クラシックフェラーリが現実的な価格で手に入る2+2モデルの魅力
国際オークションにおけるフェラーリの案件といえば、億超えのビッグディールばかりが目立っています。しかし実際には、より現実的な価格で取り引きされる魅力的な跳ね馬も数多く存在しているのです。英国で開催されたクラシックカーイベントの公式オークションに出品され、約730万円で落札されたフェラーリ「モンディアル3.2」の概要と、その魅力について詳しく解説します。
実用性を兼ね備えたエレガンスなミッドシップモデルの真価版
国際オークションにおけるフェラーリといえば、億超えのビッグディールばかりが目立っている感が強い。しかし実際のところは、より現実的な跳ね馬たちも数多く取り引きされているようだ。
英国のクラシックカー専門誌である「Practical Classics」誌が主催するトレードショー「The Classic Car and Restoration Show 2026」に際して、英国アイコニック オークショネア社が、3月21日から22日に開いたイベント公式オークションでは、1台のフェラーリ「モンディアル」が出品された。
1973年デビューのフェラーリ「ディーノ308GT4」から始まったフェラーリのミッドシップ2+2モデルは、1980年に代替わりのかたちでフェラーリ「モンディアル8」へと大きな進化を遂げる。その車名は、1950年代初頭の4気筒レーシングスポーツであるフェラーリ「500モンディアル」にあやかったものだ。そののち1980年代から90年代のフェラーリを代表する量産モデルのひとつとして、13年間の生産期間中に6000台以上がマラネッロ本社ファクトリーからラインオフされることになる。
前任のディーノ308GT4が、量産フェラーリとしてはイレギュラーなベルトーネ製だったのに対して、モンディアル系のデザインワークは、この時代のフェラーリにおける常道であるピニンファリーナが担当した。ホイールベースを308GT4から100mm伸ばして2550mmとしたことにくわえて、ガンディーニ流のアグレッシブさを強調したベルトーネから、ピニンファリーナらしいエレガンスを強調したボディへと変身していた。
そして、パワフルな3リッターV型8気筒4カムシャフトエンジンをリアミッドに搭載しながらも、308GT4時代よりもホイールベースを伸ばした分、わずかながら実用性を増したリアシートも設けられた。実際フェラーリ モンディアルは、1980年代から1990年代にかけてのフェラーリのなかでも、もっとも実用的なモデルだったのだ。
また、モンディアル系はフェラーリ「308GTB」やフェラーリ「328GTB」など2シーターのベルリネッタ(およびそのスパイダー版)に先んじて先進テクノロジーを採用したのも特徴である。1982年には気筒当たり4バルブのヘッドを持つフェラーリ「モンディアル クアトロヴァルヴォーレ」へとマイナーチェンジした。さらに1985年には、3.2リッターエンジンを328シリーズに先んじて搭載したフェラーリ「モンディアル3.2」へと進化する。
モンディアル3.2時代には810台のクーペが作られたのにくわえて、クアトロヴァルヴォーレ時代から追加された987台のカブリオレも、マラネロ工場からラインオフした。
完璧なコンディションを保つ最終期クーペモデル「モンディアル3.2」
さきごろアイコニック オークショネア社主催のオークションに出品されたのは、より複雑な縦置きミッドシップレイアウトを持つフェラーリ「モンディアルt」への代替わり直前、最終期に生産されたモンディアル3.2クーペだった。
おなじみ「ロッソ コルサ」のボディカラーに、クレーマ(クリーム色)の英国コノリー社製レザーハイドというクラシックな組み合わせで仕上げられている。3万194マイル(約4万8300km)という年式のわりには少ない走行距離を裏づけるように、エクステリアとインテリアともにほぼ完璧なコンディションを誇っている。
このモンディアル3.2は、イングランドにおける伝説的な元フェラーリ正規代理店であるマラネッロ コンセッショネアーズから、初代オーナーであるマンチェスターのアイフェル ファウンドリー ワークス社所属のA J フレッチャーなる人物に新車として納車された。その後2人の所有者が長期にわたり所蔵したあと、今回のオークション出品者でもある現オーナーの厳選されたコレクションにくわえられたという。
車両に添付されたヒストリーファイルには現オーナーのウォレットが含まれており、正規工場のスタンプが押されたサービスブックやドライバーズマニュアルが収められている。そして、過去50マイル(2023年5月および2025年5月)の間に2回にわたるタイミングベルト交換、および2回の12カ月点検を請け負ったコルチェスター フェラーリ社からの最近の請求書も存在する。くわえて、そのほかの整備内容としては、リアブレーキの分解整備にアンチロールバーのブッシュ交換、およびマフラーブラケットの交換が含まれる。
1992年1月の古い英国MOT車検記録が、オドメーターに表示されている走行距離を裏づけている。このモンディアル3.2には、イギリス国内では売買の対象ともなり得る桁数の少ないナンバープレート「77 MJF」がつくのだが、このオークションの落札者にはそのまま権利が引き継がれることになっている。
初めてのクラシックフェラーリとして最適な理由とは!?
今回の出品にあたり、アイコニック オークショネア社では「この見事なフェラーリは非常に優れたコストパフォーマンスを誇り、フェラーリオーナーへの第一歩として最適です。最近の写真撮影の際には完璧なコンディションで快調に走り、素晴らしいエンジン音を響かせていました」と公式カタログ内で謳っている。そして、ここ数年の英国における販売実績からすれば少々高めにも映る、3万ポンド〜4万ポンドのエスティメート(推定落札価格)を設定した。
この自信ありげなエスティメートにもかかわらず、コンディションの良さが評価されたのか、バーミンガムのNECで行われた競売ではビッド(入札)が順調に進んだ。終わってみればエスティメート範囲に収まる3万4313英ポンド、現在のレートで日本円に換算すれば約730万円で、競売人のハンマーが鳴らされることになったのである。
ところで蛇足ながら、これからクラシック フェラーリの世界に足を踏み入れたいと切望している熱心なファンには、市場ではもっともリーズナブルなフェラーリであるモンディアルのなかでも、とくに3.2以前のモデルに目を向けることをお勧めしたい理由がある。
308シリーズから360シリーズに至るフェラーリV8ユニットは、バルブ駆動をタイミングベルトで行っていた。そのため一定の頻度でベルト交換を要していたのだが、モンディアルt以降の縦置きミッドシップ車では、交換のためにエンジンをいったん降ろす必要があった。
いっぽう、3.2までの横置きV8エンジンは、車体に搭載したままベルト交換が可能だったためにメンテナンス費用が安く抑えられる。この点も、この時代のV8モデルがクラシック フェラーリの世界に足を踏み入れるのに絶好のパートナーになってくれる、大きな要因のひとつとされているのだ。
とはいえ40年近くも前に生産されたクルマ、しかも正真正銘のフェラーリである以上、当然ながら維持のための労力と費用について、然るべき覚悟を要するのは間違いないところである。
※為替レートは1英ポンド=213円(2026年5月9日時点)で換算
