地元を離れず「富5」を維持し続けてきたT40系3代目コロナ
半世紀以上、同じ地域で愛され続けてきた1台のトヨペット「コロナ1500デラックス」があります。学生のころからその姿を見ていた現在のオーナー村川誠一さんは、7年前に念願かなって手に入れました。新車登録当時のナンバーを受け継ぎ、地元・富山の道を走る姿はまさに“生きる歴史”。時代が変わっても、地元の人々にとっては、このコロナは懐かしく、そして誇らしい存在なのでしょう。
オリジナル状態を保った上質な個体が集まるイベント
自動車検査登録情報協会のホームページによると、「令和3年3月末の乗用車(軽自動車を除く)の平均使用年数は13.87年」であるという。1台のクルマが登録されてから抹消されるまでの平均期間は約13年から14年となる。ところがヒストリックカー・イベントを訪れると、何十年も大切に乗り続けられてきたクルマばかりが並んでおり、この平均年数がいかに短いかを改めて感じさせる。今回、イベント会場で出会ったトヨペット コロナは、半世紀以上の時をくぐり抜け、今なお現役として活躍する貴重な1台である。
『第20回フォッサマグナミュージアム・クラシックカーミーティング』は、新潟県糸魚川市にある博物館、フォッサマグナミュージアムの敷地内で2025年5月3日(土・祝)に開催された。今回で20回という節目を迎えた恒例のイベントであり、市民縁日やミニコンサート、白バイやパトカーの展示など多彩な出し物も用意される。その目玉は、なんといっても貴重なヒストリックカー50台の展示である。
基本的な参加条件は1974年以前に生産された車種であり、エントラントは国産車と輸入車がほぼ半々であった。いずれの車両もオリジナル状態をよく保った上質な個体が集まることが、本イベントの大きな特徴である。
学生時代から地元で頻繁に走る姿を見かけていた個体
上質なエントラントが居並ぶ会場で、ひときわ目に止まったのは「富5」のシングル・ナンバーを掲げたトヨペット コロナであった。このコロナは、1964年から1970年にかけて生産されたT40系(3代目)である。古くからのクルマ好きであれば、「BC戦争」と呼ばれたダットサン ブルーバードとの間で繰り広げられた激しい販売台数争いを懐かしいエピソードはご存知であろう。この3代目コロナは、しっとりとした佇まいで非常に状態がよい。車両の近くにいたオーナーに、さっそく話を聞いてみた。
「1968年式のトヨペット コロナ1500、グレードはデラックスです」
と、オーナーの村川誠一氏は話す。村川氏は
「自分の手元にやってきたのは7年前ですが、じつは35年ほど前からよく知っているクルマだったんです」
その詳細を説明する。車両が掲げるシングル・ナンバーからも判別できるとおり、1968年に富山県高岡市の初代オーナーの元へ新車として納車され、地元で走り続けてきた個体である。初代オーナーと同じ地域に住む村川氏は、高校生の頃からこのコロナを頻繁に見かけていた。やがて初代オーナーが亡くなった後も、親戚が車検を継続させて乗っていたのだ。
1桁ナンバー維持をかけた運命の救出劇
ところが、10年ほど前からそのコロナを街中でぱったり見かけなくなった。どこかに売却されたのか、あるいは廃車になったのか。村川氏がその動向を気にしていたところ、ある日、地元のクルマ屋から売り物として出されているという情報を入手した。確認すると、学生の頃から地元で頻繁に見かけていたまさに見慣れた個体であることが判明した。
しかも貴重なシングル・ナンバーもそのまま残されていた。自身が購入することで、そのシングル・ナンバーを維持できると確信した村川氏は、購入することを決意した。こうして1968年に富山トヨペット高岡から最初のオーナーに納車されたトヨペット コロナ1.5L DXは、親戚の所有時代を経て、7年ほど前からは3人目のオーナーとなった村川氏の元で、再び地元富山の路を走り始めた。
地方創生という言葉がよく聞かれる。もちろん観光名所や特産品などもそれぞれの土地を代表する大切な要素であるが、村川氏のトヨペット コロナのような存在もまた、地域にとって貴重な財産ではないだろうか。半世紀以上もの間、歴代オーナーによって地元を離れることもなく走り続けてきたことでシングル・ナンバーを引き継げた馴染み深い大衆車は、その地域のまさに宝物のように大切な存在である。
