モーターショーでのプロトタイプ出品が5年後の市販化に繋がった
光岡は、日本で最も小さい自動車メーカーとして知られています。1996年に同社初の型式認定車である「ゼロワン」が登場。そして2001年に光岡が東京モーターショーに初出展したとき、その記念に作られたコンセプトモデルが「オロチ」です。その際に予想を遥かに超える購入希望の反響があったことで市販化に向けて始動。その結果、同社2台目となる型式認定を受けて2006年10月に400台の完全受注生産で発売された、「ファッションスーパーカー」なのです。
離婚による傷心が、オロチ購入のきっかけに
今回ご登場いただいた光岡「オロチ」のオーナー、中村嘉公さん。愛車を購入したのは、コロナ禍に突入する直前だった。そのきっかけは、ご自身の離婚。傷心で落ち込んでいた時期に、地元でスーパーカーが連なって走る姿をたまたま目撃した。そこでフェラーリやランボルギーニに混じって異彩を放つ1台。それがオロチだった。
「子どもの頃からクルマが好きで、以前はレクサス LS460に乗っていたのです。もちろんスーパーカーに対する憧れはありましたが、それまでの人生はそことは無縁の世界にいました。偶然目撃した時も手が届かない世界だとは思ったのですが、そのまま興味を持ち続けていたのです」
買えるわけはないと思いつつも、なんとなくインターネットの情報を探す日々。その時に偶然発見したのが、このイエローのオロチだった。
「イエローが好きで。オロチといえば、ホワイトやパープルのイメージが強いなかで、このイエローを見つけたときはとても新鮮でした。買うつもりもなかったのですが、クルマを実際に見てみたいという衝動で、地元の山口県から愛知県のお店まで足を運んだのです」
そのときに、お店の人に言われた言葉。
「このクルマを買えば、人生が大きく変わりますよ」
離婚でふさぎ込んでいた気持ちを変えたい一心で、自身でも予想していなかった購入を決意。
「清水の舞台から飛び降りるとはまさにこのことでした」
と、中村さんは笑っていた。
圧倒的なスタイリングがオロチの真髄
「お店に並んでいたときのオロチの存在感は、本当に衝撃的でした。隣にはフェラーリも並んでいましたが、それが霞むほどのインパクトがあったのです」
中村さんの興奮の理由は、オロチのワイド感にあった。全幅2035mmと、国産車では唯一の2m超え。そのサイズ感は、ランボルギーニ「アヴェンタドール」に匹敵する。フェラーリの歴代車は、基本的に全幅2m以下。しかもオロチの全高はたったの1180mm。この圧倒的なワイド&ローのスタイリングと独特の顔つきが、中村さんの心を射止めたのである。
なおオロチは、2001年のコンセプトモデルこそホンダ「NSX」をベースにしていたが、市販バージョンは正式に型式認定された車種のためベース車は存在しない。フレームは光岡のオリジナル。エンジンは、レクサス「RX330」の3311ccのV型6気筒を、横置きに座席後部へと配置するミッドシップレイアウトを採用。トランスミッションはアイシン製5速AT。それ以外のさまざまなパーツは、スズキ、ホンダ、マツダなど各社の部品を流用して完成させている。
車体サイズの割にエンジンが小型のため、小さいながらも荷物スペースを設置。マニュアル車を製作するのは、別途型式認定を受ける必要があるため、販売価格高騰を避けるためオートマ設定のみ。こうすることで、スーパーカーならではの非日常の優越感を得られるルックスと、それとは対照的な日常でも扱いやすい性能の両立というコンセプトを具現化したクルマなのだ。
オロチが変えてくれた新しい人生
「納車の時も、愛知県から地元まで自走で帰ってきたのですが、緊張してずっと背筋が伸びていましたね(笑)。でもオロチを購入したことで、交友関係も変わって、新しい知人友人も増えました。そのおかげで、納車から今現在に至るまで、とても濃密な人生を過ごせています」
イエロー好きの中村さんにとっては、前オーナーの好みで変更されたカスタムが、すべてイエローを基本としていたことも、この愛車の購入ポイントだった。それゆえ、このルックスに満足しているため、入手後の変更点はなし。その代わりに、東へ西へと走りまくっているので、愛車の走行距離はすでに11万kmに到達する勢いだ。
「同じクルマの趣味なのに、オロチに乗りはじめたことで世界観が変わりました。経済的な理由や生活環境で、欲しいクルマを諦めてしまう方も多いと思うのですが、私はそれでも手に入れた方がいいと感じています。仕事に対するモチベーションの変化や、交友関係の広がりから、それまでには巡り会うことのなかった人生の先輩たちなどに出会えました。大げさではなく、本当に人生観が変わって違う景色を体験できたのは、オロチのおかげなのです」
クルマ趣味は、人生観に通ずるものがある。それは、スーパーカーだけではく、どんなジャンルにも共通して言えることだ。中村さんにとってのオロチは、今後も手放すことのないかけがえのない相棒となったことは間違いない。
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