フェラーリ「456M GTA」が予想外の価格で落札
フェラーリのV12エンジンを積む4人乗りグランドツアラー「456M GTA」がボナムスのオークションに出品され、予想を下回る約626万円で落札されました。2001年モデルで走行距離は約5.8万km。鮮やかなブルーのボディと上質なレザー内装を備えた美しい個体でした。わずか650台しか生産されなかった希少モデルが、この価格で落札されたことはフェラーリ市場の奥深さを感じさせます。
フェラーリのもうひとつの系譜「2+2GT」
フェラーリのロードカーといえば、やはり2シーター・スポーツの姿がイメージされるが、じつは、それとともに高性能かつラグジュアリーな走りをカスタマーに提供する2+2GTをラインナップすることを常としてきた。
「456」シリーズは1992年に発表された2+2GTであり、1989年に生産中止となった「412」の後継車として誕生したモデルである。412が直線を基調とする端正なボディデザインを採用していたのに対し、456には同じピニンファリーナの作でありながら、よりダイナミックで近代的なスタイルが与えられた。そのスムースなボンネットの下には、新開発された最高出力442psの5.5L(5473cc)仕様のV型12気筒DOHC4バルブエンジンが搭載されていた。
トランスミッションは、ファーストモデルの「456GT」では6速MTのみの設定であったが、1996年には4速ATを組み合わせた「456GTA」が登場し、2+2GTとしての魅力はさらに高まった。
ビッグマイナーチェンジで「M(モディファイド)」へ進化
だがフェラーリは456シリーズの進化をそれで止めることはなかった。1998年になるとビッグマイナーチェンジ版の「456M GT」、「456M GTA」を市場に投じ、さらに富裕層からの高い評価を得ることになる。車名に掲げられるMの文字は「モディファイド」を意味する。
エクステリアではフロントグリルが拡大され、新たにその中に丸型の補助灯を組み込むことで、フェラーリの伝統的なスタイルを表現した。リトラクタブルヘッドラントのケースも、ボンネットのラインが変更されたことに対応して新たなデザインになった。リアまわりでは、456GT、456GTAで使用されてきた可変式のアンダースポイラーを廃止し、代わりに固定式のインテグレーテッド・リア・アンダースポイラーを採用したことが大きな特徴である。456M GT、456M GTAは、フェラーリがマラネロの本社内に新設した、かのレンツォ・ピアノのデザインによる風洞実験装置を使って開発された最初のモデルでもある。
エクステリア以上に変化が大きかったのはインテリアのフィニッシュだ。インパネのデザインは一新され、マルチファンクション・ディスプレイも組み込まれた。丸型のベンチレーターはクラシック・フェラーリのイメージを醸し出し、キャビンは豪華でかつスポーティな雰囲気がより強調されるようになった。さらに後席への乗降性を高めるために前席に自動スライド機構を導入するなど、実用性を高めるための改善も積極的に行われている。
456シリーズ後期の高年式モデルではあったが意外なる評価
エンジンは基本的にはそれまでの456GT、456GTAから変化はなかったが、エンジン・マネージメント・システムの改良や点火順序の変更によって、よりスムースな回転フィーリングが得られるようになった。0→100km/h加速5.2秒(456M GT、GTAは5.5秒)、最高速300km/h(同298km/h)という運動性能が、当時のGTとしては世界の最高水準にあったことは言うまでもない。
出品車の456M GTAは2001年モデルである。フェラーリは456M GTAの生産を2003年で終了しているため、このモデルとしては高年式の部類に入るといってもよい。
現在までの走行距離は3万6400マイル(約5万8240km)。アズーロ・カリフォルニアと呼ばれるブルー系のボディカラーと、オフホワイトのレザーインテリアのマッチングも素晴らしく、かつそのコンディションは良好に保たれている。
さらにオプションのブルーパイピング付きパワーデイトナスタイルシートなどが備わるのも、このモデルの大きなセールスポイントだ。車体のほかに純正マニュアルや工具キット、タイヤ空気圧調節キットが付属していることも見逃せない。
フェラーリの記録によれば、1998年から2003年までの間に生産された456M GTAはわずか650台である。ボナムスはこのモデルに対して5万ドル~6万ドル(約736万円~883万円)というエスティメートを提示したが、実際の落札価格はそれを下まわる4万2560ドル(邦貨換算約626万円)であった。フェラーリの12気筒モデルを手に入れたいと切に願う熱狂的なエンスージアストにとって、はたしてこの数字はどう映るのだろうか。
