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世界にたった30台! バブル期に製造した幻のドイツ製「イズデラ インペラトール108i」の興味ある価格

92万9000ドル(邦貨換算約1億4585万円)で落札されたイズデラ「インペラトール108i」(C)Courtesy of RM Sotheby's

メルセデス製V8をミドシップに搭載! 全世界でわずか30台のガルウィング・ハイパーカー

スーパーカーを凌駕するパフォーマンスを示したのが「ハイパーカー」というカテゴリーです。その萌芽ともいえる1980〜90年代のモデルたちは、現在の国際クラシックカーマーケットにおいて特別な存在として愛好家を魅了しています。今回は、2月27日にフロリダ州で開催された「MIAMI 2026」オークションに出品された「イズデラ インペラトール108i」をピックアップします。新車時に日本へ正規輸入されたという驚きのヒストリーと、1億円超えとなったオークション結果を解説します。

エンジニアとしてポルシェから始まりメルセデスに移り、当時のコンセプトカーを独立し実現目指す!

イズデラ社は、先見の明を持つ自動車エンジニアのエバーハルト・シュルツによって設立された。彼は「フォード GT40」に似た手作りのプロトタイプ「エラトールGTE」を発表している。その才覚を見出され、ポルシェでキャリアをスタートさせた人物だ。

ポルシェ在籍中も、シュルツは余暇を利用して独自のコンセプト開発を継続した。そのデザインは、名車「メルセデス・ベンツ 300SL」の優雅さとエンジニアリングの反映を意図していた。

1978年、シュルツはポルシェを離れる。そしてチューナーのライナー・ブッフマンと共同で「b&b」社を設立した。同年のフランクフルト・モーターショーでは、300SLの復活コンセプトを具現化した「CW311」が初公開された。

残念ながら、このコンセプトカーがダイムラー・ベンツ社で市販化されることはなかった。しかし1980年代初頭、シュルツは完全独立を決意する。1982年、バーデン=ヴュルテンベルク州レオンベルクに「イズデラ」社を設立した。

社名はドイツ語の「Ingenieurbüro für Styling, DEsign und Racing」の頭文字に由来する。当初はスタイリングと設計、そしてレース活動のためのエンジニアリングオフィスを自称していた。

鋼管スペースフレームにメルセデス製V8をミッドに積む傑作インペラートは9年間で生産30台の超希少車! 

設立から2年後、同社はオリジナルのCW311プロジェクトをベースとした市販車を発表する。シュルツが長年温めてきたコンセプトの集大成となるイズデラ インペラトール108iだ。ちなみに「インペラトール(Imperator)」はラテン語で「命令を下す者」、転じて「皇帝」を意味し、108はシュルツの開発コードナンバーだと言われており、iはインジェクションを意味している。

結局、前期モデルとされる角形二灯の固定式ヘッドライトに直線的なウェッジシェイプデザインのモデルを1984年から1990年までに17台、1991年から1993年までの後期型はリトラクタブルヘッドライトと全体に丸みを帯びたデザインとなり13台生産され、合計9年間でわずか30台の生産となった。ミッドシップにはメルセデス・ベンツ製V8エンジン(前期型はM117系OHC、後期型はM119系DOHC)を搭載している。シャシーはオリジナル300SLと同様に鋼管スペースフレームで構築され、接着強化ガラス繊維のボディパネルで覆われた。

そのエンジニアリングは、ガルウィングドアを継承したスタイリングと同様に洗練されていた。サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアが上下のトランスバースリンクだ。4輪すべてにコイルスプリングとディスクブレーキを装備している。

1984年のデビュー当時の技術水準としては驚異的なパフォーマンスを獲得しており、最高速度は175mph(約282km/h)、0-60mph加速は5.1秒を公称していた。後期型に搭載した最強エンジンとなるAMG6.0では、最高速310km/h、0-60mph加速は5.0秒にまで向上している。

バブル期に神戸の正式輸入代理店「イズデラジャパン」が2台のインペラトールを正規輸入した!

今回RMサザビーズ「MIAMI 2026」オークションに出品されたのは、後期型のインペラトール108iだ。シルバーのボディにブラックレザー内装という、ドイツ製スポーツカーの典型的なカラーリングをまとっている。

ポップアップ式ヘッドライトと、助手席側に配置された曲線を描くツインエキゾーストが特徴だ。一目で「シリーズ2」と判別できる。

柔らかなボディラインや拡大されたフロントグリル、彫刻的なホイールアーチベントも見逃せない。ボンネットに統合されたオフセットNACAダクトにも注目だ。かつてダイムラー・ベンツ社が自ら試作し、エバーハルト・シュルツがオマージュの対象としたCW111プロトタイプの大胆な精神と、洗練されたコーチワークが見事に融合している。

この左ハンドル仕様車は、日本の顧客へ引き渡すために作られた個体である。オリジナルの注文書や書簡の写しなど、興味深い資料が添付されていた。実はバブル景気真っ只中の日本には、神戸を拠点とした「イズデラ・ジャパン」が設立されている。赤いシリーズ1と、このシルバーのシリーズ2の合計2台のみが、日本へ正規輸入されていたのだ(一説には屋根のないスパイダー036iモデルも日本にあったと言われている)。

リアのエンジンフード下には、ダイムラー・ベンツ製の「M119」型エンジンが搭載されている。後期型の特徴であるDOHCV型8気筒32バルブ燃料噴射式エンジンだ。300ps以上のパワーを発揮し、ZF製5速マニュアルトランスミッションと組み合わされている。

流札から一転! 約1.4億円で落札されたオークションの妙

日本に正式輸入されたのち(イズデラ ジャパンが倒産し、破産管財人から新車同様のインペラトールを引き継いだのがクラシックメルセデスを扱う京都のLLコレクション。およそ30年に渡り新車状態のまま保管していたとされる説がある)のオーナーシップ歴については、今回のオークションで明らかにされていない。しかし、2016年に英国で登録されたのち、ドイツの所有者へ渡ったことは判明している。その間に「MePoRes F. Ulbricht GmbH」社による部分的なレストアが施された。

2021年には別の著名な欧州コレクションへ加わった。この際に行われた冷却システム、空調システム、ブレーキなどの点検・整備を証明する請求書も保管されている。

その後、今回の出品者である現オーナーが入手する。その直前には、カリフォルニア州スコッツバレーの「カネパ」社による点検・整備が実施された。「ポルシェ 959」のレストモッド版を発表したことでも世界的に話題を呼んでいる、著名なパフォーマンス専門会社だ。

公式オークションカタログが作成された時点で、走行距離計は1400マイル(約2250km)未満を指していた。まだ新車に限りなく近い低走行車であることも特筆すべきトピックである。

RMサザビーズ北米本社は、この個体に65万ドル〜85万ドルのエスティメート(推定落札価格)を設定した。近年の販売実績を鑑みた現実的な価格設定だ。

迎えた競売では、エスティメート上限を大きく上回る92万9000ドルでハンマーが落とされた。日本円に換算して約1億4585万円という、出品者側にとっては望外の価格である。

じつはこの個体、2024年夏のモントレー・オークションにも出品されていた。当時は80万ドル〜100万ドルという強気のエスティメートが設定されたものの、「No Sale(流札)」に終わっている。

翻って今回のマイアミでは、かなり現実的なエスティメートが設定された。それにもかかわらず、結果的には前回のエスティメート範囲内(約93万ドル)で落札されたことになる。

イズデラ社が作ったインペラトールのルーツは、メルセデスの伝説的自動車となっている300SLに始まり、1978年にメルセデス・ベンツが発表したコンセプトカー「CW311」をモチーフとしている。当時CW311の開発責任者だったのが、エーベルハルト・シュルツで「メルセデスがやらないのなら、自分で作る」とメルセデスからすべての許認可を取り、自身のブランド「イズデラ」で市販化したという意地とプライドの傑作車といえるのがインペラトールだ。

今もエンジニアとして現役だというエーベルハルト・シュルツ氏(81歳)に1億5000万円という落札額が届いたのなら、喜んでくれているのだろうか。それとも「皇帝の名前に恥じる金額だ」といぶかしがるのだろうか。いずれにせよクラシックカー・オークションは、常に「水物」であると再認識させられる。

※為替レートは1ドル=157円(2026年3月24日時点)で換算

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