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夫婦共用の“買い物用クルマ”ブーンX4がデイラリーで優勝! 同着3台の頂上決戦はまさかの「じゃんけん」

オーナーは左小林喜巳成さん(左)。後席からアドバイスした亀山伸一さん(中央)、ナビゲーターは加納ゆかりさん(右)

初心者もベテランも楽しめるモータースポーツ!

免許さえあれば誰でも参加できる「デイラリー」。その関東シリーズ第2戦「第51回光圀ラリー」が、茨城県中東部を舞台に開催されました。初心者からベテランまで、それぞれの楽しみ方で挑戦できるラリー競技の魅力と、本大会の覇者ダイハツ「ブーンX4」で参戦したクルーの活躍を紹介します。

JAF競技ライセンスを取得しなくても気軽に愛車で参戦できる

主催者はJAF登録クラブであるラリークラブぐるーぷ光圀。「光圀」といえば、水戸黄門で知られる徳川光圀ですが、その名を拝借し、お膝元である茨城県の水戸から50余年も前に立ち上がったそうです。同クラブは日本アルペンラリーなど、JAFが日本のモータースポーツを統括する以前に行われていた伝説のラリーにも当時のクラブ員の参戦歴があるほど、古くから地域のモータースポーツ振興に携わっているほどの歴史を持っています。

今回のデイラリーが「第51回」というのは、同クラブがナイトラリー、ターマックラリー、デイラリーなど、さまざまなラリー開催を積み重ねてきた回数とのことです。

光圀ラリーは、茨城県中東部の那珂郡東海村から、光圀公が晩年を過ごした隠居所「西山荘」が再建されている常陸太田市の東部を巡る、約60kmの舗装路ルートでした。ラリーというモータースポーツは、その土地ならではの味わいあるルートが魅力ですが、JAFの競技ライセンスがなくても愛車で気軽に参戦できるのが「デイラリー」最大の魅力と言えるでしょう。

「指定速度で正確に走る」を競うアベレージラリー

デイラリーは公道でタイムを競いますがアベレージラリーです。速い者が勝つのではなく、主催者から指示された区間内での走行速度が正確に守られているかを競う競技です。競技クルーは、正解通過タイム(主催者が指定する区間通過時間)との誤差をいかに少なくするかを競います。

正解通過タイムとの差を減点とし、その合計点を競うデイラリーは、スペシャルステージでの速さを競うSSラリーとはタイム争いの形態は異なりますが、ラリーとしての根源は同じです。どの形態のラリーであれ、指定時間内にゴール地点に帰還できなければ、途中でいかに速く正確であっても優勝はできません。成績はどうであれ、どちらも身体と頭脳を駆使したスポーツだからこそ味わえる、ゴール後の達成感があるでしょう。

エントリー料は1台2万〜3万円ほどとコストパフォーマンスが良く、参加車種もバラエティに富んでいました。今回は、ダイハツがラリー参戦を念頭に置いて開発した、モータースポーツ用ベース車「ブーンX4」で参戦しているクルーを紹介します。

パートナーの買い物クルマは競技用にカスタマイズ

ブーンX4(クロスフォー)が登場したのは約20年ほど前。すでに生産は終了して希少価値のあるクルマです。排気量でクラス分けされる競技において、ターボの換算倍率で1.6Lクラスとなるように設定された1Lターボエンジンを搭載して、駆動方式は4WDとなっています。

このクルマでデイラリーに参加したドライバーは、オーナーの小林喜巳成さん。ダートラやスピードトライアルなど、さまざまなモータースポーツに深い参戦歴を持つ小林さんは、今でも気軽にラリーに参加する、まさにモータースポーツナチュラル派とも言える方です。ところが、じつはこのブーンX4は、パートナーの買い物用のクルマだといいます。

しかし、このブーンX4には、小林さんが以前乗っていたランチア「デルタHF」のレプリカ仕様車から移し替えたシートとともに、位置を後方にずらしてフィットさせたステアリングが装着されています。さらに水温・油温・回転メーター、エンジンルームのクーリング対策など、見た目は飾らないものの、本質を追求したカスタムが施されています。夫婦共用車であることから、パートナーの半端ではない許容力が感じられます。

「普段乗りの市街地では、ミッションのギヤ比が合わず燃費は良くないのです。デイラリー競技にこだわってブーンX4を持ち込んだわけではありません。ラリー後にみんなでワイワイ話したり食事をするのが楽しいんです、それだけです」(小林さん)

長年モータースポーツを楽しみ続けてきた人の境地においては、ブーンX4は雰囲気を盛り上げる補助アイテムのような存在なのでしょう。

ナビゲーターの加納ゆかりさんは、2023年に愛車のランチア デルタで初めてデイラリーに参加しました。その愛車は通りすがりの販売店に置かれていた真っ赤なランチア デルタHFで、ひと目惚れしてだったと。WRCに参戦したクルマだったとかお店の人から説明を受けたものの、理解するまでもなく即決して購入したそうです。このような経緯もあって元デルタオーナーだった小林さんとデイラリーに参加することになったわけです。

「ラリーということなど何も知らずにいましたが、なぜかデイラリーに参加しています」

と語る加納さんですが、じつは初のクラス優勝を勝ち取ることになります。

初心者にもやさしいデイラリーの魅力

関東デイラリーには4つの参戦クラスがあり、ラリーコンピューターなどの使用機器に制限なしのAクラス、ラリーコンピューター使用不可のBクラスとCクラス、製造年が古いクルマのLクラスが設定されています。Cクラスは、そのなかでもとくに初心者向けで、チェックポイントでの正確通過タイムとの差を、他のクラスが1秒単位で1減点とするところを、10秒以内の枠で1減点と緩やかに設定されています。

そんなCクラスで今回、トータル6箇所のすべてのチェックポイントでゼロ減点を果たしたクルーが3組も出て、トップに並びました。そのうちの1組が山下さんのブーンX4です。

アベレージラリーの場合、コドライバーからドライバーへの走行ペースやコマ図を読んでの進行方向の指示などは、状況判断によっては何らかの修正が必要です。初心者コドライバーの加納さんがこのような結果を出せたは、じつは後部座席からナビゲーションをアドバイスする走行補正請負人とも言うべきベテランの亀山伸一さんがいたからです。デイラリーは乗車定員数まで同乗参戦できるので、初心者にとっては、周りのみんなからの教えと協力が得られる良い実践の場にもなっているのです。

デルタつながりからラリーに参戦することになった加納さん。トップ3組の最終決着が「じゃんけん決戦」にもつれ込んだ時に、最終ファイターとしてすべてを任され、クルーに勝利をもたらした、まさに「縁は異なもの乙なもの」という勝負展開でした。メインは競技後の食事とスタート前に語っていた小林さんですから、さらなる盛り上がりが推測されます。

手軽に参加できるデイラリーは、完走後にJAFが発行するBライセンスも申請し取得できますので、ラリー初参加であっても、未来へのつながりは無限大、WRC競技への道もあり得ます。

競技中、田園風景が広がる開けた道に停車したミニバンから、20代の青年が興味を示してチェックポイントの主催者スタッフに尋ねてきました。

「たくさんクルマが集まってますけど、何かあるんですか?」

「これ、ラリーですか?一緒に走ってみたいです」

通りすがりも縁のうち。どう始めたらいいのかわからないままでは忍びないと筆者は

「日本全国には身近なJAF登録クラブがあるので連絡してみては? ここなら『光圀、ラリー』で検索すればすぐに分かりますよ」

と伝えてみました。まったくの未経験者でもラリーを始めてみたい方には、気軽に楽しめるデイラリーはとくにおすすめです。

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