マッチングナンバーはポルシェによって確認済み
2025年2月4日〜5日にRMサザビーズがフランス・パリで開催したオークションにおいて、ポルシェ「928 S4 クラブスポーツ プロトタイプ」が出品されました。同車は1988年に発売された、S4をベースとする「S4 クラブスポーツ」のプロトタイプ。生産台数はわずかに5台と、ポルシェのマニアにとってはその存在は見逃せない1台でした。
生産台数はわずか5台のプロトタイプ!
1970年代半ば、ポルシェは「911」シリーズに代わる新たなメイン・プロダクトを開発する計画を進めていた。それは911よりも上級で、フェラーリなどのプレミアム・ブランドを直接のライバルとするモデル。そして「928」とネーミングされたそのニューモデルは、1977年にデリバリーが開始されたのである。
911が当時リアエンジン・リアドライブの基本設計を採用していたのに対して、928はフロントエンジン・リアドライブのモデルとして設計された。ファーストモデルの928に搭載されたエンジンは、4.5Lの水冷式V型8気筒で、最高出力は240ps。これに5速MTもしくは3速ATを組み合わせ、後輪を駆動するのがパワートレインの構成だった。
サスペンションは前後ともダブルウィッシュボーン+セミトレーリングアームというデザイン。コーナリング中にはアウト側の後輪は、最大で2度トーをイン側に向け、より安定したコーナリングフォースを得る、ヴァイザッハアクスルが採用されたのが大きな話題だった。
このファーストモデルを出発点に、928は1995年に生産を中止するまで、着実な進化を続けていく。今回RMサザビーズのパリ・オークションに出品されたのは、1988年に発売された「S4」をベースとする「S4 クラブスポーツ」のプロトタイプ。生産台数はわずかに5台と、ポルシェのマニアにとってはその存在は見逃せない。
ポルシェのワークスドライバーに寄贈された
そのベースとなったS4は、1987年に5Lに排気量拡大されるとともに内部の構造部品も大幅に変更。さらにDOHC 32バルブヘッドを採用して完成され、S2に搭載されたエンジンをさらに320psにまで強化した、まさに正常進化の極みともいえたモデルだった。同時にバンパーやリアスポイラー、ヘッドランプのデザインを変更したことなどで、エアロダイナミクスをさらに向上させたモデルだ。270km/hという最高速も当時大きな話題となっている。
S4 クラブスポーツは、その名のとおりS4をよりスポーティなテイストに仕上げたもので、5台のプロトタイプは製作後にポルシェの関係者というよりもポルシェのワークスドライバーに寄贈されている。そのメンバーはデレック・ベル、ヨッヘン・マス、ハンス・シュトゥック、ジャッキー・イクス、そしてボブ・ウォレックだ。
カラーコンビネーションも新車時と同じ
出品車は、この中でデレック・ベルがワークス・ドライバー時代にカンパニー・カーとして使用したS4 クラブスポーツのプロトタイプ。ポルシェのエンジニアは、その走りをより魅力的なものとするために、ストレート・ツインテールパイプ・エグゾーストや、クラブスポーツスタイルのホイール、ワイドなリアトラックの設定など細部にまで改良の手を加えたという。その作業はボディワークにも及び、結果、軽量化に関しても大きな効果を発揮した。
グランプリ・ホワイトのボディにマリン・ブルーのインテリアというカラーコンビネーションは、もちろん新車当時から受け継がれているもの。車両に付属されるサービスブックには、ポルシェ本社が販売代理店であることが記載されているが、イギリス人であるベルは当初、左ハンドル車の受け入れには難色を示したとも伝えられている。しかし最終的にこのモデルはイギリスへと持ち込まれ、1988年2月に「E709 LOW」というライセンス・プレートを得るに至ったのだ。
ベルはこの928 S4 クラブスポーツ プロトタイプを2005年まで保管し、その後イギリスのコレクターの手にわたった後、2016年にはベルギーで開催されたオークションで再び落札された。現在の走行距離は7万2812マイル(約11万6500km)。車体やエンジンなどとのマッチングナンバーは、もちろんポルシェによって確認済みだ。
25万~30万ユーロ(邦貨換算約4000万円~4800万円)というエスティメート(予想落札価格)が、RMサザビーズによって掲げられたオークションだったが、入札価格は意外に伸びず、結果的にそれは14万3750ユーロ(邦貨換算約2300万円)という数字に落ち着いた。ポルシェのマニアにとっても、評価の難しいモデルであったことは間違いないようだ。
