2台の「EQ」を衝突テストしてEVの安全性を実証
メルセデス・ベンツでは1939年から安全性の研究開発をスタートし、「安全なクルマ」というブランド価値を確立するとともに、特許を無料で公開してきました。クルマの安全性を追求し続けるメルセデス・ベンツの姿勢は、最新のEVにおいても変わることがありません。2023年に行われた、自動車メーカーとして世界初のBEV同士のフロントオフセット衝突実験を紹介します。
自動車メーカーとして世界初のBEV同士の正面衝突テスト
メルセデス・ベンツがBEVを「EQ」と命名して登場させたのが2016年のフランクフルトモーターショーであり、ここで「EQCコンセプト」を発表してから9年が経った。EQとは「Electric Intelligence」を意味し、メルセデス・ベンツの電動モビリティブランドとして、矢継ぎ早な攻勢でワイドレンジのラインアップを構成した。
しかも、メルセデス・ベンツはBEVでも安全性のパイオニアである。2023年10月、メルセデス・ベンツは2台のBEVのフロントオフセット衝突を公に世界で初めて実施している。「EQA」と「EQS SUV」は実際の事故シナリオに則ってそれぞれが56km/hで走行し、50%が重なり合う形での正面衝突テストを実施した(2016年に完成したジンデルフィンゲンのメルセデス・テクノロジーセンター内)。
その結果、両車の客室と高電圧バッテリーは無傷で、ドアを開けて高電圧システムが自動的にシャットダウンされるなど高い安全性が確認された。これにより、緊急時には、乗員が自分で車両を降りたり、救助隊員が乗員を車両から救助することが可能になる。
全ての安全装置が機能して優れた乗員保護を実証
メルセデス・ベンツは新しい「Defining Electric Safety」キャンペーンを通じて、全電動モデルの安全機能に焦点を当て、BEVにおける感電や高エネルギーの短絡のリスクを防止するため、多段高電圧(HV)安全コンセプトを開発した。
このシステムには、バッテリーと電圧60Vを超える全てのコンポーネントの安全性を確保するため、8段階の重要な安全コンセプトがある。例えば、正と負の別々の配線や重大な衝突が発生した場合、自動的にスイッチがオフになる自己監視高電圧システムが挙げられる。
また、設計者は全てのHVエレメントを車両の衝突防止領域に配置し、車両のフロアにあるバッテリーを保護する。とくにEQSのドアシルには、大容量のアルミニウム押し出し材が使用されており、安定したバッテリーケースと他の対策の組み合わせにより、高電圧バッテリーの事故安全性が高くなっている。
EQSのセーフティボディの材質構造は、アルミニウム、鋳造アルミニウム、高張力鋼、超張力鋼である。加えて、アルミニウムを多く含む素材をインテリジェントに組み合わせて、高強度の鋼から作られた補強材は、高い安全要件を達成するために使用されている。とくに、EQSのサイドドアのアルミニウムシートの下には、押し出しアルミニウムプロファイルがあり、側面衝突が発生した場合にボディ構造に力を分散させるようになっている。
2023年の衝突テストでは、EQAとEQS SUVはそれぞれ2体の大人用ダミー(合計3人の女性と1人男性)を乗せてテスト。ダミーごとに最大150もある測定ポイントを分析すると、重傷から致命傷のリスクが低いことが分かった。これはクラッシャブルゾーンと高度な拘束システムが、深刻度の高い衝突時に非常に優れた乗員保護をしていることを意味している。つまり、高電圧システムの自動シャットダウン、エアバッグやベルトフォースリミッター付きベルトテンショナーなど、全ての安全装置が機能したということである。
X線衝突テストでさらに正確な分析が可能に
さらに、メルセデス・ベンツは2024年3月、フライブルクにあるフラウンホーファー研究機構のエルンスト・マッハ研究所(EMI)と共同で、自動車メーカーとして世界初のX線衝突テストを実施した。
衝突テスト車両の上のホール天井に設置された高速X線加速器は、毎秒最大1000枚の高解像度画像を生成し、以前では見えなかった車両内部構造とダミーの変形プロセスを可視化でき、正確な分析が可能となって安全性向上の重要な役割を果たしている。もちろん、X線衝突のため精巧な放射線防護対策が施され、建物の周囲には厚さ40cmのコンクリート壁が追加され、重量が約45tの保護ドアも含まれている。
安全性のパイオニアであるメルセデス・ベンツは、2016年から新たに完成したジンデルフィンゲンの近代的なメルセデス・テクノロジーセンター(MTC)で、毎年最大900回の衝突テストと1700回のスレッドテストを実施し、つねに革新の安全性を追求している(当時の投資額は約2億ユーロ)。
どんなパワートレインでも等しくハイレベルな安全性を提供していく
メルセデス・ベンツAG取締役で最高技術責任者(CTO)であるマルクス・シェーファーはメルセデス・ベンツの安全性とその目標を次のように語っている。
「安全性はメルセデス・ベンツのDNAの一部であり、すべての道路利用者に対するメルセデス・ベンツの中核的なコミットメントのひとつです。そして、我々にとって、人命を守ることは駆動システムの問題ではありません。2台の完全電気自動車を使用した最近の衝突テストはこれを証明しています。これは、私たちの全ての車両が、どのようなテクノロジーで駆動されるかに関係なく、等しく高いレベルの安全性を備えていることを証明しています。私たちは、WHOや国連地域委員会が掲げる“ビジョン・ゼロ”を超える“事故のない運転”というビジョンの実現に向けて、日々努力しています。私たちは、2030年までに交通事故死者と重傷者を2020年と比較して半減させ、2050年までに交通事故死者をゼロにしたいだけではありません。2050年までにメルセデス・ベンツの車両が関与する事故をゼロにすることを目標としています」
メルセデス・ベンツの安全性は、革新技術の進化とともに変わってきている。このことは大変価値があるといえる。なぜなら、他メーカーではこの進化の比較ができないからである。メルセデス・ベンツは、今後も自動車を取り巻く環境や進化し続ける技術に即応しながら、自動化時代に備え、事故なき安全運転の実現を目指しているのである。
