女性が普段乗りするケンメリ。異常なこだわりを持つGT-R仕様
11.5Jという極太の深リムホイールを収めた、ベタベタに低い日産「スカイラインHT2000GT-X(通称ケンメリ)」。ボンネットの下にはメカチューンが施されたL28改3.2Lエンジンが鎮座している。このゴリゴリのハードチューン車のオーナーは、なんと女性である。日本に3台レベルと言われるほどの徹底的な「GT-R仕様」への執念と、日常の足として使いこなすための驚異的なチューニングが施されている。
4代目スカイライン「ケンメリ」と最上級グレードGT-Xの歴史を紐解く
1972年に登場した4代目日産スカイライン(C110型)は、CMのキャッチコピー「ケンとメリーのスカイライン」から「ケンメリ」の愛称で親しまれ、歴代最高の販売台数を記録した歴史的名車だ。現在にまで受け継がれるスカイラインの象徴「丸型4灯テールランプ」を初めて採用したモデルでもある。
そのラインナップにおいて、実質的なトップグレードとして君臨していたのが、今回のベース車両である「HT2000GT-X」だ。L20型直列6気筒ツインキャブエンジンを搭載し、当時の若者たちがこぞって憧れた大ヒットモデルである。GT-Xの最大の特徴は、スポーツクーペでありながら「パワーウインドウ」やAM/FMマルチラジオなどの豪華で快適な装備を標準採用していた点にある。
もともと備わっているこの便利なパワーウインドウをわざわざ取り払い、あえて不便な手巻き窓に変更してまで本物に近づける。この女性が駆るケンメリには、旧車カスタムにおける「狂気」と「ロマン」が凝縮されているのだ。
ちなみに、ケンメリを語る上で欠かせないのが、生産台数わずか197台で終わった本物の「GT-R(KPGC110型)」と、その“幻のレースモデル”の存在である。前代ハコスカが打ち立てたレース50勝の偉業を継承すべく、1972年の東京モーターショーにはゼッケン73を掲げた大迫力のレーシングコンセプトが出展された。しかし直後に世界を襲ったオイルショックと厳格な排出ガス規制により、日産はワークス活動の休止を決断する。完成していたレーシングカーが実戦を走ることは一度もなかった。
レースで戦うことすら許されなかったこの悲運のストーリーこそが、ケンメリGT-Rを今なお「幻の名車」として神格化させ、多くのファンがその姿を追い求めて「GT-R仕様」を製作する最大の理由となっている。
女性が乗るには過激すぎるエクステリアと足回りを構築
足元を飾るのは、フロント9.25J、リア11.5Jという「鎌ヶ谷ホイール加工」による極太のTOPY9穴ホイールだ。そこにトーヨーR888(225/50)を引っ張って履かせることで、圧倒的な迫力を生み出している。
このスパルタンな外観を持つクルマから奥様が降りてきたら、誰もが目を疑うはずだ。ベース車はGT-Xであるが、フロントグリルには純正のラメ入り塗装を施し、ガラスもすべて白ガラス(クリアガラス)に交換するなど、外観は限りなく本物のGT-Rに近づけられている。
パワーウインドウを手巻き化してGT-R仕様を極める
このケンメリの異常なまでのこだわりは、インテリアにこそ色濃く反映されている。ベースとなったGT-Xには便利なパワーウインドウが装備されていたが、当時のGT-Rに近づけるため、あえてモーター類をすべて外し、手巻き式のウインドウレギュレーターに変更しているのだ。
さらに驚くべきはドアの内張りである。オリジナルのケンメリGT-R(KPGC110)のドア内張りは、他グレードとは異なる特有のステッチパターンや素材感が用いられている。これと同じデザインを再現するためだけに、ベースとなる内張を加工し、その一部を切り取って特注加工で張り替えるという狂気的な徹底ぶりを見せている。ベースの切り貼り加工で本物に近づけるためには極めて高度な職人技が必要となるが、その仕上がりは見事の一言だ。ダットサンバケットシートや240km/hフルスケールメーターなど、当時モノのパーツで固められた室内は、もはや芸術品の領域に達していると言えるだろう。
フルチューンエンジンと電動パワステを組み合わせて乗りこなす
強烈なルックスに負けず、心臓部も本物志向である。ハコスカ同様にゼロヨンファクトリーで製作されたL28改3.2リッターユニットは、ASW(オートサービス渡部)86ミリフルカウンタークランクや亀有エンジンワークス89ミリ鍛造ピストン、ソレックス44Φキャブレターを組み込んだフルチューン仕様となっている。
これにOS技研のトリプルプレートクラッチや、R32用の71Cミッションを組み合わせているが、電動パワステを追加装備することで、奥様でも無理なく日常の足として使える「乗りやすさ」を見事に両立させている。速さと耐久性、そして扱いやすさという3つのポイントを高次元でクリアした、まさに究極のストリートマシンである。
妥協なき旧車カスタムを日常の足として楽しむ
夫婦で旧車という共通の趣味を持ち、本気のフルチューン仕様を日常の足として乗りこなす。実は、このケンメリのオーナーである奥様の旦那様は、先日当メディアで紹介したあのハードチューン「ハコスカ」のオーナーご本人なのだ。
夫婦揃ってL28改フルチューンのスカイラインを所有し、それぞれの愛車でストリートを駆け抜けているというから驚愕である。GT-R仕様への狂気的なまでのこだわりと、それを涼しい顔でドライブする奥様。そして夫婦で旧車ライフを極めるその姿は、効率化が進む現代において、私たちが忘れてはならない大人のロマンの究極形と言えるだろう。
スペック表
・車名:日産 スカイラインHT2000GT-X
・年式:1977年
・購入年:2019年
・エクステリア:日産純正白ガラス全面、フロントグリル純正ラメ、GT-Rオーナーズクラブバッジ
・インテリア:当時モノ・ダットサン運転席シート、日産レース用ミラー、オートルックペダルカバー、カロッツェリアレベルメーター、マッハステアリング(※原文ママ)、GT-R用5速シフトノブ、4点式ロールバー、ドア内張特注加工張り替えGT-R仕様、油圧10kgメーター、スピードメーター240km/h、タコメーター1万回転、ラムコ製メーター(油圧/水温/燃圧/油温)、ダッシュボード&コンソール前期用、天井黒色張り替え、ウインドウレギュレーターPWから手巻きに変更、後期モデルベースの完全前期仕様
・機能パーツ:電動パワステ、ゼロヨンファクトリー・L型メカフルチューン(3.2L)、ASW(オートサービス渡部)86mmフルカウンタークランク、亀有エンジンワークス89mm鍛造ピストン/77度カムシャフト、ゼロヨンファクトリーp90スペシャルヘッド、ソレックス44Φキャブレター、FJポンプ、MSDプログラマブル、日産純正デカデスビ改(大径ディストリビューターをベースに点火性能を高めた改良型デスビ)、28段オイルクーラー、3層ラジエター、カップリングファン、特注スチール60Φフルデュアルエキゾーストマフラー、R32用71Cミッション、OS技研トリプルプレートクラッチ、R200LSDデファレンシャル、等速ドライブシャフト、MK63キャリパー、ジャパン用マスターバック、FR車高調整式ショックアブソーバー
・ホイール&タイヤ:TOPY9穴ホイール 鎌ヶ谷ホイール加工(フロント14×9.25/リア14×11.5)、ダンロップ ディレッツァ(185/60)、トーヨー R888(225/50)
