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フェラーリ本社のどこにでも入れて撮影も自由だった良き時代!1987年のマラネロ訪問記【クルマ昔噺】

ちゃんとF1マシンとの2ショットも撮影した

今も鮮烈な記憶として心に残っているフェラーリ訪問記

モータージャーナリストの中村孝仁氏が綴る過去の経験談を今に伝える連載。今回は1987年に訪れたフェラーリ本社の思い出を語っていただきます。当時はまだ並行輸入が盛んな時代で、フェラーリとの関わりが深くなった中村さん。そんな彼が語る、自由に撮影できた工場見学の様子や、F1ドライバーとの偶然の出会いは、クルマ好きにとってたまらない“生の証言”です。

フィアットの海外試乗会に行ったはずが…?

1980年代から2010年代にかけて、およそ30年間、極めて頻繁に海外取材へ赴いていた。まったくの個人でモーターショーを取材することもあれば、メーカーに招かれて現地に赴くこともあった。輸入車に関してはインポーターからの招待による試乗会も多かった。

そんなある日、とあるインポーターから、当時導入を計画していたフィアットのニューモデル海外試乗会に誘われた。正直、クルマ自体にはあまり関心がなかった(導入が不確定だったからだ)。しかし、そのスケジュールにフェラーリ本社訪問が含まれていたことを現地で知り、驚いた。

並行輸入の時代に、本物のフェラーリを知る

フェラーリについては1970年代、筆者がアルバイトをしていた並行輸入のインポーターで、散々乗り倒した経験があった。

当時はフェラーリが正規に日本に入ってくることは稀で、確かロイヤルモータースという会社が代理権を持ち、「365GTB/4 デイトナ」が1台だけ導入された記憶がある。しかしその後、並行輸入が解禁され、スーパーカーブームへと繋がる小規模なインポーターが雨後の筍のように現れた時代となる。

筆者が所属していた「ローデム・コーポレーション」(現在は存在しない)もそのひとつで、ドイツからクルマを輸入していた。そのような時代だから、中古並行のフェラーリが突如として日本市場に大量に出回ったのだ。

そんな背景があったため、フェラーリについては雑誌の受け売りではなく、リアルな体験として基礎知識を持っていた。それだけに、フェラーリ本社訪問がスケジュールに組み込まれていたことを知ったときは、正直小躍りした。

念願のフェラーリ訪問、そしてアルボレートとの遭遇

じつはそれ以前に2度ほどフェラーリを訪れる機会があったのだが、いずれも不発に終わっている。まさに「3度目の正直」でようやくフェラーリに足を踏み入れることができた。

1987年、その年にフェラーリ本社を訪れた際、門をくぐるとすぐ右手に小さな事務所のような建物があり、そこには「156 F1」が展示されていた。奥には「288 GTO」も置かれていた。今となっては旧車だが、当時の筆者にとっては感慨深い光景だった。

工場の見学は、現在のように案内付きではなく、極めてアバウトだった。どこにでも自由に入ることができて、写真も自由に撮影できた。今なら撮影NGとなりそうな場所まで撮っている。工場内は意外にも整然としており、何よりも大規模だった。数年前に訪れたランボルギーニの工場がかなり貧弱だったため、その対比もあり、フェラーリの規模には心底驚かされた。

ただし、エンツォ・フェラーリの執務室の場所はわからず、もしかするとそもそも本社内にはなかったのかもしれない。じつはその執務室に入るチャンスは、フェラーリ初訪問となるはずだった「ロードスター」(少年画報社)の取材時にあった。ところが、何を思ったのか、私は忙しさを理由にそのイタリア出張を断ってしまった。結果として当時の編集長が代役として現地入りし、エンツォの不在中ではあったが、執務室に足を踏み入れている。

リストランテ・カバリーノでF1ドライバーに出会う

フェラーリ工場の入り口から道を挟んだ場所には、「リストランテ・カバリーノ」というフェラーリ御用達のレストランがある。1987年当時、我々取材班もそこでランチをいただいた。

そしてそのランチの最中、なんと当時のフェラーリF1ワークスドライバーだったミケーレ・アルボレートが店内に入ってきた。一瞬の出来事で、残念ながら写真には収められなかったが、その衝撃は今でも記憶に残っている。

レストランの隣、あるいは並びには、高価なお土産が所狭しと並ぶショップもあった。財布の中身がいくらあっても足りなそうな店だった。

当時工場で主に生産されていたのは「328」「テスタロッサ」「400i」である。そもそもフィアットの取材でイタリアに来たはずなのに、撮影した写真の枚数は明らかにフェラーリのほうが多かった。

残念ながら、その後フェラーリを再訪する機会はなかったが、あの1987年の訪問は、今も鮮烈な記憶として心に残っている。

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