トヨタ「コンフォート」でデイラリーに参戦
茨城県の筑波山界隈で競技が行われたJAF公認の第1種アベレージラリー、デイラリーの「パープルラリーがまツアー2025」では、初参加の若者たちも楽しんでいました。20歳代の参加者は学生たちも含め6人ほど。そのなかにいた3人乗車で参加するクルーのふたりが21歳。競技参加車はタクシーや教習車として使われていたオーソドックスなセダン、トヨタ「コンフォート」。ちょっと気になる3人に話を聞いてみました。
後部座席から見えた、ラリーのリアルな難しさ
「デイラリーというアベレージラリーはスピードを出してもいないのに、なにがそんなにつらく苦しいのかなあ? どうして何度もやりたがるほど熱くなるのかが分からない」
という友達の坂巻陽太さんを、2025年4月20日に茨城県筑波山で開催された「パープルラリーがまツアー2025」に初めて連れて参加させたという並木みちるさん。ナビゲーターは助手席の父親の和也さんと後席の坂巻さんだ。2024年の関東デイラリーシリーズの終盤から、並木親子はビギナー参戦を続けています。
坂巻さんとしてはドライバーとして参戦し、先の合点がいかないことを確かめたかったようですが、後席でも、みんながなぜのめり込んでいるのかがわかったとのこと。
「後部座席からのいわば見学参戦ですけど、難易度が高いのがよくわかりました。主催者が指示するアベレージ走行にあわせるためのいろいろ、係数計算とかも手伝ってました」
「競技ルートが表されているコマ図を誤って読み、道にも迷いました。オフィシャルが通過時間を確認するチェックポイントがどこにあるのかは知らされていないので、通過時の場面場面でいろいろ微妙なやりとりもあったり。ちょっと遅めに走らせる指示でチェックポイントが現れたらスピードアップ、ちょっと速めに走らせていたらスローダウンで合わせるとか。ペース配分が自分たちとはまるで違った走りをしている競技車が前にいたり、後ろから追いついてきたりすると、自分たちの走り方が根本的に違っているんじゃないかと悩み不安になったり……。難しいです」
普段乗っているクルマで気軽に参加できるというクラスもあるデイラリーですが、奥の深さがあればこそ絶え間ないタイムチャレンジが続いていきます。
軽トラからはじまったラリー
参加者を見渡してみればなんと、往年の世界ラリー選手権でもっとも熾烈なラリーなサファリ・ラリーで数々の偉業を遂げている岩瀬晏弘さんはもとより、全日本ラリー選手権出場歴ある錚々たるレジェンドラリーストもいました。
スポーツカーとの「人馬一体」とはご存知マツダの開発者の方が見抜き貫き続けている真髄の概念ですが、ルールのもとでクルマとともに競い合うモータースポーツのラリーもまたしかり。スピード中心に争うSSラリーがダービーならデイラリーは馬術。老若男女、誰でもいつまでも楽しめるモータースポーツのようです。
AT式はもちろん、どんな車種でも参加できるデイラリー。並木さん親子はもともと「軽トラでラリーに出てみないか?」と誘われて2024年シリーズ終盤に出場したのが出発点でした。ひとりでは出られないラリー競技。誰と出ようかと考えていたそのときちょうど、みちるさんがAT限定の免許をMTに限定解除。まずは娘さんをドライバーに引き込んでの軽トラ参戦をした。
しかしそれと並行して、みちるさんが好きで探していたセダン系MT車に状態のいい中古車が現れ即購入。父の和也さん曰く「MT車に腕を上げた矢先、ぴったりだったのかもしれない」。それがたまたまどこかの自動車教習所で使われていたコンフォートだったという巡り合わせで、2025年の参戦車となったのだとか。
一歩一歩ゴールへ向かう競技の奥深さ
ただただ移動の手段としてであればクルマは、自分で運転しないでもいい自動運転車も現れはじめ、ほとんどがAT式である時代となっています。がいっぽうで自分で操作して運転する楽しみがあるのは確かです。それを感じたとき、以心伝心的にクルマを操作するMTシフト車に行き着くのは必然かもしれません。
オーナーなりの個性が愛車に漂うのは当たり前。コンフォートには教習車の面影がほのかにありながら、昭和のマイカーブーム時やタクシーによく見られたレースのシートカバーがあり清涼感を漂わせ、シフトノブには操作への思いやりを包み込むようなカバー。足もとは出しゃばらずフラットに固く収まった感のエンケイホイール、リアビューのステッカーチューンにも「ゆっくり走ろう百恵ちゃん」というやる気を静かにまとめ上げたものが貼られてました。これぞデイラリーのおもてなし仕様かもしれません。
「時間と距離をきっちり測りながらドライバーにアベレージ走行の指示をしているつもりですが、自分のクルマのオドメーターの距離と競技を設定したクルマの距離との差、補正はだいぶあり……。結局、正解をさぐりながら競技は終わってしまいました。でもまずはミスコースなく完走できるようになり、これでようやくスタートに立った感じです。今シーズンはこれからまだまだタイムを極めていかなければならない。こんな厳しさは、マラソンに似ているのかもしれません」
と和也さん。なるほど、ドライバーとコドライバーとのコミュニケーションで状況に応じた操作をクルマに施しながら遠くのゴールを目指す競技のラリーには、マラソンのように完走に向かうなかでの尽きることのないタイム認識があります。
デイラリーはそんなスポーツの根底にある大切な時間そのものを、誰でも参加し味わえるモータースポーツでした。ちなみにエントリーフィーは1台2万円とお手頃で、表彰式では地産の名物ものが景品として振舞われたり、アットホームなシリーズイベントです。
>>>2023年にAMWで紹介されたクルマを1冊にまとめた「AMW car life snap 2023-2024」はこちら(外部サイト)
