ブリヂストンの新世代タイヤ「レグノGR-X III TYPE RV」はどこが進化した?
2025年2月にブリヂストンが発売した新作タイヤ「REGNO(レグノ)GR-X III TYPE RV」は、ミニバンとコンパクトSUVにターゲットを絞った乗用車向け上級タイヤの最新バージョンです。モータージャーナリストの斎藤慎輔氏がトヨタ「アルファード」「クラウン クロスオーバー」、メルセデス・ベンツ「EQB」などで新旧のテストドライブを行い、進化したポイントを解説します。
商品設計基盤技術「ENLITEN」を用いた新世代タイヤ
タイヤはクルマにおける最重要部品のひとつであり、しかも普段から目に触れるものでありながらも、とくに乗用車用においては、同じようなカテゴリー製品の中の性能や特性の違いがどうにも分かりにくいものだ。
タイヤメーカーも差別化には苦慮している様子が窺えるが、そうした中においてブリヂストン(以下BS)の「REGNO(レグノ)」ブランド商品は、1981年の発売以来、たび重なる商品改良を繰り返しながら、一貫して静かで乗り心地のよいタイヤとして性能追求を行ってきた。その結果、日本における代表的な乗用車向け上級タイヤのイメージが強く根付いてきたように思う。
そのREGNOの最新商品となるのが、2025年2月に発売された「REGNO GR-X III TYPE RV」だ。このTYPE RVというネーミングからすると、RV=クロカン的な4WD向けにまでREGNOブランドを冠する快適性を付加したタイヤを売り出したのかとも思ってしまいそうだが、BSにおけるRVの定義とは、ミニバン、コンパクトSUVを指すとのことだ。
BSでは、SUV向けタイヤのプレミアム商品の位置付けにある「ALENZA(アレンザ)」をラインアップしており、中でも「ALENZA LX100」においては静粛性を重視するなど、REGNOが狙う性能特性として被るように思える面もあって、ちょっと分かりにくいところではある。
もっとも、2024年2月に発売された「REGNO GR-X III」と同様に、REGNO GR-X III TYPE RVも、BSが2019年に発表した商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」適用の新世代商品となる。ENLITENとは、製品開発から生産、使用過程まで環境への高い配慮を盛り込みながら、BSの従来製品よりも部材を薄く軽くしながら基本性能全般を高めたうえで、さらに商品特性の中で求められる性能を際立たせるというものだ。じつは、新車装着用のOEタイヤには、日本車向けにも海外メーカー向けにも一部先行して適用してきた。
タイヤの差が大きく出るミニバンでは、その進化は顕著
今回、試乗に用意されたのは、先代のトヨタ「アルファード」で旧製品(2015年発売ミニバン専用REGNO GRV II)と新製品REGNO GR-X III TYPE RVとの比較をクローズドコース内で行い、それ以外は一般公道での試乗用に新型トヨタ アルファード、レクサス「LBX」、電気自動車のメルセデス・ベンツ「EQB」のほか、日産「サクラ」といった軽自動車もあった。
まずは先代アルファードで新旧製品を後席(2列目シート)に座っての違いを体感する。タイヤサイズは235/50R18 97Vで、空気圧は車両指定に合わせてあった。
そもそもミニバンは重心高の高さに加えて車重が重いこと、フロア面積が大きい車体構造上から、2列目・3列目シートはフロアの揺れが大きくかつその収まりが悪くなりやすいこと、開口部の大きな車体のため高いボディ剛性確保が難しく共振領域も多いことなど、自動車メーカーはもちろん、装着するタイヤのメーカーもマッチングには苦心している。
このため装着タイヤによる差も大きくなりがちという中で、REGNO GR-X III TYPE RVの進化は分かりやすく現れていた。
リアシートに座っていても落ち着いた乗り心地
最初はBSの評価ドライバーの運転により、はじめに20km/h程度でのレーンチェンジで、その後は40km/hでのスラローム、60km/hでのレーンチェンジと続く。
ここで旧製品REGNO GRV IIではステアリングを切り始めてからクルマの向きが変わり始めるまでにラグを感じ、やや遅れ気味にノーズの向きが変わり始める感覚が後席にいても分かる。これに伴ってロールも遅れ気味に生じ、その後でグラッとロール角が深まるので、身体が横に振られる感覚が大きい。これは前輪の応答遅れと後輪の追従遅れが相まったことによる動きである。
対して、REGNO GR-X III TYPE RVは、ステアリングの切り込みと同時になめらかに向きが変わっていく感覚で、ロールの速度も急激な変化感が抑えられる。さらには、ロールが収束していくところでグラつき感も少ない。このため、こうした横方向の揺れが生じた際に姿勢をラクに保てるのだった。
その後は、20mmほどの厚さに200mmほどの幅だろうか、板による突起と、あとは細めのロープを乗り越えていく際の乗り心地、挙動の違いだったが、初期の入力はむしろREGNO GRV IIのほうが優しく感じる反面、揺れの収まりはあまりよくない。ここは人によってはREGNO GRV IIの乗り心地がいいと捉えるかもしれないと思えたが、揺れ残りのないスッキリ感ではREGNO GR-X III TYPE RVが断然上。首から上の縦揺れ、目線の上下動が少ないことで、落ち着きが感じられる。
ドライバーも安心して操作できる
これを自分でドライブして新旧比べると、ステアリングの初期応答性の高さと後輪がついてくる感覚、これによるなめらかなレーンチェンジ、ライントレース性の高いスラロームなど、ステアリング操作に気を使うところが減る感じとなる。乗り心地ではタイヤからコツンといった伝わりが強くなる反面、縦揺れはスーと素早く収まるといった差は後席とも同じだったが、より安定感が高く感じる。
同じコースで、先代アルファードと比較するまでもなく車体剛性もシャシー剛性も圧倒的に高く、重心高も低いクラウン クロスオーバーで新旧製品を乗り比べてみると、特性の違いは同じながらも、ステアリングの切りはじめから手応えが出て、リアが遅れなくついてくる動きは、REGNO GR-X III TYPE RVだと明確に感じさせる。これを安心感といった言葉で置き換えることもできそうだ。
ロードノイズがしっかりと抑えられている
次にREGNO GR-X III TYPE RV装着車で一般道に出てみる。まずはタイヤサイズ違いの新型アルファード2台。ここではタイヤサイズの違いで印象は少し違うことも知った。装着車両のグレード違いにより1台は17インチ(225/65R17 102H)、もう1台は19インチ(225/55R19 103V)を装着していたのだが、マッチングという意味でいうならば、乗り心地も含めて19インチのほうが好ましく感じたのは、特長でもあるすっきりとした減衰性を発揮しやすいためかもしれない。
クローズドコースでは分かりにくかったノイズ性能がここではよくわかる。REGNOはもともとパターンノイズの低さを得意としてきたが、ロードノイズは重めの音を発する印象もあった中で、そこもたしかに静かだった。ミニバンは上級車たるアルファードといえども、車体構造上からロードノイズはこもりがちとなるのだが、路面の舗装状況によらずタイヤからの音が全般に抑えられているのがわかる。
メルセデス・ベンツ EQBとのマッチングの良さに感心
それは、メルセデス・ベンツのEVモデルの中ではコンパクトサイズのSUVとなるEQB 250で乗るとより顕著だった。EVとあってパワートレイン系からの音はほとんどしないので、走行時の室内騒音はガラスを通して伝わる車外騒音と風切り音、それにタイヤからの音が大半となる。そういう中でのREGNO GR-X III TYPE RVは、このタイヤは静かだと思わせるに十分だった。
REGNO GR-X III以前のREGNOは、とくに日本車とのマッチングを重視してきた製品というイメージも持っていた中で、EQBにおいてもハンドリングを含めて違和感なく、それでいて静かというところは、従来のBSのタイヤの特徴でもあった頑丈な構造&形状のサイドウォールから、軽量化とともにしなやかさを得た「ENLITEN」による性能面の効果、進化の一面なのかもしれないと思えた。
REGNO GR-X III TYPE RVは、高重心のミニバンや、ボディサイズに対してや車重が重めのコンパクトSUVに向けて、トレッドショルダー部の剛性とパターン、それらのバランスを変えることで、REGNOらしいバランスを上手く作りこんできている。気になるとすれば、サイズラインアップで差別化されてはいるとはいえ、ALENZAとの住み分けが少し分かりにくいことだろうか。
