クルマを文化する
REAL CAR CULTURE

AUTO MESSE WEB

クルマを文化する
REAL CAR CULTURE

AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

  • TOP
  • CLASSIC
  • 1億7600万円の最後の後輪駆動マシン世界王者! ランチア「037」はニュルブルクリンクでは宿敵アウディ「クワトロ」より速かった!?
CLASSIC
share:

1億7600万円の最後の後輪駆動マシン世界王者! ランチア「037」はニュルブルクリンクでは宿敵アウディ「クワトロ」より速かった!?

投稿日:

TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: Courtesy of RM Sotheby's

ニュルブルクリンク8分切りした伝説のマシン

 今回RMサザビーズ「LONDON」オークションに現れた037ラリーは、同じオークションにフェラーリのスペチアーレ各モデルやブガッティ「EB110」、ジャガー「XJ220」なども売りに出していたプライベートコレクター「グランツーリスモ・コレクション」から、まさしく目玉の一つとして出品されたもの。実質的には旧アバルトが運営するワークスチーム「ランチア・スクアドラ・コルセ」で参戦初期に製作され、かつてマルク・アレン選手が出会ったシャシーナンバー#319そのものである。

 前述のとおり、このマシンは1982年4月の「ラリー・コスタ・ズメラルダ」にて、伝説的なマルティーニのスポンサーカラーに彩られたワークスカー3台のうちの1台としてデビュー。マルク・アレンとコ・ドライバーのイルッカ・キヴィマキはナンバー1で走り、最初の5ステージのうち3ステージを勝ち取るのだが、残念ながらギアセレクターの故障により、シャシーナンバー#319のデビュー戦は不発に終わった。

 しかし直後の「ラリー・デッリゾラ・デルバ」ではアダルティコ・ヴダフィエリに委ねられ、クラス優勝と13ステージを獲得。037ラリーとしては初の成功を収める。その後もイタリア国内戦で試験的な出走を重ねたのち、1983年シーズンを見据えて改良を施した「エヴォリューション」仕様にアップデート。シーズン後半のWRC戦「ラリー・コートジボワール」にも出走しながら、翌シーズンのWRCフル参戦に備えた。

 そして1983年にヴァルター・ロールと契約したことは、ランチアにとって大きな転機となる。彼の契約の一部には、ドイツ国内戦に出場することも含まれていた。

 この037ラリーに搭乗したロール選手の最初のドイツラウンドは、ヴュルトカラーで走った「ADACザールランド・ラリー」。コ・ドライバーのクリスティアン・ガイストデルファーとパートナーを組んだロールは、総合2位でフィニッシュする。

 しかも驚くべきことに、練習中にこの037をニュルブルクリンク北コースのラップに持ち込み、2年後に再びアウディ・クワトロで挑んだ際にも破ることができなかった、8分切りのラップタイムを達成したという。

 その後シャシーナンバー#319は、ワークスのマルティーニ・カラーに戻され、「トゥール・ド・コルス」と「ラリー・アルゼンチン」のWRCラウンドにおいて、アッティリオ・ベッテガ/フランシスコ・マヨルガ組とともに参戦。さらに同年の「ADACラリー・ドイッチュラント」では、再びロールに委ねられる。ここで名手ロールは、第2位のライバルよりも14分以上早くフィニッシュし、すべてのステージで優勝したのだが、この素晴らしい勝利はシャシーナンバー#319のワークスキャリアの終わりを意味していた。

 1986年、この037はプライベーターに放出され、フランス国内戦のラリーに数年にわたって参戦したのち、3人のフランス人コレクターのもとを渡り歩いたとみられている。そして2019年にグランツーリスモ・コレクションに加えられて以来、走らせることなく展示されてきたことが判明している。

1億7000万円越えだけど、考えようによってはリーズナブルか

 今回のオークションにあたり、グランツーリスモ・コレクションとRMサザビーズ欧州本社は、95万~120万ポンドというエスティメート(推定落札価格)を設定。

 そして2022年11月5日に行われた競売では、104万5625ポンド、日本円に換算すれば約1億7600万円で落札されるに至った。

 ランチア037ラリーはその美しさやヒロイックな魅力も相まって、グループBマシンの中でも高い人気を誇りながらも、エヴォリューション仕様の元ワークスカーでさえも退役後には比較的多数が放出されていることから、現在の国際マーケットでも時おり見かけることもある。

 今回のオークションにおける落札価格が、あくまでこのモデルとしては高すぎもせず安すぎもしないのは、おそらくそんな理由と思われるのである。

12
すべて表示
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
著者一覧 >

 

 

 

 

 

ranking

RECOMMEND

MEDIA CONTENTS

WEB CONTENTS

 

 

 

 

 

MEDIA CONTENTS

WEB CONTENTS

ranking

AMW SPECIAL CONTENTS