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「F40キラー」の異名をもつアウディが1億円オーバーで落札!「スポーツ クワトロ」はどうして「別格」扱いなのか?

75万8500ドル(邦貨換算約1億1182万円)で落札されたアウディ「スポーツ クワトロ」(C)Courtesy of RM Sotheby's

モータースポーツ用にチューニングが施された1台

2025年1月24日〜25日にRMサザビーズがアメリカ・アリゾナで開催したオークションにおいて、アウディ「スポーツ クワトロ」が出品されました。最初のオーナーは北米アウディクラブの創設者フランク・ベダー・ジュニア氏だったというヒストリーをもつ個体でした。

エンジンは2.1リッターの直5を搭載

1980年3月、ジュネーブ・ショーでアウディから1台の端正なクーペスタイルを持つ新型車が発表された。のちにアウディの名前を世界に轟かせる原動力となる「クワトロ」がそれだ。クワトロとはアウディが採用した4WDシステムに由来する車名で、のちに多くのモデルにこのクワトロ・システムが採用されたことから、あえて「オリジナル・クワトロ」の名前で呼ばれることも多い。

クワトロに搭載されたエンジンは、当時の「200」シリーズから継承した2.1Lの直列5気筒DOHCターボ。最高出力は200psを発揮し、1983年には内外装やエンジンのスペックにも及ぶマイナーチェンジも実施されている。ちなみにアメリカ市場では、そのマイナーチェンジ以前のモデルの販売が行われたのみで、1986年には早くもその新車販売は中止されている。だがアウディというブランドに人気がなかったわけではない。アウディはこの頃からスポーティでインテリジェントなブランド・イメージをアメリカにおいても十分に作り上げていた。その原動力となったのは、もちろんモータースポーツにこそあった。

WRCでは1981年から圧倒的な速さを見せつけた

クワトロの誕生に前後して、アウディはモータースポーツ部門のアウディ・スポーツを設立。目標としたのは当時グループ4の規定で世界選手権が競われていたWRC(世界ラリー選手権)への参戦で、当時WRCでは4WD車の参戦は禁止されていたが、アウディはFIAとの交渉によってその制限を解放。見事にクワトロをWRCの舞台へと導くことに成功したのだ。

じっさいにWRCに参戦したクワトロは、搭載される5気筒ターボエンジンを310psにまでチューニングしていたとされ、エントリー初年となる1981年から圧倒的な速さを見せつけた。さらに1982年には330psエンジンを搭載し、さらに15kgを軽量化したモデルを投入し、メイクス・チャンピオンシップを獲得。その勢いは1983年にも続き、この年の途中からはグループB規定の「クワトロA1」も登場。ハンヌ・ミッコラがドライバーズ・チャンピオンシップを獲得した。もはやWRCで勝利するには4WDのシステムは必要不可欠な存在であることを、アウディは証明してみせたのだ。

全長をさらに短くし戦闘能力をアップ

その1983年シーズンのために発表された、新たなグループBマシンが、300psの2.1L(正確にはそれまでのエンジンよりやや排気量は小さい)直列5気筒DOHCターボエンジンを搭載し、全長を320mmも短縮した2シーターのラリー・スペシャル「クワトロA1」であり、5月には早くも改良型の「クワトロA2」がデビューする。これら一連のモデルの活躍によって、アウディは数回にわたってWRCタイトルを獲得。それは4WD車として初めての偉業でもあり、他社に大きな影響を与えた。そしてクワトロの血統は、今回アリゾナ・オークションに登場した、「スポーツ クワトロS1」へと受け継がれるのである。

スポーツ クワトロS1は、1984年にデビューした「スポーツ クワトロ」のエボリューションモデル(必要生産台数である200台の10%を生産すれば、グループB車両の正常進化型として認められていた)に続くもので、さらに第2進化モデルともいえるこのS1は、通称「S1 A2」とも呼ばれる。

北米のアウディクラブ創立者が最初のオーナー

今回の出品車は、「5035」のシャシーナンバーを持つ1984年式のスポーツ クワトロで、最初のオーナーはアメリカのアウディクラブの創設者、フランク・ベドール・ジュニアであった。彼はアウディ公認のエントラントとしてモータースポーツに参戦するために、このスポーツ・クワトロを著名なアウディ・スペシャリスト、ディーダー・インツェンホーファー、ハインツ・レーマン、ハインツ・クルーゲらとレース用に改良。1988年にはアメリカン・トランザム・レースを完全に支配したため、新たな戦いの場をIMSAのGTOクラスに移行した。そしてここでも総合2位という成績を収めたのである。

また、新車時からベドール家が所有し続けているこのスポーツ クワトロは、「F40キラー」と呼ばれ、アウディのグループBホモロゲーションスペシャルの中でも最も魅力的な1台となっている。

今回のアリゾナ・オークションでは、RMサザビーズから37万5000~47万5000ドル(邦貨換算約5848~7409万円)というエスティメート(予想落札価格)が提示されたが、そのヒストリーを知るエンスージアストからの人気は高く、最終的な落札価格は75万8500ドル(邦貨換算約1億1182万円)にまで達するに至った。それはまさに驚きのリザルトだった。

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