境性能も大いに担保する、となれば、ラグジュアリーブランドにとってハイブリッドシステムを使わないという手はない。

シボレー「コルベット」などはその典型例と言っていいだろう。ツウが呼ぶところのC8、つまり第8世代となったアメリカンスポーツカーは7世代・半世紀以上にわたって続いたV8+FR 2シーターの伝統をかなぐり捨て、リアミッドシップスポーツへと大胆なコンセプトチェンジを果たした。多くの反対意見を振り切っての決断であり、生き残りをかけて勝負に出たと言って良い。

その背景には、もちろんスポーツカーとしてのパフォーマンス向上という大義名分もあったが、決してそれだけじゃなかった。重いバッテリーを積む電動化にあたって、ミッドシップレイアウトが有効であると踏んだからでもあった。

コルベット初のハイブリッド+AWD

実際、C8コルベット用のパワートレインは伝統のV8 OHVに始まり、V8 NAフラットプレインという“今時正気の沙汰じゃない”エンジンを投入する一方で、V8 OHV+フロントモーターのハイブリッドグレード「E-Ray」や、今後は強力なプラグインハイブリッドグレードやフル電動グレードを用意する予定で、ミッドシップ化を選んだからこそマルチパワートレイン戦略が実現したと言っていい。ここ数世代、ル・マンへの参戦などでヨーロッパでもよく見かけるようになったコルベットだが、C8で真のグローバルスポーツカーへと成長させたい。そんなGMシボレーの思惑も透けて見えてくる。

もっとも年間で3万台もアメリカ市場で売れるクルマだからこそ、これほど大胆なラインナップ戦略を実行に移せたわけだけれど、それはさておき。長距離ドライブの相手はハイブリッド+AWD(いずれもコルベットとしては初)のコルベット E-Rayである。

プラグインハイブリッドではなく、前輪に組み合わされた電気モーター(162ps/125Nm)で走行時や減速時に1.9kWhのリチウムイオンバッテリーへ充電するというシステムだ。

大型クルーザーがハンドリングマシンに豹変

都内早朝。京都に向けてホテルからの出発となった。ステルスモードという電動走行モードを選ぶ。ただし、エンジンを始動する前にちょっとした儀式が必要だ(キャブレター世代には慣れっこだが! )。1.シートベルトを閉める。2.ドライブモードを電動にする。3.スターターボタンを押す。この順番を間違うといきなりエンジンが掛かってびっくりしてしまう。なんらかの理由でシートベルトを外してもエンジンが掛かる。誤作動や誤走行の防止のためだろうと思うが、もう少し設定しやすかったらいいと思った。

使ってみれば便利なことは間違いない。なにせ無音で発進できる。心の中で周辺の人たちに謝らなくていい。申し訳ない気分にもならずに済んだ。

静かな走り出しはもちろん、落ち着きのあるハンドリングに十二分な加速(Z06より速い)、そして快適なクルージング性と、普通に走らせている分にはスポーツカーというよりGTカーといった方が良さそう。街中ではとにかく従順で、スーパーカーとしての迫力に欠けるとさえ思う。高速道路でのクルージング性能に至っては、さすがはアメリカンだ、まるで意のままに動く大型クルーザーのよう。これぞグランドツアラーカーだろう。

東名を走りながら「NSX」を思い出す。ホンダもバカだったよなぁ、あんなに早く出しておきながらさっさと諦めてしまって、結局のところマーケットからの支持の差ってことか、などと考えながら淡々と走っているうちに、ほとんど休憩することもなく京都に到着した。

と、ここまでは実を言うと、他のピュアエンジングレードとは違って、なんとなく輪郭がぼやけた、つかみどころのないコルベットだなぁ、という思いがまさっていた。よくできているが刺激が足りない、とでも言おうか。

走る舞台に合わせてキャラクターを変える

ふと思いつき、帰宅する前にホームワインディングコースの“嵐山高雄パークウェイ”を走ってみることにした。よくできたGTで、疲れを感じていないからこそ、そういう気分になれた、とも言える。

するとどうだ。素晴らしいハンドリングのスポーツカーに早変わりしたのだ。攻め込んでいけばいくほどに信じられないくらい自由自在にノーズが動き、コーナーでは驚異の踏ん張りをみせ、そこから圧倒的な加速で立ち上がっていく。ヨーロッパ生まれのミッドシップPHVスーパーカーと比較しても遜色のないダイナミックパフォーマンスである。

走る舞台に合わせてキャラクターを変えることができる。そんな器用なアメリカンスポーツカーなど過去にあっただろうか?

マッスルカーという言葉に代表されるようにアメ車の魅力といえばワイルドでパワーコンシャスなドライブフィールをまずは想像する。C8コルベットはそうじゃない。そもそもキャラの選択肢が多く、クルマとしての完成度も高い。そしておおむね従順なドライブフィールだ。ミッドシップ化というドラマだけを抽出すれば過激な変身にも思えたけれど、中身はとても戦略的で、純アメリカからの脱却も窺える。同時にアメリカ市場でも引き続き人気というあたり、GMシボレーはマーケットをよく知っていた。

コルベットはアメリカのクルマ好きにとってはアイコンであり魂だ。ソウルスポーツカーである。そんな大切なモデルであっても未来を見据えて大胆な変身にチャレンジし、しかも既存のオーナーをも満足させた。スポーツカーとは何か、趣味のクルマとは何か、を、これほど饒舌に語ってくれるモデルは他にないだろう。

シボレーにできて、ホンダにはできなかったのだ。開発力の差ではない。歴史的な商品力の差が歴然とあった。スポーツカーを立派に育てるためには我慢と継続が必要ということ。つまりスポーツカー生産は文化事業であるということなのだ。

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