GT2 ストラダーレは完全にリアルスポーツの領域にあった
マセラティ新時代の象徴となる「MC20」のレーシングモデル「GT2」。その公道仕様の“スペチアーレ”として誕生した「GT2 ストラダーレ」にスペインで試乗。世界限定914台しかない、リアルスポーツの領域に達したその実力をお伝えします。
ネットゥーノには手をつけずとも十分なパフォーマンスアップ
マセラティ新時代の象徴として誕生したミドシップ2シーターカー、「MC20」。強固で軽量なカーボンモノコックボディを持つトライデント・スーパースターは、その豊穣な伝統と地力の高さに思いを至らせるまでもなく、優秀なグラントゥーリズモであると同時に、生まれながらにしてサーキットでの活躍を約束されたモデルでもあった。
はたしてMC20をベースに製作されたレーシングモデル「GT2」は、欧州ジェントルマンレースの最高峰「ファンテックGT2選手権」用マシンとして開発され、2024年は初参戦にして数々のポディウムをゲットするなど見事にチャンピオンを獲得する。ワークスではなくプライベーターへのマシン供給だったというから、かえってマシンの完成度の高さがうかがえよう。
そんなGT2マシンのパフォーマンスコンセプトを改めてロードカー向けに転用する、いわゆる“スペチアーレ”ビジネスに、マセラティはもちろんためらうことなく参入を決意した。それが2024年末に日本でも披露された世界限定914台(創業年の1914年にちなむ)、スタンダード仕様で5000万円をわずかに切るという高価なスーパーカー、「GT2 ストラダーレ」であった。
ブルーとイエローでインテリアを彩る
MC20をベースにGT2由来のデザインエッセンスをもつエアロデバイスをふんだんに盛り込んだ。フロントグリルは大きく広げられ、ボンネットやフェンダーの上部にはエアの通り道があり、サイドのインテークはより多くの空気を吸うべく大型化され、巨大なスワン型リアウイングと迫力のディフューザーを備えている。全ては主にカーボンファイバー製であり、オプションで織り模様を見せることもできる。20インチの鍛造ホイールもまたそのデザインには共通性があり、三叉の槍を3つ組み合わせたスポークデザインとした。スタンダード同様にブリヂストン ポテンザを履くが、オプションでミシュラン カップ2Rも用意する。
エクステリアだけではない。インテリアも然り。ダッシュボードまわりはレーシーに作り変えられ、鮮やかなイエローでエリア区分が示される。黄色はもちろん、コーポレートカラーのブルーと並んで生まれ故郷モデナのテーマカラーだが、同時にハードドライビング中のドライバーにとって認識しやすい色でもあった。ステアリング形状も専用で、シフトアップインジケーターが埋め込まれた。
青が目立つパーツもある。シートだ。カーボンシェルを持つサベルト製で、いかにも軽そう。事実、シートだけで20kgのダイエットになったらしい。
主に空力と軽量化、そしてシャシー制御のセッティング変更といった車両の全体的なパフォーマンスアップで十分だったということなのだろう。自慢のネットゥーノV6ツインターボエンジンには制御と排気システム以外にほとんど手を加えられておらず、最高出力アップはわずか10psにとどめた。無闇にエンジン性能を引き上げる必要のなかったことが意味する事実は、そもそもMC20用セットが優秀であったということだろう。
全ての反応がクイックな“アスリート”
スペイン屈指のリゾート地、マルベーリャを起点に国際試乗会が開催された。まずは山岳の街ロンダ郊外に存在するプライベートサーキット“アスカリクラブ”でそのパフォーマンスを存分に体験する。
MC20といえば戦闘的なレイアウト&パッケージを全て覆い隠すかのようにエレガントな衣装を着た、言ってみればスーパーモデルのようなマシンであり、そのドライブフィールもまたGT風味が強く“まろやかさ”が売りでもあった。GT2 ストラダーレは違う。もはやその性能を隠そうともしないマッチョなアスリートとなり、パフォーマンスの発露もまた完全にリアルスポーツの領域にあった。
とにかく全ての反応がクイックである。加速、コーナリング、減速、いずれもドライバーの期待を上回って速く、それらが全て連動して提供されるから、ドライバーの意思とマシンの速さは常に“イタチごっこ”を繰り返す。プロフェッショナルであればともかく、シロウト+αのアラカンドライバーは、どこのコーナーでも操作に遅れをとって地団駄踏むことになった。
前輪の動きは正確無比で、その状態を把握することもたやすい。一方、後輪はパワートレインを背負ったドライバーと見事に一体となって、思い通りの加速を促す。試乗車にはトラック仕様に必須のパフォーマンス・パック(前出のミシュランタイヤなど)が備わっていたが、これにはカーボンコンポジットブレーキも含まれる。試乗車はサーキットで集中的に使用されていたが、ストッピングパワーは素晴らしく、ハードな制動の繰り返しにも音を上げない。個人的には踏み込み初期のストロークを少しだけ長く感じたが、慣れれば問題なくコントロールできた。
カントリーロードはGT2 ストラダーレには役不足
どこからでも力強い加速をみせる。なんなら安全マージンをとって、1段上のギアを選んで走っても速い。シャシー制御は相当に優秀で、全てを任せて曲がっていく勇気があれば、どこまでも速く旋回できそうだ。なるほど、トラックで総合力を楽しむマシンに仕上がった。
サーキットからホテルまで、一般道テストも行った。流石にライドフィールはソリッドで硬い。けれどもカーボンボディのおかげで四肢をしっかり動かせているという感触はある。かなり高速走行可能なカントリーロードだったが、GT2 ストラダーレには役不足というもので、クルマの方がその力を持て余しているようにも思えた。もちろん、ゆっくりクルージングさせればいいだけの話で、硬めのフラットライド感も慣れれば大して負担にならず、さらにスポーツシートを選べば日常使いに問題はないと思われるが、そこはイタリア製のサーキット志向マシンである。もっと力を発揮したいとドライバーよりもマシンの方が常にウズウズしているかのようだった。
