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1984年にLEDデジタルメーターを採用したアストンマーティン「ラゴンダ」!オークションで未だ継続販売中の理由

価格応談にて継続販売のアストンマーティン「ラゴンダ」(C)Courtesy of RM Sotheby's

アストンマーティン史上もっともアヴァンギャルドなスタイル

業界最大手のひとつ、RMサザビーズ社が毎年5〜6月に欧州本社と北米本社を競合させるかたちで開催する「Shift Online」。オンライン開催ということもあり、秘匿性が保ちやすい一方、出品へのハードルを低く設定している。それらの理由から個性的なクルマたちが集まっています。今回は「North America(北米)」版Shift Onlineの出品ロットのなかから、アストンマーティン史上もっとも前衛的なモデル、アストンマーティン「ラゴンダ」をご紹介します。

世界を震撼させた前衛的な4ドアGTだが意外なる歴史を持つ

1906年創業のラゴンダは、英国でももっとも古いブランドのひとつである名門ながら、第二次大戦後の1947年にデーヴィッド・ブラウンによって買収される。じつはデーヴィッド・ブラウンは、その前年にアストンマーティンを手に入れていたため、ラゴンダとアストンとは姉妹ブランドとなる。

1940年代末から1950年代中盤にかけては、ベントレーの創業者のW.O.ベントレーがラゴンダ社に移籍。のちに設計した独自の6気筒DOHCエンジンを搭載する「2.6Litre/3 Litre」を生産。1961年にはアストンマーティン「DB4」をボディを延長して4ドア化した「ラピード」が登場。総計55台ながらシリーズ生産も行われた。

それからしばしの時を経て、1974年秋に同時代のアストンマーティン「AM-V8(旧名DBS)」をラピードと同じ手法でボディを延長した、その名もアストンマーティン ラゴンダがデビューするも、翌1975年までの間にわずか7台が生産されただけ。AM-V8の改造版では、新鮮味や商品力ともに不十分だったことがうかがえる。

その反省からだろうか、1976年10月のロンドン・ショーにて衝撃的なデビューを飾ったアストンマーティン「ラゴンダ シリーズ2(Sr.2)」は、DBS/AM-V8と同じウィリアム・タウンズの作ながら、まったく異なるテイストのボディとインテリアを与えられた。極めてアヴァンギャルドなクルマだった。

メーター類はすべて、当時最新鋭のLEDによるデジタル表示

新生ラゴンダSr.2は、同時代のメルセデス・ベンツ「450SE」やジャガー「XJ12」よりも上級。価格帯ではロールス・ロイス「シルヴァーシャドウ」よりもさらに高価な、4ドアのエキゾティックカーだった。ルックスはまったくの別ものながら、ホイールベースやトレッドなどの寸法はSr.1時代とまったく同じ。鋼板溶接式プラットフォーム上に細い鋼管の枠組みを構築し、アルミパネルのボディ表皮を張るという工法も従来どおりのものとなる。

また、内装は伝統の「コノリー」社製レザーハイドを多用するものの、ダッシュボードはSr.1やAM-V8サルーンのオーセンティックなものとは一線を画した未来指向。メーター類はすべて、当時最新鋭のLEDによるデジタル表示とされた。

パワーユニットはAM-V8と共通の5340ccとなる。この時代のアストンマーティン ラゴンダ社の通例にしたがって、スペックは未公表。トランスミッションは、クライスラーの「トルクフライト」3速ATのみが設定された。

当時の先進的な装備が入手も修理も困難かつオンラインゆえに現状のコンディションが不鮮明

世界の注目を一身に集めた新生アストンマーティン ラゴンダながら、LEDメーターの実用化に手間どり、デリバリーが開始されたのは約1年半後の1978年春となってしまう。それでも、その後1985年にはV8エンジンをインジェクション化し、メーター周辺もわずかながら常識的なスタイルとした「シリーズ3」へと進化。さらに1987年にはボディのエッジをやや丸め、リトラクタブル式ヘッドライトを固定式に改装するなどフェイスリフトを受けた「シリーズ4」へと進化したのち、1990年までにシリーズ総計645台(ほかに617台説など諸説あり)が生産されたといわれている。

このほどRMサザビーズ「Shift Online:North America 2025」オークションに出品されたアストンマーティン ラゴンダは、1984年式。すなわち、アイコニックな前衛的ボディが与えられた最初期モデル「シリーズ2」の最終期に製作された1台ということになる。

このラゴンダは、非常に魅力的なマルーン色の外装に、ブラウンのパイピングが施されたタン・レザーの内装、美しいバーレッド・ウッドのキャッピングが施されている。また、この時代を反映した「NEC」社製自動車電話を残す一方で、USB接続が可能な「コンチネンタル」製ヘッドユニットが装備されている。

また、オークション出品にあたって添付されるドキュメントファイルには、1993年まで遡る販売明細書や通信文書、メモ類、過去の登録証コピー、そして一連の整備インボイスなどが含まれるとのことであった。

アストンマーティン史上ユニークな1台ではあるが…

公式オークションカタログ作成の時点では、わずか2万2437マイル(約3万6000km)しか走っていないとのことながら、2018年にはサスペンションにブレーキ、エンジン、冷却装置、エアコンディショナー、エキゾーストを修理する、大規模なサービスを受けている。

そしてRMサザビーズ北米本社は、自社の公式カタログ内で

「この希少なアストンマーティン・ラゴンダは、注目を集めること間違いなし。コレクションにユニークな1台を加えたい愛好家にとってのマストアイテムとなりつつあります」

と謳いつつ、7万5000ドル~8万5000ドル、現在のレートで日本円に換算すれば約1080万円~約1220万円というエスティメート(推定落札価格)を設定していた。

ところが、この5月28日から6月4日までの1週間を入札受付期間としたオンライン競売では、ビッド(入札)がオーナー側とRMサザビーズ北米本社側で定めたリザーヴ(最低落札価格)には届かなかったことから「No Sale(流札)」に終わり、現在でも営業部門によって「Price Upon Request」、つまりは価格応談にて継続販売とされているようだ。

たしかに、アストンマーティン ラゴンダのマーケット相場価格は「シリーズ1」まで含めて高騰状態にあるのは、このところの販売実績からしても間違いないところではある。だが、翻ってこのオークション出品車両は、最後の重整備から7年もの歳月を経ているという事実が、バイヤー側の購買意欲を促進させなかった可能性が高いと思われる。

LEDデジタルメーターをはじめ、いくつかの重要なパーツが入手困難となっているとも聞くこのモデルでは、やはり現状でのコンディションがなによりも問われるのは当然のこと。あくまでも筆者の私見ながら、現車確認のできないオンライン形式のオークションには、あまり向かない出品ロットだったのかもしれない……? と感じられてしまったのである。

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