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ある意味「究極」のGT-R! NISMO大森ファクトリーの「CRS」の正体とは?

NISMOのアフターパーツ開発を請け負う「大森ファクトリー」のデモカー

 強靭な心臓と革新的な4WDシステムにより、1990年代から日本代表として世界のスポーツカーと対峙してきた日産スカイラインGT-R/日産GT-R。

 日産自動車のモータースポーツ活動を支えるニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(以下NISMO)はそのGT-Rを軸に1990年代中盤からアフターパーツ市場へ本格参入を開始。以後、チューニングプラン、対応車種を拡大していった。

 現在、こうしたカスタマイズパーツの開発&販売はNISMOのアンテナショップである「NISMO大森ファクトリー」が受け持ち、同ショップのデモカー&開発車両としてラインアップされているのがR35GT-Rのダークメタルグレーで統一されたR32/R33/R34/R35GT-Rの「クラブマンレーススペック(以下CRS)」だ。

「サーキット走行を1日楽しみ、自走で往来できるクルマ」がコンセプト

 CRSとは「クローズドサーキットでのスポーツ走行と公道走行の両立」。つまりサーキットへ自走で出かけ、走行を楽しんだ後に自走で自宅まで帰れるGT-RをNISMO流に具現化したモデル。このコンセプトの下、製作されたデモカーはボディ各部は徹底的にリフレッシュされ、内外装ともに新車に近い状態に戻したしたうえで、開発車両としても活躍。数多くのテストを経て、NISMO基準を満たした「ファクトリーライン」パーツをふんだんに装着。細部までスキなく仕立てられたCRSはGT-Rオーナー、ファンが憧れる完成形なのだ。

 ちなみにファクトリーラインで用意される多くのパーツは、取り付け後にセットアップが必要なため、販売を大森ファクトリーおよび特別な訓練を受けた全国のNISMOパフォーマンスセンターに限定。ポン付けNG、取り扱い注意の本格アイテムなのだ。

 ただ、採算度外視で仕立てられたCRSは車両代、レストア代、パーツ代を含めると単純計算で数千万円の費用は掛かっており、全く同じレプリカを作るのは正直現実的ではない(それでも同じスペックで製作を依頼するオーナーはいるのだが…)。

 また、それだけの予算をかけるのであれば、巷のチューニングショップにカスタマイズを依頼したほうが、パフォーマンス面でより高いスペックを得られるのが明白。いっぽうで一般ユーザーが手の届かないほどのマシンのビルドアップを行うが、パワーやトルクといったスペックを追わないのがCRS。ではその魅力はどこにあるのか?

メーカー基準レベルでのパーツ開発を行えるのもメーカー直系の強み!

 それは、モータースポーツの技術やノウハウを生かした「マシンメイク」の手法にある。1995年の自動車部品の規制緩和により、保安基準に接触しなければ車検がOKとなったことを受けて、アフターパーツメーカーは積極的にパーツ開発を行い、ショップやユーザーのカスタマイズ熱は一気に開花。マーケットはそれまで抑圧されていた不満を解消するかのように、闇雲に出力向上を狙うパワー至上主義が主流が主流となり、ゼロヨンや最高速といった過剰な競技やテストが自動車雑誌を賑わせていた!

 NISMOはそのようなマーケットを俯瞰で見ながら、パワー志向ではなくトータルバランスを軸にしたパーツ開発を進めていた。長年の経験でレーシングカーがパワーだけでは速く走れないことを知っていたNISMOだからこそ、決断できたと言えよう!

 その開発手法はこうだ。まずはコンセプトに基づき、ノーマルの性能をトータルで底上げしたパッケージモデル(コンプリートカー)を製作。マシンが完成した段階で、装着したパーツ群を市販化する流れ。単体の交換でも高い性能を得られるが、すべてのパーツを組み合わせるとコンプリートカーに限りなく近いバランスに優れたクルマに仕上がるというわけだ。

 また、開発テストもエンジンはレース用で使うベンチで性能を確認し、必要とあれば日産自動車の設備やテストコースを使用するなど、時間をかけて自動車メーカー基準の妥協のない開発できるのも日産ワークスのNISMOならではの強み。

 そのNISMOのカスタマイズパーツ開発の礎となり、意のままに操るというコンセプトの下、生まれたのが初のコンプリートカーとなったNISMO 270R(S14型シルビアベース)とNISMO 400R(R33型GT-Rベース)なのだ。

欧州コンプリートカーメーカーのような至高のトータルバランスの良さ魅力

 1996年に発売されたNISMO400R以降、NISMOがプロデュースしたGT-Rコンプリートカーは2004年の「NISMO Z-tune」まで発売されることはなかったが、車両トータルで開発する手法は継続され、2000年ごろにはストリート向けのSチューン/サーキット向けのRチューン、チューンドECUのスポーツリセッティングなど現在のNISMOの主力となっているパーツ群が矢継ぎ早に発売されるなどNISMOカスタマイズは隆盛を極めたといっていい。

 もうひとつ、NISMOカスタマイズの特徴はパーツに保証が付くことだ。今となっては数多くのパーツメーカーが商品に保証を付けるようになったが、その先鞭をつけたのはNISMOといっていいだろう。性能向上だけでなく、パーツを付けることに信頼と安心をプラスしたことはアフターマーケットにとって非常に大きな出来事であったといえるだろう。

 大森ファクトリーが製作したCRSは1990年代から続く、NISMOカスタマイズパーツの開発手法を継承。日産自動車の施設を使った計測やストリートからサーキットまで納得いくまでテストを実施。また、開発を通じて時代に合わせた新たなパーツが生まれるなど、妥協のないマシンメイクを行う姿勢は変わらない。

 CRSはパワーやトルクといった数字に左右されることなく、開発コンセプトに合わせ、自動車メーカーのクオリティで磨き上げた至高のトータルバランスが何よりの魅力。チューニングカーのネガティブな部分を感じることなく、普通の人がさらりと乗っれ、同時に質感の高さを味わえる、まさにメルセデスベンツのAMGやBMWのMシリーズ、アウディのSシリーズといった欧州コンプリートメーカーのような仕上がりのGT-Rなのだ。

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