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1100万円! 予想より格安だったキャディラックのEV「リリック」がようやく日本上陸…あらたな販売手法「エージェントモデル」とは?

キャデラック リリック:エンジン冷却用のラジエターを必要としないEVながら、フロントフェイスには伝統的な意匠のダミーグリルが設けられる

概要発表から4年半! ついにキャデラック「リリック」が国内デビュー

プロトタイプのオフィシャル写真と車両概要が2020年8月に発表された「キャデラック」ブランドの新型電気自動車「リリック」は、2025年春には右ハンドル仕様車を擁して日本上陸を目指すことが公約として発表されていましたが、2025年3月7日に東京都内で行われたプレゼンテーションにおいて、はじめて報道陣の前に姿を現すことになりました。

アメリカを代表する伝統の高級車ブランド、キャデラックが初めて創ったBEVとは?

キャデラック「リリック」は、ゼネラルモーターズ独自の電動プラットフォームをベースに開発されたクロスオーバーSUV。GMの最高級ブランドであるキャデラックとしては初めての量産BEVとなったこのモデルは、2022年3月にはアメリカ合衆国テネシー州スプリングヒル工場で生産開始され、まずは母国アメリカをはじめとする、左ハンドル仕様を要求するマーケットで正式リリースされた。

そののち、2023年11月にはオーストラリアおよびニュージーランド向けに右ハンドル仕様を発表。その際、2025年春に日本に導入することもアナウンスされていた。

その公約が順守されていることを証明するかのように、このほど右ハンドルの日本仕様がお披露目されたリリックは、完全新設計の専用プラットフォームを採用。出力タイプを選択できる駆動用モーターなど、電力の変換や制御、供給を統合したパワーエレクトロニクスとバッテリーセルを組み合わせた独自のモジュラーシステムで構成される。

車両の下部に沿って路面と水平に配置されたバッテリーを、前後のタイヤ間に収めることで低重心による安定性の向上と構造上の強度を確保する。前後重量配分も理想値といわれる50:50を実現した。前後2モーターからのシステムトータル最高出力は384kW (約522ps)、最大トルクは610Nmを発揮するという。

また、3つのレベルから選択可能な回生ブレーキ機能により、アクセルペダルだけで加速から停止まで行えるスムーズなワンペダルドライブを実現。ステアリングのパドルを使用した回生ブレーキの操作も可能で、パドル操作のみで完全停止まで制御できる。

リアウインドウは5ミリ厚の強化ガラスを採用

搭載されるバッテリーは95.7kWhの大容量。一充電での走行距離は510kmを達成した。自宅で通常使用する100Vで充電できるほか、200Vの電源を用意すれば充電時間の短縮が可能。さらに外出先では急速充電(日本仕様ではCHAdeMOに対応)を利用して、充電時には希望の充電終了レベルを設定できることになっている。

そしてBEVで重要視される静粛性については、前提条件としてボディの剛性を可能な限り高めたうえに、あらゆる部分に吸音材や制振材を施すことでノイズを減らしたとのこと。フロント/サイドの二重ガラスはもちろん、リアウインドウにも5mm厚の強化ガラスを採用している。

くわえて、次世代型のアクティブノイズキャンセレーションを採用。車体四隅に配置した3軸加速度センサーでタイヤからの振動を検知し、キャビン内のマイクセンサーで検知したノイズとあわせて不快な侵入音を打ち消すなど、高レベルの静寂性を追求している。

さらには高度なレーダーやカメラ、超音波センサー技術を活用し、周囲の交通を感知および監視する。アダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシストなどの運転支援システムと連動して、あらゆるシーンで事故リスクの低減に貢献するなど、パッシブセーフティも重視している。また、リアカメラミラーもズーム機能や明るさ調整に対応し、視界や視認性を向上。安全な運転環境をドライバーに提供するとのことである。

プレゼン現場で初公開された新たな販売体制

プレゼンテーションに先立って会場で流された動画では、東京都内の各名所や雪の金沢など、現代の日本を感じさせる情景をバックに快走するリリックの姿が映し出されているが、実際に日本国内での試験走行は、2023年末に国内導入を発表した直後から始まっていたとのことである。

さまざまなプロセスを経て、ついに日本でも公式の場で見ることのできたリリックは、キャデラックらしくゴージャスかつスタイリッシュなSUVといえよう。

エンジン冷却用のラジエターを必要としないEVながら、フロントフェイスには伝統的な意匠のダミーグリルが設けられる。そこには幾何学模様のようなデザインを施されたブラッククリスタル調のデコレーションパネルを据え、その両サイドに縦型のシグネチャーLEDヘッドライトが配される。これが今後のキャデラックEVのアイコン的スタイリングになるという。

プロフィールは、通常のワゴン型SUVとクーペSUVの中間のごときスリークで流麗なもの。全長約5mのサイズをうまく生かしているように感じられた。また、後方へなだらかに下降するクーペ的なルーフラインと、1967年式キャデラック「エルドラド」へのオマージュという、ルーフラインのエッジを強調する意匠のテールランプによって完結するテールエンドまで、デザインが行き届いているかに見えた。

いっぽうこの日の展示車両のインテリアは、漆黒のボディカラーと同系のモノトーンでコーディネートしたブラックの本革レザー。ただしこれはオプションで、標準仕様では動物由来ではないサステナブルな素材「インタラックス(Inteluxe)」となる。くわえて、ドアパネルには、きらめくような光の動きを生み出すレーザーエッチングのバックライトを配し「KOMOREBI(こもれび)」と名づけている。

ところで、GMでは2020年の段階で、2035年までに乗用車をBEV、そしてFCVなどによりゼロエミッション化すると宣言していた。そして、その最前線となるプレミアムブランドのキャデラックは、30年までに車両をすべてBEV化すると公式に宣言している。

サプライズ展示されたコンパクトなBEVの正体とは

じつは今回も「リリック発表会」ではなく「キャデラック ジャパン EVアナウンスメント」と銘打たれ、リリックお披露目とプレゼンに使われたホールの隣、パーテーションの向こう側のスペースでは、2026年に日本国内導入が予定されている、よりコンパクトなBEV「オプティック(OPTIQ)」もサプライズとして展示されていた。

さらには、2023年12月に本国デビューした3列シート7人乗り電動SUVの「ヴィスティック(VISTIQ)」や、2025年1月末に広報写真と概要が公表されたばかりである、キャデラック史上最速のモデルであり、615psのパワーと880Nmのトルクを発生し、0-60mph(約96km/h)加速は「ベロシティマックス」モード使用時に3.3秒を記録する「リリックV」なども、追って日本導入されることになると言明された。

なお、3月8日より受注が開始された日本仕様のキャデラック リリックはすべて右ハンドルで、販売価格は1100万円(消費税込)。在庫はすべてGMジャパンが保有し、それを国内各地のキャデラック正規代理店が仲介する新しい販売手法「エージェントモデル」でカスタマーに販売するとのことである。

上記の価格は日本全国統一で、これまでのセオリーでは各ディーラーの裁量で行われる値引きなどもないそうだが、そのぶんプライス設定は1500万円前後(?)と噂されていた事前の予測を、大きく下回るものとなった。

こうして、クルマ/販売体制とも満を持したかたちで日本上陸を果たしたリリックながら、そのかたわらでバッテリーEV自体のあり方が大きく変容していること。あるいは、多くのコンポーネンツを海外サプライヤーに頼っている生産体制ゆえに、合衆国の現政権の関税政策の進行によっては現在の価格維持にも何らかの影響が出るかもしれないことなど、まだまだ注目すべき面は山積しているかに思われる。

でも、まずはリリックというキャデラック自信作のできばえを、日本の公道上で試してみたいものである。

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