サーブ独自のコダワリが凝縮された「900」
そして「ドライブ……」にも登場した「サーブ900」は、元を正せば1967年に登場した「99」をベースとしたモデルで、最初に登場したのが1978年。とはいえ、やがて「9-3」へと発展した2代目の「900」登場まで、まるでキッコーマンの特選丸大豆しょうゆのガラス瓶のように基本設計を変えず四半世紀以上、サーブの代名詞的なモデルとして存続した。
ちなみに筆者は1980年代なかごろに「900」に試乗した経験があるが、同じスウェーデンのボルボとはまた趣きの異なる、何ともスノッブなムードが強く印象に残っている。フロントガラスは俯瞰では大きくラウンドしつつもAピラーが立っていることで天地が広くなくクラシカルな雰囲気だった。さらに、乗り味もステアリングフィールも、それからアクセルを踏みこむとジワリと回転を上げるエンジン(ターボ車は踏み込むとギューン! と目覚ましい反応を見せた)など、スタイリングだけでなく走りっぷりにも強い個性を発揮していた。ターボ(2L)は1992年式のカタログの諸元表によれば、最高出力160ps/5500rpm、最大トルク26.0kg−m/3000rpmのスペック。
それと「ドライブ……」の原作に登場したカブリオレにも試乗した憶えがあるが、そのときは都心でリヤシートにも座り、キャンバストップを下ろした状態では、低い着座位置に対してソフトトップが高い位置で畳まれ、その後ろにエリマキトカゲのようなスポイラーもあったことから、バスダブに深く沈み込んだような包まれ感というか、沈み感を味わった。
残念ながらサーブは2011年に消滅
「900」で言えば、2代目以降、GMアライアンスでオペルのプラットフォームを使うクルマとなり、やがて残念なことにブランド自体が消滅することに。日本でも西武自動車に始まり、三和、ヤナセと輸入代理権が移り、当時のオーナーはいささか不便な思いをされたと思う。北米市場では「スバル・インプレッサ」をベースにマスクをサーブ車に仕立てたクルマも存在した。最後期の「9-5エステート」など、それはなめらかで心地いい走りに魅了させられたものだ。
車種ごとに個別に用意されていたカタログは今も残っている。それぞれグラフィックも装丁もスマートで作りが丁寧で、手に取って眺めているだけでもサーブの誠実な世界観が伝わってくる……そんな好きなカタログだ。たとえ映画の出演者になれなくても、サーブは、もう一度乗ってみたいブランドのひとつだ。