主催者の計らいで787Bが1周のフリー走行へ
当初、マツダ787BはグループCレースの先導車として、フォーメーションラップの先頭を走る予定であった。だが、それではマツダ787Bのグッドサウンドを観衆に聞かせることができないため、主催者と調整し、同レースのフォーメーションラップの直前に1周だけフリー走行ができるようになった。
走行前の暖機を始めると、次々に観客が集まりだし、787Bの周りを埋め尽くすことに。英国からやってきたマツダファン、ベルギーから787Bの細部を見るために自走してきた青年、ポーランドから来たという熱心なファンも暖機運転に釘付けだ。
1991年の総合優勝以来のファンだというフランス人は、地元のマツダ愛好家10数名を引き連れて来たという。787Bは、グループCパドックから押されてメゾンブランシュの内側に新設されたピットに移動。それに連なってファンの大群も一緒に移動していく。瞬く間に新設ピットビルの屋上は、マツダ787Bの走行を楽しみにしていた人々でいっぱいになった。
時間となり、寺田陽次郎がスターターに手を伸ばすと、4ローターサウンドが響き渡る。オフィシャルの合図によって、クラッチミートした寺田はフォードシケインを抜け、暴れるコールドタイヤを押さえつけた。そして、左右にマンモススタンドが見下ろすホームストレッチまでには5速全開まで加速していった。
ダンロップブリッジ、S字コーナー、テルトルルージュ、ふたつのシケインを含むユノディエールストレート、ミュルサンヌ、インディアナポリス、アルナージュからポルシェカーブを過ぎると、パーマネントサーキットに戻ってくる。コースレイアウトは31年前とほとんど変わっていない。たった1周ではあったが、余韻を残して4ローターサウンドはサルトの森に轟いた。
寺田は、「クルマもタイヤも冷えたままでしたが、なんとかグランドスタンド前では787Bの快音を聞けたのではないかと思います。いたる所で、ファンのみなさんやコースマーシャルの方々が手を振ってくれているのが見え、マツダ787Bがまだまだ愛され続けているのだな、と実感しました」と語っていた。
同様に7月2日には2回のデモンストレーション走行があり、それが終了するとLMCイベントの最中ではあったがマツダ787Bのピットエリアでは撤収作業に入った。すると、せめてエンジン始動をもう一度やってくれ、遠方から来たんだからエンジン音を聞かせてほしいというファンが次から次へと現れる。丁寧に事情を説明し、納得してもらったが、要望に応えてあげたかったな、と思った。
トムス85Cはクラストップチェッカー
一方、グループCレースに参加したトムス85Cの関谷正徳と中嶋一貴も、大活躍であった。3回ある走行の最終セッションはまさに決勝レースであり、ポルシェ956/962C、ジャガーXJR9/12、プジョー905やフロムエーニッサン90CK、アストンマーティンなどとともに走った同車は、C1bクラスでトップチェッカーを受け、関谷・中嶋は館 信秀監督、オーナーの國江仙洞氏とともにポディウムに上がっている。
予選終了時に関谷が、「速くて目が追いつかないよ、怖いねぇ」と呟いていたが、それでもしっかりと速いラップタイムを記録していたのは流石だった。
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私たちは、観客19万5000名を集めたフレンチクラシックレース「ルマンクラシック2022」の会場を後にした。世界的な感染症パンデミックが発生する前の2018年以来、4年ぶりにこの地に立ったが、この大観衆の熱気、古き良きものを大事にする底深いカルチャーに接し、改めて自動車レース発祥の地フランスは、偉大だと感じた。同時に、今回のイベントに立ち会えたことを心から誇りに思う。