レーシングスピードで実感したハンドリング・バイ・ロータスの素晴らしさ
1960年代に登場したフォードの大衆車をロータスがチューニングした名車「コーティナMk1シリーズ1」。軽量なボディにツインカムエンジンを積んだこのマシンは、ツーリングカーレースで輝かしい戦績を残しました。このクルマのオーナーの津谷文信さんは、サーキットイベント「サイドウェイ・トロフィー」に参戦。修理したコーティナを街中で試乗した経験はありましたが、レーシングスピードは初めて。それまでには感じなかったコーティナの素晴らしさを知ることになったそうです。
自らの手で修理した横転車両を初めてサーキットで走らせた
千葉県のサーキット、袖ヶ浦フォレストレースウェイで年2回開催される「フェスティバル オブ サイドウェイ トロフィー」(以下FoST)は、ヒストリックカーファンにはお馴染みのイベントである。
そのFoSTの2025年春では、フォードおよびロータスのコーティナに焦点を当てた「グリーンフラッシュ トロフィー」がスペシャルコンテンツとして開催された。コーティナだけのワンメイクレース、パレードラン、パドックでの一族の展示が行われ、会場は大いに賑わった。
「グリーンフラッシュ トロフィー」レースに参加したロータス コーティナMk1シリーズ1オーナーの津谷文信さんに話を伺った。
「じつは、このコーティナは修理が完成したばかりで走行は初めてでしたが、想像以上のハンドリングの良さに驚きました」
鈑金塗装業を仕事とする津谷さんは、修理したクルマの試運転などで複数台のコーティナを公道で乗った経験は持っているが、サーキットでのレーシングスピードは初めて。街中での運転では感じられなかった、ロータス コーティナ特有の素晴らしさを知ったわけだ。
「仕事の取引先からも、コーティナの回頭性は箱車とは思えないほど良いと聞いていたが、まさに鼻先がすごく入ってくれる。以前はジネッタG4でサーキット走行をしていたのですが、それよりも曲がってくれました」
さらに驚くことに、このロータス コーティナは横転した車両を津谷さんが自身の手で再生したものだ。
Aアームのブラケットが疲労断裂してサスがもげてしまいそうなクルマだった
「横転したクルマであることを知った上での購入したので、全バラからのボディのフルレストアを当初から計画していました。ところが、足まわりのパーツを外していたときにフロアを見て驚いた」
コーティナはモノコックフレーム構造を採用するが、初期のロータス コーティナは、アクスルの捩れ防止と位置決めのため、Aアームと呼ばれるフレームをデフとボディフレームに取り付けている。しかし、そのAアームのブラケットを取り付けるボディフレームが、左右ともに疲労断裂していたのだ。
「長年のストレスの蓄積でしょうが、過去に修理した形跡もなく酷い状態でした。サスペンションもリアアクスルも相当動いていたと思います。この状態を知らずにレーシングスピードで走っていたなんて、想像すると恐怖ですし、走行中にサスペンションがもげなくて良かったと思いました」
1度は諦めようと思ったほどの状況であったが、幸運にも仕事仲間が保有していたフロント部分のみにダメージがあるボディを譲ってもらえることになり、それをベースに再生する決意をした。
入手したボディはシリーズ2のものであったが、Aアームなどロータスの純正の証である刻印が入ったパーツを移植し、シリーズ1と同様の構造とした。
「3年かかりましたが、ちょうど直ったタイミングでグリーンフラッシュトロフィーが開催され、参加できたのは本当に幸運でした。オーナーさんたちとの情報交換や、新しい人脈もでき、直して良かったという実感が湧きました。これからも、こうしたイベントにはどんどん参加するつもりです」
長くクラシックカーを楽しんできたが、自らの手で再生させたロータス コーティナはようやく第一歩を歩き始めたばかりだ。
「今回はサーキット走行域でのエンジンのキャブセッティングも、ベストの状態ではなかったので、さらにセットアップして、この素晴らしいハンドリングマシンを楽しみます」
フォードの大衆サルーンカーにハイスペックのエンジンを載せ、元祖「羊の皮を被った狼」と言われたロータス コーティナ。その心地よいハンドリングを生むサスペンションの味付けは、ハンドリング・バイ・ロータスという概念が半世紀前から存在していた証にほかならない。
