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80年代の最も豪華なワゴン「ジャガーXJ-Sシューティングブレーク」とは? グッチ一族が手がけたワンオフ物件だった

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: Bonhams 2001-2022

ジュネーヴショーで華々しくデビュー

 このほどボナムズ「GOODWOOD」オークションに出品されたリンクス・イヴェンターは、ある新興ファッションブランドとのコラボ企画で製作されたもの。

 グッチ創業者の孫にして、当時のグッチ帝国の総帥アルド・グッチの息子──レディ・ガガ主演の映画『ハウス・オブ・グッチ』では、ガガの扮するパトリツィア・レッジアーニに翻弄され、失意のうちに帝国から追放されたパオロ・グッチのオーダーによるものであった。

 パオロは1978年代初頭にグッチの副社長に就任すると、それまでの上流階級から中流階級まで顧客層を伸ばそうとしたサブブランド「パオロ・グッチ」を独断で発足。ところがその新方針が、創業者である祖父グッチオ・グッチと父アルドの築いてきた「グッチ=ハイブランド」というイメージを破壊してしまう。

 パオロは、依然として帝国内で絶大な影響力を有していた父アルドの逆鱗に触れ、グッチから追放された。ところが、自社株の50%を所有する従弟のマウリツィオ・グッチと秘密裏に手を組み、父アルドを社長の座から引きずり下ろすべくクーデターを起こす。その陰で糸を引いていたのが、マウリツィオの妻であるパトリツィア・レッジアーニだった……、というストーリーは、映画でも語られていた。

 勢いを得たパオロは「パオロ・グッチ」ブランドを象徴するアイテムとして、お揃いのラゲッジを備えた限定車を作ることを決め、リンクスにその製造を依頼。20台のイヴェンターのグッチ化が計画され、その最初のカスタマイズカーが「リンクス ディゼーニョ ディ パオロ グッチ(Lynx Disegno di Paolo Gucci)」として、1990年のジュネーヴ・ショーにて発表される。

 インテリアは、ブルーラッカー仕上げのエルム(楡)材に杉綾のクロスバンドをはめ込み、インストルメントのダイヤルを変更。シートは最高級のイタリア製手染めカーフスキンを使用し、アームレストはクロコダイル調。ヘッドラインはアルカンターラで仕上げられる。ステアリングホイールは手縫いのレザーで縁取られ、ラピスラズリの半貴石がATセレクターノブにも象嵌されていた。

 パオロ・グッチ式スタイルに仕上げられたイヴェンターは、10万ポンドの値付けとともにジュネーヴ・ショーへ出展された。ところが、本家グッチ社が法的な問題を指摘したことから、ショーの2日目以降、ブースからはグッチを示すブランドロゴはすべて取り除かれ、リンクス名義に切り替えられてしまう。さらにグッチ社の顧問弁護士は、パオロにその名前を使用して製品を展開する権利はないと主張し、結局このモデルは1台限りのワンオフに終わってしまった。

 そののち、失意のパオロはグッチ・イヴェンターを人知れず売却。当時の購入者のもとで約四半世紀を過ごしたが、2010年代半ばにボナムズのオークションに二度出品。この時の落札者が、かつてリンクス社で製作を手掛けたエンジニアを見つけ出して大規模なレストアを行ったとのことである。

* * *

 今回のグッドウッド・オークション出品にあたり、ボナムズ・オークション社は7万ポンド~10万ポンド(邦貨換算約1150万円~1640万円)という、ジャガーXJ-Sとしては高めながら、極上のリンクス・イヴェンターとしては常識的なエスティメート(推定落札価格)を設定していた。

 これだけのストーリーを有する個体ならば、かなりリーズナブルなエスティメートだと思われたが、実際の競売では残念ながら「No Sale(流札)」に終わってしまったようだ。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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