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エンジンを2基搭載したクルマがあった!? メルセデスやアルファ ロメオの「ツインエンジン」車はどうして成功しなかったのか?

シトロエン 2CVサハラ

今後ツインエンジン車が生まれる可能性はない……?

モータージャーナリストの中村孝仁氏が綴る昔話を今に伝える連載。今回は「ツインエンジン」について振り返ります。高性能が謳い文句だったツインエンジンですが、実際に市販化されたモデルは多くありませんでした。

シングルエンジンのクルマに比べて価格は3倍

一般的にはツインエンジンと呼ばれるケースが多いが、要はエンジンが車両に2つ搭載されていることを指す。その歴史を辿っていくと、どうやらハワード・O・カーターという人に辿り着く。彼は1907年に、2つのエンジンを搭載した自動車の特許を申請した。

エンジンが2つあれば、万一ひとつが壊れてもレッカー車の世話になることなく家に帰れるとか、経済的? で、高性能だとかが謳い文句だったようだ。ちなみにそれぞれのエンジンは独立して動かすことができたから、経済的と言うのはひとつのエンジンだけを動かしたときのことを指すのかもしれない。

6週間後にその特許は受理されて、晴れてツインエンジンの特許を取った。ハワードのクルマは、フロントに並列して4気筒エンジンを搭載するというものだったが、シングルエンジンのクルマに比べてやはり価格が3倍もしたそうで、結局は売れなかった。

しかし、価格はともかくとしてエンジンが2つあれば、性能的には確実に良くなることは自明であり、ハワード・カーター以後も多くのツインエンジンの開発が進められた。レーシングカーの世界なら販売するわけではないから、開発費にさえ眼をつぶれば、高性能なクルマを作り出すことができる。そう考えたのはアルファ ロメオである。

メルセデス・ベンツやアウトウニオンに対抗したが……

1934年当時、巨大な6Lエンジンを搭載したメルセデス・ベンツやアウトウニオンの前には歯が立たなかったアルファ ロメオは、一計を案じ、P3用の直列8気筒を前後に搭載したビモトーレと呼ばれるマシンを開発。メルセデス・ベンツやアウトウニオンに対抗したものの、ストレートでは互角だったが、タイヤと燃料消費が過多で、結局はものにならなかった。

量産にこぎつけたシトロエン

一方、カーター同様市販化されて、しかも量産に漕ぎつけたツインエンジンモデルがある。それがシトロエン 2CVサハラである。元々はフランスの農夫が朝取れ卵を割ることなく運べるクルマというコンセプト(だったかどうか)で誕生したモデルだった。フランスの植民地であった北アフリカの農夫は、より状況の悪い砂漠地帯で使えることを望み、その結果誕生したのがリアにも同じエンジンを搭載したサハラであった。

サハラはカーター同様、エンジンをひとつだけ、あるいは両方動かす機構を持ち、それによってリアの駆動力とパワーの必要ない時は、フロントエンジンだけを駆動した経済的に走れる機構を持っていた。サハラは700台ほどが生産されたそうだが、それでもたったの700台(正確には694台という説がある)で終わった。片方だけでエンジンを駆動できるという機能があるため、カーター同様に万一ひとつのエンジンが壊れても、もうひとつを動かすことで立ち往生を心配することがないことも売りだった。

このサハラは日本にも生息し、その1台は実動である。(もう1台の存在も知っているが、そちらは動くかどうか不明だ)。その694台と言われる生産台数のうち、今も生き残っているモデルは100台程度と言われ、自走するクルマはさらに少なくなるから、世界的にも貴重なモデルである。

メルセデス・ベンツが作ったモンスターツインエンジン車とは?

ツインエンジンは、カーター以外はほぼすべてエンジンを前後に搭載した4輪駆動である。そしてやはり市販に至らなかったモデルとして存在するのが、メルセデス・ベンツ AクラスベースのA38と呼ばれるモデルだ。こちらは初代Aクラスをベースにしたモデルなのだが、Aクラスと言えば初期にいわゆるエルクテストで転倒する事故に見舞われ、その結果サスペンションを見直し、スタビリティコントロールを標準装備とした。

おそらくこの事故とメルセデスの標準装着をきっかけに、スタビリティコントロールが一般化したと考えれば、その功績はあったと言える。

ただ、やはり転倒事故はネガティブな印象をAクラスに植え付けてしまったことは、間違いない。そこで、メルセデス・ベンツとしてはこのクルマが安全かつ高性能であることをPRする必要があった。そしてこんなこともできますという、ある種のプロパガンダとして製作されたのが、A38 AMGであった。

オリジナルの変則的な搭載方法を持つ横置き1.9L直4ユニットを、リアにも搭載したモンスターモデルである。しかも両エンジンにそれぞれ独立したトランスミッションも装備していた。通常はフロントエンジンのみで走行し、ダッシュボード上のスイッチを操作することで、リアエンジンが駆動する。前後のギアボックスは同じシフターに接続されているから、シフターはひとつである。高性能に対応するために、ブレーキは当時のEクラス、それもE55 AMG用が装備されていた。

作っては見たものの、やはりカーター同様に高価になると考えたのか、実際には4台(と言われる)を生産したのみで、市販化には至らなかった。そしてこのうち1台は、当時のメルセデスF1ドライバーである、ミカ・ハッキネンにプレゼントされた。

やはり前後エンジンの制御や重量増、それに燃費などが市販化には足かせになる。また、レーシングカーでもアルファ ロメオはタイヤで苦しんだようだ。4WDはシングルエンジンで十分に一般化できるから、その必要はないし、万一ひとつのエンジンが壊れる……ケースは今では考えにくいから、今後ツインエンジン車が生まれる可能性は、カスタムカーの世界だけだろう。

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