トヨタの福祉車両は業界のなかで先を行く取り組み
豊田章男社長は、今年の春闘で、社員に向かって「YOUを主語に会話しているだろうか」と問いかけた。その意味は、相手の立場や気持ちで物事を考え、仕事を進めているかという自問自答である。
社長が、役員や管理職を含め組合員に対しこのことをあえて語った背景にあるのは、社内の効率化や収益の向上にばかり目が行って、相手の苦労や手間への気配りが欠けていると実感したからだろう。この言葉をさらに広げて解釈すれば、販売店や顧客のことも考えた新車開発をしているかとの問いかけにもなる。
今回の事例でも、トヨタは福祉車両については業界のなかで先を行く取り組みをしており、担当者は現場を通じた知見を豊富に得たうえであらゆる策を練っている。ユニバーサルデザインのタクシーと語るのであれば、福祉車両の担当も含めたうえで設計や開発が存分に行われていていいはずだ。タクシーともなれば、交通状況なども勘案して乗降に10分またはそれ以上かかったのでは交通の流れに阻害を生じさせる懸念も見抜けたのではないかと思う。
改善を素早く実施したのは、さすがトヨタといえる。だが、それならば、もっと現実の社会に接し、人の気持ちにそったクルマ開発がトヨタならできるのではないか。JPN TAXIの経験をきっかけに、次世代の新車開発においても、バリアフリーやユニバーサルデザインをより進化させ、標準車と福祉車両という区別をすることなく、消費者にやさしい設計に取り組んでほしいものである。
これからの時代は、健常者も障害者も区別なく、自由に移動できるクルマ(モビリティ)への要求がさらに高まるだろう。とくに新型コロナウィルスの影響による3密を防ぐ新しい生活様式のなかで、個人単位で移動できるクルマへの期待が高まるはずである。そのとき、研究・開発の部屋のなか、コンピュータのなかだけで考えたのでは、最良の回答は得にくい。
三現主義を、単に言葉だけで終わらせたり、社内の段取りのなかだけに留めたりせず、言葉通り、商品企画者や開発者は自ら事務所を出て現場を歩くことが重要だ。