サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

当時の先端技術が注がれた1972年式マセラティ「ボーラ」の落札価格に吹いたアドリア海の北東風!?

12万8000ドル(邦貨換算約2035万円)で落札された「マセラティ ボーラ」(C)Courtesy of Broad Arrow

スーパーカーブームの隠れた実力派「ボーラ」はシトロエンの油圧技術を搭載した超異端児! 

1970年代のスーパーカーブームにおいて、フェラーリ「BB」やランボルギーニ「カウンタック」の影に隠れがちだったのがマセラティ「ボーラ」でした。しかし、ジウジアーロの美しいボディシルエットやシトロエン譲りのハイドロシステムを備えた、極めて洗練された先進ミッドシップGTでした。2026年3月7日、アメリカ合衆国「ブロードアロー・オークションズ」社が自国内で開催した「アメリア・アイランド2026」セールスに出品されていた希少な初期型1972年式モデルの歴史を振り返るとともに、驚きの落札結果について詳しく解説します。

マセラティ初のミドシップにしてカウンタックとBBのライバルとして生まれた「ボーラ」の成り立ち

1960年代は名作「ギブリ」を擁してフェラーリ デイトナおよびランボルギーニ ミウラと三つ巴の最速争いを繰り広げたマセラティ。しかし1970年代を迎えるとフェラーリは365GT4/BB、ランボルギーニはカウンタック LP400を投入し、イタリアの大排気量スポーツカーの世界はミッドシップ時代への幕開けを告げました。

それまでは新技術の導入には慎重な保守派だったマセラティも、この時ばかりは負けじと、カウンタックの試作モデル「LP500」(のちの初代カウンタックLP400)の初お目見えと同じ1971年のジュネーブショーに、同社の市販ストラダーレとしては史上初となるミッドシップ車、ボーラを出品する。

この時期のスポーツカーとしてはかなり長いものであった2600mmのホイールベースを巧みに昇華し、スタイリッシュに仕立てたボーラのモノコックボディは、独立して間もないジョルジェット・ジウジアーロ率いる「イタルデザイン」社によるもの。リトラクタブル式の丸形2灯ヘッドライトに加え、あえて塗装せずに金属の地肌をそのまま活かしたステンレス製のルーフが外観上の大きな特徴だ。この前衛的でありながらもエレガントなディテールは、数あるスーパーカーのなかでもボーラ特有の美しさを際立たせている。

シトロエン「ハイドロシステム」を導入した異端のラグジュアリー高級グラントゥリズモ「Bora」

パワーユニットは、1950年代のレーシングスポーツカーから継承されたV型8気筒4カムシャフト。ただしデビュー当初は、ギブリの最強版「5000SS」用のエンジンは搭載されず、310psを発揮するとされた4700cc版のみが搭載されたが、マキシマムスピードについてはギブリ 5000SSと同じ280km/hと公表していた。

1973年には、まずはアメリカ市場向けに排ガス対策を施した4900cc V8を搭載。こちらは300psにパワーダウンしていたが、1975年のマイナーチェンジでは欧州マーケットでもフルパワー(320ps)の4900ccユニットが搭載されることになった。

しかしボーラのテクノロジーにおける最大の特徴といえば、当時マセラティの親会社だった仏シトロエンから拝借し、4輪ディスクブレーキにポップアップ式のヘッドランプの昇降、果てはパワーウインドウやシート調整などにも導入されていた、油圧による「ハイドロ・ニューマチック」機構の採用が挙げられよう。

またフロントに実用的なラゲッジスペースを持つことや、有効な遮音材や断熱材がしっかりと貼られていることなど、キャラクターについてもリアルスポーツ的なカウンタックやBBとは一線を画した、紳士的でラグジュアリーな高級グラントゥリズモとしての資質も追求されていた。

生産数289台と希少性高いボーラだが、ライバルに比べ約2000万円とかなりリーズナブルな価格

このほどブロードアローのアメリア・アイランド2026オークションに出品されたマセラティ ボーラは、1972年3月にモデナ市内のチーロ・メノッティ本社工場で組み立てられた生産最初期の個体だ。ファーストオーナーの意向により、スポーティで洗練された「チェレステ・キアーロ(ライトブルー)」のボディカラーとブラックレザー内装の組み合わせで、新車としてオーダーされたものである。

4基のツインチョーク式ウェーバー42DCNFキャブレターを組み合わせ、最高出力310psを発生する4700ccのV8エンジンを搭載し、わずか289台しか生産されなかった希少なモデルだ。「マセラティ・クラシケ」のヒストリアン、ファビオ・コリーナ氏が指摘したように、この車両はZF製5速マニュアルトランスミッションを搭載し、メートル法の計器類と、欧州マーケット向けのスマートなクロームバンパーを装備して、イタリア国内にて登録・納車された。

その後、紆余曲折を経てアメリカへやってきたこの個体は、2015年までにフロリダ州マイアミのコレクターによって購入され、大規模なレストア作業が依頼される。ボディワークから始め、チェレステ・キアーロのオリジナルカラーで再塗装。インテリアはシートとドアパネルに新しいブラックレザーが採用され、新しいヘッドライナーとカーペットも取り付けられた。これまでの調査によると、外観の修復が完了したあと、エンジンとブレーキシステムもオーバーホールされたようだ。

レストア作業が完了したのち、この流麗なマセラティは2022年8月に現オーナーによって購入される。2023年8月には、サンタ・クルーズの専門ファクトリーにおいて燃料系と点火系、冷却システムに焦点を当てた大規模な作業が実施され、総額1万8271ドル(約290万円)を要したという。くわえて、直近の2025年6月にも追加の再調整が行われ、総額4880ドル(約77万円)に相当する作業が完了した。

今回のオークションに向けてブロードアロー社が製作した公式カタログでは、

「ジウジアーロのデザインによるシンプルでありながら優雅な特徴をいまなお保持し、希少な高級色“チェレステ・キアーロ”で新車仕様どおりに仕上げられたこのボーラは、モデナを離れた時から愛好家を魅了し続けています」

というPR文を添え、14万ドル~16万ドル(邦貨換算約2226万円〜2544万円)という、このモデルの現在における相場感を反映したエスティメート(推定落札価格)を設定。そのうえで「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」での出品となった。

そして3月7日に行われた競売では、終わってみれば12万8000ドル。つまり、現在の為替レートで日本円に換算すれば約2035万円という、現在の市場におけるカウンタックはもちろん、フェラーリ BBの相場よりもかなり安価であり、落札者にとってはなかなかリーズナブルな価格で競売人のハンマーが鳴らされるに至った。

ただ、オークションのカタログ写真を精査してみると、例えばマフラーのサビやステンレスパーツの擦り傷などが垣間見られるなど、この個体のコンディションが少々忌避された可能性も否めない。すなわち、今回のハンマープライスがボーラ全体の相場感を示しているとは一概に言えないが、どこかマセラティ「ボーラ」の名前の由来のように、アドリア海に吹き降ろす冷たく力強い北東風(Bora)が吹いたように感じられて切ない。

※為替レートは1ドル=159円(2026年4月13日時点)で換算

モバイルバージョンを終了